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翠玉の章if・執着√(共通の後にこちらの章に続く)
いびつなトライアングル(※一部共通)
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エミリさんたちカナタのメイドさんがたも引き上げて、リュートも一足先に戻ったので、今は私とカナタの2人で過ごしていた。
ここで過ごす最後の夜だ。
リビングのソファで並んで腰掛ける。
半身にカナタの温度を感じるので妙に意識してしまって心臓が忙しない。
「急ですが、明日には発てそうですね。 なるべく急いで戻らないとならなそうですしね。
はあ。 もう少しゆっくりあなたと過ごしたかったですね」
割と本気めで大きなため息をつくカナタに私は思わず笑ってしまう。
「けっこう一緒にいたじゃない? なんだかんだで、このまちで過ごす時間は楽しかったよ」
追い掛けられて、連れ回されて、鬼ごっこして。
……好きな人が出来て。
気掛かりはまだあるが
大変濃い1ヶ月だった。
無機質だった私の世界がキラキラと輝いた。
カナタの玻璃の花みたいに、なれたのだろうか。
(だとしたら、嬉しいな)
「ハナキ。
王都に帰ったら、やることがありすぎるのは目に見えてます。
こうやって、あなたといられる時間も大幅に削られる……」
私の腰に手を回し、カナタは少し強引に引き寄せ、密着する。
「ば、バカじゃないの……もう。
ずっと一緒にいるんでしょ? これからいくらでもできるじゃない」
「へえ? いくらでもしていいんですか?
それはそれは、楽しみですね?」
にこ、と笑う目が怖い。
「そう言う意味じゃな……」
私の非難はカナタの唇に封じられる。
恨みがましく見たところでカナタには通じない。
熱をはらんだ翠玉の瞳に翻弄される。
私はこの目にとても弱い。
「あなたは本当に可愛いね。 何度味わっても、足りない。 もっともっと、欲しくなる」
息継ぎのたびに囁く甘い声に、私の脳も甘く痺れて。
「……愛してる。ハナキ」
自然に囁かれる愛の言葉が、切なく響いて。
好きが溢れてしまいそう。
カナタの全てを受け入れてしまいたくなる。
次第に深くなる口付けと共に
私の意識も深い闇に落ちていく。
・・・・・・
「……あなたの全部を染めてしまいたいのに、ね」
キスを交わすと、落ちるように眠ってしまう。
規則的な寝息を立てるハナキの髪をひとふさ指に絡める。
曖昧なまま気持ちを確かめあえたわけではないが、
唇は許してくれる。
(それが答えでもいいのではないか)
ハナキの気持ちは、少しは自分に向けてくれている、とは思うが……
言葉にしないのはこうにも不安にさせられる。
ゆっくりでいい、自分の全部を受けとめるには時間がかかるだろうから。
そう思ってはいるが、焦る気持ちも相反する。
カナタの意識に滑り込むのは黒い影。
無理強いも、彼女の意識がない中で契るのも本意じゃない。
なるべく近くでハナキに魔力を送り込むようにしているが、いつまた悪夢が出てくるか、気が気ではない。
気を抜くと、ハナキの玻璃の花に金の闇が纏わりつくから。
カナタの魔力は祝福で増幅しているだけで潤沢な方ではなかった。
金の闇には魔力の匂いがする。
彼女を遠隔で支配しようとしているのが見え見えで気分が悪い。
腹立たしいが多大な魔力の持ち主なのは間違いない。
胎の内から魔力を満たす……契っていない状態だと押し負けるかもしれない。
掻っ攫われてたまるか。
もう誰にも奪わせない。
たった一つの望みを。
常に魔力を供給しているので、疲労もかなり蓄積しているが、ハナキには気付かせないようにしたい。
(私はいつでもカッコつけていたいんだ。 ハナの前では)
夢の主が何者なのかはカナタにはまだわからない。
執拗にハナキを狙う。
悪夢を見出した時期を思うと、例の事件と関わりがあるに間違いはないが、
どんなに探って洗い出しても、姿が見えてこない。
(私への嫌がらせ、ではなく、初めからハナキが目的だった……?)
