トキノハナと宝石の君〜玻璃の花は翠玉の夢を見る。しくじった私を軟禁して溺愛する理由を知りたいのですが〜

まつのことり

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翠玉の章・溺愛√(ハッピーエンド)

馬車の中で。

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 王都へ向かう日がやってきました。

「こんなに乗り心地のいい馬車、初めて…」

 こんな贅沢をしていいのでしょうか。
 スプリングとクッションの効いた高級な座席に私は浮かれてしまう。

「このランクでないとすぐお尻が痛くなり、座っていられなくなりますからね」

「王都まで馬車を飛ばしても5日はかかります。
 それまでゆっくり旅気分で帰りましょうか」

 リュートが既に単独で戻ったので、
 護衛の方は私達を警護しながら共に帰国するそうだ。

 今この馬車の中には私とカナタだけだが、御者席と、並走するように馬に乗った護衛の方達が陣形を組んで進んでいた。

 元けちなスリ師としては真逆なロイヤルな扱いをされ、恐縮してしまう。

 もちろん、今回の旅支度もカナタ監修で。
 言うまでもない感じにはなっている。

(ほんと、好きだよね。ペアルック)

 頰杖をつきながら、目の前に座るカナタを見やる。

(綺麗な顔だね。安定の)

 カフスボタンは青黄玉ブルートパーズが固定になってるのが、
 嬉し気恥ずかしい心地だ。

 目が合うと、柔らかく笑ってくれるが

(何となく、疲れてそう? )
 顔色がすぐれないような。

「カナタ、疲れてる? 顔色が優れないようだけど……」

「そんなことありませんよ、あなたのほうこそ、無理はしないでくださいね。寝てもいいんですよ」

「最近は金鷲の夢も見ないでよく眠れるから、元気だよ。」

「ええ、よく眠れてますよね、あなたは。
 私の気も知らないで……まぁ、いいんですけど」

 少し拗ねたような言い方に、流石に意図に気がつき頬を染める

「ごめんね?つい気持ちよくて…」

 ……って、言葉選び間違った気がする。

「いやいやすごく安心するっていうのか、守られてる感じがして、暖かくてつい…」

「気持ちよくてあったかいんですね? それは良かった。
 でも、もっと先の境地にお連れしたいんだけどね。
 …私の色に染まるのはいつになることやら」
 言葉尻に艶を増すカナタに私は居心地が悪くなる。

「この話はやめよう!うん」
「私の姫様は照れ屋ですねぇ」
(いたたまれない…)

 慌てて取り繕うとする恋愛初心者の様を満足そうに見やるカナタは少し意地悪だ。

「その守りが、鉄壁であって欲しいのですがね.切に。」

 すとん、と向かいに座っていたカナタは私の隣に移動してくる。

 やっぱり隣がいいですね、と私のネックレスにふれてカナタは微笑む。

 ぽわっと暖かい。
 この感覚はいつもので。
 決まって私は眠たくなってしまう。

 うとうと、瞼が重くなり、意識が微睡まどろみに沈んでいく。

「おや。やっぱり眠り姫ですね。
 私の魔力を送るとシャットダウンする…?ただ安心してくれているなら、いいのですが」

 疑心暗鬼が強くなる。
 眠るハナキに肩を貸しながら、カナタも目をつむる。
 いかなる時も離れないように手を握りしめながら。
 束の間の休息が訪れる。


 ・・・・・・

 あったかくて幸せな夢にいったはずなのに。
 場面は暗転する。こうなるとどうなるかはもういうまでもない。

「姫君、翠玉すいぎょくの姫。聞こえるかい? 」

「……誰? 」

「やっと繋がったね、翠玉すいぎょくの姫。」

「…金の鷲?」

「何それ、俺のこと?それは勇ましいね。
 君を攫う金の鷲、いいねぇ」

「意思の疎通ができる…?」

「糸は切れていないと言っただろう?
 ま、翠玉の王子が油断してくれたので今、君に接続できただけだけど。
 それ以上は何も出来ないから安心していいよ、まだね?」

 ここは夢の中なのだろう。久々に見た金鷲の夢。
 いつも一方的に
 話しかけられていたのに会話が成立している…
 姿形がわかるわけではないので、金の鷲がどのような人物かまではわからない。

「何故あなたは私に構うの?
 もう放っておいてはくれない?
 それに私は姫じゃないし。」

 ずっと気になっていた姫呼ばわりを否定する。

「それは出来ない相談だな」

 きみは姫だし、いるべき場所もそこじゃない。
 会いにいくよ、いまは翠玉の姫。」

「意味わからないよ!こなくていいし」

 意思の疎通ができているが、まるで話が通じないように感じる。


「リミットだな。忌々しいね。」


「……君に似合うのは、翠玉すいぎょくだけじゃない。
 それをわからせてあげよう。
 今は翠玉すいぎょくの姫。いずれは…」

 金色の混じる宵闇がゆっくりと晴れていく。

「またね、姫君」

「何だったのよ…アレは」

 目を覚ました私は、不可思議な夢に不快に思うも、前ほどの恐ろしさは感じないで済んだ。

 隣で眠るカナタの端正な顔を眺める。
 疲労の色が濃いので、少しでも休んでほしい。

 カナタの守りは確かに私の中に満ちている。
 ほわっと暖かい魔力に守られているので、怖くない。

「いつも、ありがと」

 手を繋いでくれていたカナタの手をキュ、と握りしめ、私は窓の外に目をやった。
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