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ショートケーキとティラミス
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「ねえ、同じ顔の男女が付き合うのって、変かな?」
いつものカフェにて、私の対面に座った彼女がイタズラっぽく笑っていた。ショートヘアーで、細目で、スッキリと整った顔立ちの、私とほとんど同じ顔の女性だ。
彼女はショートケーキを食べつつ、ティラミスを口に運んでいる私の様子を伺っていた。
全く、同じ顔なのにどうしてこうも違うのだろう。
真面目が服を着たような男と呼ばれる私は、不思議に思いつつゆっくりとティラミスを味わう。アイスコーヒーを少し口に含んだ。
「······かもね」
「やっぱり?」
ふふふ、と彼女は微笑んだ。
彼女との出会いは鮮明に覚えている。
場所はここだ。
当時、カフェの入口にある黒板には『王道のショートケーキが自慢です』と可愛らしく描かれていたのだが、今、座っている席と全く同じ席にて、私たちは出会った。
穏やかな陽気の春の出来事だ。
私は仕事の現場で集めたデータを整理しようとカフェに立ち入ったのだけれど、そのときはどうにもケーキを楽しむ女性客たちで賑わっていた。
そんな中での男一人だ。失敗したな、と後悔したが、仕事で必要なのだから仕方がない。相席になるとも言われたが、わりきり、私はコーヒーを頼んで店員の言われるがままに席へとついた。
目の前にいたのは、一心不乱にショートケーキを頬張っている人物だった。結局はその人が彼女だったのだが、あのときは顔がケーキの皿へと向いており、よくわからなかった。
とりあえず「相席すみません」とだけ声をかけて席に座り、PCを開いた。起動させている間にカバンの中のファイルを取り出し、PCのそばに置く。
そうこうしているうちにコーヒーができたので、私は番号の書かれたレシートを持って足早にカウンターへとコーヒーを受け取りに行った。
砂糖、ミルクを加えて、そそくさと席へと戻る。PCが立ち上がっていたので、私は置いたファイルの中から必要な書類を取り出した。
女性ばかりでどうにも居心地が悪かったので、さっさと終わらせるべく、先ほど得た資料をチェックしながらPCに打ち込んでいく。
そんな私の耳に、ふと、笑い声が聞こえてきたのだった。今と同じように、イタズラっぽい笑みだ。
気になってチラリと向いた私は、時間が止まった。同じ顔がいたのだから驚きに染まって当然だ。最初は鏡かと思ってしまったほどである。
化粧っけのない彼女は、そうして停止している私に向かってニヤニヤと頬を緩ませながら、こう言ったのだった。「もしかして私たち、どこかで出会ったことあります?」と。
それが私たちの出会いだった。
夏が近づいてきた今、カフェの入口にある黒板は『おすすめはティラミス!』となっている。
彼女との出会いを思い出してくつくつと笑う私に、彼女はイタズラを仕掛けてきた。
「やっぱりここのショートケーキは美味しいね」
「······そうだね。でもティラミスの方が好きだな」
「本当に? ほら、ショートケーキも食べてみなよ。あーん」
こんなたくさんの人がいる場所で、そんな恥ずかしいことをしてきた彼女の行為に驚いて固まっている私に構わず、彼女は私の口にケーキを近付けてくる。
少し悔しかったので、一瞬ためらったが、彼女にされるがまま平静を装って口を開けた。
私の行動に驚いたのか、一度、彼女のフォークは止まったのだが、その隙をついて私はショートケーキを自身の口に入れた。確かにショートケーキは美味しかった。
「なっ!?」
顔を赤らめた彼女が、フォークをぎこちなく手元に戻した。落ち着かない様子で視線をウロウロさせたあと、私に顔を固定して言った。
「なんか······、恥ずかしいね」
「そう? でもキミのケーキはとても美味しかったよ」
本当は私も恥ずかしかったのだけれど、何食わぬ顔で言ってみせた。いつもイタズラされるのだ。このぐらい、お返ししたって大丈夫だろう。
「そ、そりゃあ、ここのケーキは美味しいからね」
「そうだね。甘過ぎず、しつこくなく。大人も楽しめる、何度でも味わいたくなるケーキばかりだ」
「でしょ?」
なぜか自慢げに彼女は胸を張っていたので、今日は私からイタズラをしてみることにした。
ティラミスをフォークで小さく切り取り、彼女の唇へと慎重に移動させる。仕返しだ。ビックリしている彼女に、私は追撃をしたのだ。
「ほら、ティラミスも食べてみなよ」
落ち着かないのか、彼女は周囲をキョロキョロと確認した後、えいっ、とティラミスを食べた。頬を赤くした彼女はとても魅力的だった。
「美味しい?」
「······美味しい」
「そうだろう?」
微笑むと、彼女は唇を尖らせ、小さく甘い不満を口にした。
「もぉ、ズルいよ」
「いつもやられているからね」
くつくつと笑う私にポカンとした彼女は、しばらくして目尻を下げた。
「そか」
「うん、そう」
「そかそか」
「うん、うん」
「んー、それなら仕方ないね」
誤魔化すように手を組んで平返し、彼女は大きく伸びをした。そしてニッと表情を緩めて私に言った。
「でも、私はショートケーキの方が好きかな」
「ティラミスも美味しいけどね」
「そだね」
「うん、そだね」
「そか」
「うん」
「そかそか」
「うん、うん」
「そっかー······。ティラミスも美味しいのかー······。うん! ケーキに罪はないっ! って、ことだね」
