面影

aki

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イチゴのタルトとモンブラン

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「ねぇ? この子はどっちに似ると思う?」

 いつものカフェにて、私の対面に座った彼女がイタズラっぽく笑っていた。妻となった彼女は、相も変わらずイタズラ好きで、私を潤してくれる。
 妻はイチゴのタルトを口に入れた。そして「ん、美味し」と幸せそうに笑い、お腹を愛しそうにそっと撫でている。妻は妊娠五ヶ月だ。穏やかに、けれども確実に大きくなっていく姿には、男の私は驚くばかりだ。
 全く、同じ顔なのにどうしてこうも違うのだろう。
 男ゆえにお腹が大きくならない私は、不思議に思いつつモンブランを味わう。ついでにアイスコーヒーを少し口に含んだ。

「······どうかな」
「ね? どっちなんだろうね」

 ふふふ、と彼女は微笑んだ。
 彼女へのプロポーズは鮮明に覚えている。
 場所はここだ。
 当時、カフェにある入口の黒板には『イチゴのタルトが絶品!』と可愛らしく描かれていたのだが、今、私たちが座っている席と全く同じ席にて、私は彼女へプロポーズをした。
 静かに雪が降る、緑と赤の季節の出来事だ。
 私は出会ったときと全く同じ席を予約して、彼女をカフェに誘った。
 私が事前に「プロポーズをしたいから」とカフェに頼み込んでお願いしたのだが、顔馴染みということもあってか、繁忙期で忙しかっただろうにカフェ側が快く受け入れてくれた形だ。もうこのカフェには一生頭が上がらないだろう。
 いつもと同じように対面へと座る、あのときとは違って化粧をしている彼女はとても綺麗で、もう外では同じ顔だとは思えないぐらいだ。
 以前、そう思ったと伝えたことがあるのだが、そのとき彼女はニヤリと口元を緩ませて、私に「でしょ? あなたもメイクをしてみる?」と言っていた。慌てて否定する私に、彼女は快活に笑ったのだった。
 そんな私たちなのだが、いつもの場所に座っているにも関わらず、あの日はお互いに真剣で、お互いに緊張していて、お互いに顔を強張らせていた。
 まるで鏡のようだと思ったのだが、それは彼女も同じようで、二人して同時に笑った。それで緊張が解れた私たちはいつものようにケーキを頼んだのだった。
 彼女はショートケーキ。私はティラミスだ。「やっぱり今日はショートケーキでしょ」「いいや、今日だからこそティラミスなんだよ」なんて軽口を口にしながら、二人で甘味を楽しんだ。
 それからお互いにプレゼント交換だ。彼女はマフラーを私に渡し、私も彼女にマフラーを渡した。もちろん違うマフラーを交換していたのだが、同じような選択をしたことに二人で笑った。
 彼女は明るく、私はくつくつと。
 そうして交換が終わってから、私は指輪を渡した。「結婚して欲しい」と言葉を添えて。
 彼女は「同じ顔の男女が結婚するのって、変じゃないかな?」と問いかけてきたけれども、私は「変じゃないよ」と答えた。
 以前の質問と似たような内容に、私は堂々と答えることができたのだ。そしてそれは彼女も同じようで、「やっぱり?」と恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。私たちは同じ顔をしていたと思う。
 それが私たちの大切な日の出来事だ。
 秋が近づいてきた今、カフェの入口にある黒板は『今が旬! 大人気、季節限定モンブラン!』となっている。
 妻へのプロポーズを思い出して微笑む私に、妻はイタズラを仕掛けてきた。

「やっぱりペアルックは恥ずかしいよね?」
「······そうだね。さすがに恥ずかしいね」
「本当に? でも同じ指輪をしているよね? できるんじゃないかな? ほら、今から着てみようよ」

 こんなたくさんの人がいる場所で、そんな恥ずかしいことを言ってきた妻の行為に驚いて固まっている私に構わず、妻は羽織っていたカーディガンと同じものをカバンから取り出して私に手渡ししてきた。
 少し悔しかったので、一瞬ためらったが、彼女にされるがまま平静を装って受け取った。
 私の行動に驚いたのか、一度、妻の手が止まった。その隙に私は妻のカーディガンと同じものを羽織る。確かに、体型なども合っていた。化粧をしてしまえば瓜二つかもしれない。
 
「そっくりかい?」
「へっ!?」

 顔を赤らめた妻が、ぎこちなく手を膝に戻した。落ち着かない様子で視線をウロウロさせたあと、私に顔を固定して言った。

「なんか······、ペアって恥ずかしいね」
「そう? でもキミとの指輪は同じものだよ?」

 本当は私も非常に恥ずかしかったのだけれど、何食わぬ顔で言ってみせた。いつもイタズラされるのだ。このぐらい、お返ししたって大丈夫だろう。

「そ、そりゃあ、結婚指輪だからね」
「そうだね。このカフェで出会って、プロポーズして。こうして子どももできた。二人の、大切な指輪だ」
「ふふふっ。でしょ?」

 なぜか自慢げに彼女は胸を張っていたので、今日は私からイタズラをしてみることにした。
 カーディガンを少し着崩し、目の前にいる妻のように姿勢を正す。仕返しだ。恥ずかしそうに、けれども嬉しそうにしている妻に、追撃をしたのだ。

「ほら、化粧もしてみたら似合うかもしれないよ? キミより似合うかもしれない」

 落ち着かないのか、彼女は周囲をキョロキョロと確認したのだけれど、結局はいつものように明るく笑い出した。

「似合ってるよ」
「そう?」
「うん、似合ってる」

 そして彼女は反撃を開始した。

「それじゃ、メイクしてみようか」
「えっ?」
「メイクしよう」
「本当に?」
「本当に」
「嘘じゃなくて?」
「嘘じゃなくて」

 そう言って妻は無慈悲にも自身のメイク道具をテーブルに置いた。存在感のある高級品たち。中にはいつも妻が使っている有名ブランドもある。
 しまった。こんな展開になるなんて思いもよらなかった。
 私は誤魔化すように咳払いをする。しかしながら誤魔化しきれないのは明確だったために、私は妻へ敗北宣言をした。

「負けました。メイクはさすがにできないよ」
「そう?」
「うん、恥ずかしすぎてできない」
「そか」
「うん」
「そかそか」

 妻は勝ち誇った表情で、両手を組んで平返し、大きく伸びをした。そしてニッと口元を緩ませて言った。

「似合うと思うんだけどなぁ」
「カーディガンで許して?」
「うーん、今日はそこで手を打ちましょう」
「おお、助かります、クイーン」
「ふふふ、仕方ないなぁ。許してしんぜよう、我が夫よ」
「ありがたき幸せ」
 
 私たちはそうしていつものカフェで、いつものようにケーキを食べ、いつものように笑い合った。
 ここのモンブランとイチゴのタルトはオススメだと、二人で食べ合いながら。
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