「そだね」
そう結論を出した彼女は、その日を境に、化粧をするようになった。
いつものカフェにて、私の対面に座った彼女がイタズラっぽく笑っていた。ショートヘアーで、細目で、スッキリと整った顔立ちの、私とほとんど同じ顔の女性だ。
彼女はショートケーキを食べつつ、ティラミスを口に運んでいる私の様子を伺っていた。
全く、同じ顔なのにどうしてこうも違うのだろう。
真面目が服を着たような男と呼ばれる私は、不思議に思いつつゆっくりとティラミスを味わう。アイスコーヒーを少し口に含んだ。
「······かもね」
「やっぱり?」
ふふふ、と彼女は微笑んだ。
彼女との出会いは鮮明に覚えている。
場所はここだ。
当時、カフェの入口にある黒板には『王道のショートケーキが自慢です』と可愛らしく描かれていたのだが、今、座っている席と全く同じ席にて、私たちは出会った。
穏やかな陽気の春の出来事だ。
私は仕事の現場で集めたデータを整理しようとカフェに立ち入ったのだけれど、そのときはどうにもケーキを楽しむ女性客たちで賑わっていた。
そんな中での男一人だ。失敗したな、と後悔したが、仕事で必要なのだから仕方がない。相席になるとも言われたが、わりきり、私はコーヒーを頼んで店員の言われるがままに席へとついた。
目の前にいたのは、一心不乱にショートケーキを頬張っている人物だった。結局はその人が彼女だったのだが、あのときは顔がケーキの皿へと向いており、よくわからなかった。
とりあえず「相席すみません」とだけ声をかけて席に座り、PCを開いた。起動させている間にカバンの中のファイルを取り出し、PCのそばに置く。
そうこうしているうちにコーヒーができたので、私は番号の書かれたレシートを持って足早にカウンターへとコーヒーを受け取りに行った。
砂糖、ミルクを加えて、そそくさと席へと戻る。PCが立ち上がっていたので、私は置いたファイルの中から必要な書類を取り出した。
女性ばかりでどうにも居心地が悪かったので、さっさと終わらせるべく、先ほど得た資料をチェックしながらPCに打ち込んでいく。
そんな私の耳に、ふと、笑い声が聞こえてきたのだった。今と同じように、イタズラっぽい笑みだ。
気になってチラリと向いた私は、時間が止まった。同じ顔がいたのだから驚きに染まって当然だ。最初は鏡かと思ってしまったほどである。
化粧っけのない彼女は、そうして停止している私に向かってニヤニヤと頬を緩ませながら、こう言ったのだった。「もしかして私たち、どこかで出会ったことあります?」と。
それが私たちの出会いだった。
夏が近づいてきた今、カフェの入口にある黒板は『おすすめはティラミス!』となっている。
彼女との出会いを思い出してくつくつと笑う私に、彼女はイタズラを仕掛けてきた。
「やっぱりここのショートケーキは美味しいね」
「······そうだね。でもティラミスの方が好きだな」
「本当に? ほら、ショートケーキも食べてみなよ。あーん」
こんなたくさんの人がいる場所で、そんな恥ずかしいことをしてきた彼女の行為に驚いて固まっている私に構わず、彼女は私の口にケーキを近付けてくる。
少し悔しかったので、一瞬ためらったが、彼女にされるがまま平静を装って口を開けた。
私の行動に驚いたのか、一度、彼女のフォークは止まったのだが、その隙をついて私はショートケーキを自身の口に入れた。確かにショートケーキは美味しかった。
「なっ!?」
顔を赤らめた彼女が、フォークをぎこちなく手元に戻した。落ち着かない様子で視線をウロウロさせたあと、私に顔を固定して言った。
「なんか······、恥ずかしいね」
「そう? でもキミのケーキはとても美味しかったよ」
本当は私も恥ずかしかったのだけれど、何食わぬ顔で言ってみせた。いつもイタズラされるのだ。このぐらい、お返ししたって大丈夫だろう。
「そ、そりゃあ、ここのケーキは美味しいからね」
「そうだね。甘過ぎず、しつこくなく。大人も楽しめる、何度でも味わいたくなるケーキばかりだ」
「でしょ?」
なぜか自慢げに彼女は胸を張っていたので、今日は私からイタズラをしてみることにした。
ティラミスをフォークで小さく切り取り、彼女の唇へと慎重に移動させる。仕返しだ。ビックリしている彼女に、私は追撃をしたのだ。
「ほら、ティラミスも食べてみなよ」
落ち着かないのか、彼女は周囲をキョロキョロと確認した後、えいっ、とティラミスを食べた。頬を赤くした彼女はとても魅力的だった。
「美味しい?」
「······美味しい」
「そうだろう?」
微笑むと、彼女は唇を尖らせ、小さく甘い不満を口にした。
「もぉ、ズルいよ」
「いつもやられているからね」
くつくつと笑う私にポカンとした彼女は、しばらくして目尻を下げた。
「そか」
「うん、そう」
「そかそか」
「うん、うん」
「んー、それなら仕方ないね」
誤魔化すように手を組んで平返し、彼女は大きく伸びをした。そしてニッと表情を緩めて私に言った。
「でも、私はショートケーキの方が好きかな」
「ティラミスも美味しいけどね」
「そだね」
「うん、そだね」
「そか」
「うん」
「そかそか」
「うん、うん」
「そっかー······。ティラミスも美味しいのかー······。うん! ケーキに罪はないっ! って、ことだね」
「そだね」
そう結論を出した彼女は、その日を境に、化粧をするようになった。
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