(ハナキが刻の巫女姫と関わりがあると気づいたものがいる)
国内か、それ以外か。
その線もなくはない。
因果の糸が集中する。 愛しい眠り姫。
あなたを私の中で護りたい。
あなたを脅かすものは須く、排除すると決めた。
カナタはハナキを腕に抱いたまま、怜悧な刃の如く鋭い視線で、空を睨む。
・・・・・・・・・・
開け放たれた大きな出窓のふちに腰掛けて
鼻歌まじりの褐色の肌の青年。
黒い長い黒髪を靡かせて
夜が似合う美しい男が
指先で弄ぶのは片耳だけの翠玉のイヤリング。
翠玉の姫君。あなたに届けよう。
あなたが落としたモノを。
あなたが無くしたモノを。
私は、知ってるよ。
翠玉の海を超えて、宵闇の船に乗って。
夢も月も捨て置いて
一緒においで。
イヤリングにそっと口付けて、想い人に届くように。
今宵もあなたに会いに行こうか。
「最後の幕が上がるね、姫様」
多分、もうすぐ。
ここで過ごす最後の夜だ。
リビングのソファで並んで腰掛ける。
半身にカナタの温度を感じるので妙に意識してしまって心臓が忙しない。
「急ですが、明日には発てそうですね。 なるべく急いで戻らないとならなそうですしね。
はあ。 もう少しゆっくりあなたと過ごしたかったですね」
割と本気めで大きなため息をつくカナタに私は思わず笑ってしまう。
「けっこう一緒にいたじゃない? なんだかんだで、このまちで過ごす時間は楽しかったよ」
追い掛けられて、連れ回されて、鬼ごっこして。
……好きな人が出来て。
気掛かりはまだあるが
大変濃い1ヶ月だった。
無機質だった私の世界がキラキラと輝いた。
カナタの玻璃の花みたいに、なれたのだろうか。
(だとしたら、嬉しいな)
「ハナキ。
王都に帰ったら、やることがありすぎるのは目に見えてます。
こうやって、あなたといられる時間も大幅に削られる……」
私の腰に手を回し、カナタは少し強引に引き寄せ、密着する。
「ば、バカじゃないの……もう。
ずっと一緒にいるんでしょ? これからいくらでもできるじゃない」
「へえ? いくらでもしていいんですか?
それはそれは、楽しみですね?」
にこ、と笑う目が怖い。
「そう言う意味じゃな……」
私の非難はカナタの唇に封じられる。
恨みがましく見たところでカナタには通じない。
熱をはらんだ翠玉の瞳に翻弄される。
私はこの目にとても弱い。
「あなたは本当に可愛いね。 何度味わっても、足りない。 もっともっと、欲しくなる」
息継ぎのたびに囁く甘い声に、私の脳も甘く痺れて。
「……愛してる。ハナキ」
自然に囁かれる愛の言葉が、切なく響いて。
好きが溢れてしまいそう。
カナタの全てを受け入れてしまいたくなる。
次第に深くなる口付けと共に
私の意識も深い闇に落ちていく。
・・・・・・
「……あなたの全部を染めてしまいたいのに、ね」
キスを交わすと、落ちるように眠ってしまう。
規則的な寝息を立てるハナキの髪をひとふさ指に絡める。
曖昧なまま気持ちを確かめあえたわけではないが、
唇は許してくれる。
(それが答えでもいいのではないか)
ハナキの気持ちは、少しは自分に向けてくれている、とは思うが……
言葉にしないのはこうにも不安にさせられる。
ゆっくりでいい、自分の全部を受けとめるには時間がかかるだろうから。
そう思ってはいるが、焦る気持ちも相反する。
カナタの意識に滑り込むのは黒い影。
無理強いも、彼女の意識がない中で契るのも本意じゃない。
なるべく近くでハナキに魔力を送り込むようにしているが、いつまた悪夢が出てくるか、気が気ではない。
気を抜くと、ハナキの玻璃の花に金の闇が纏わりつくから。
カナタの魔力は祝福で増幅しているだけで潤沢な方ではなかった。
金の闇には魔力の匂いがする。
彼女を遠隔で支配しようとしているのが見え見えで気分が悪い。
腹立たしいが多大な魔力の持ち主なのは間違いない。
胎の内から魔力を満たす……契っていない状態だと押し負けるかもしれない。
掻っ攫われてたまるか。
もう誰にも奪わせない。
たった一つの望みを。
常に魔力を供給しているので、疲労もかなり蓄積しているが、ハナキには気付かせないようにしたい。
(私はいつでもカッコつけていたいんだ。 ハナの前では)
夢の主が何者なのかはカナタにはまだわからない。
執拗にハナキを狙う。
悪夢を見出した時期を思うと、例の事件と関わりがあるに間違いはないが、
どんなに探って洗い出しても、姿が見えてこない。
(私への嫌がらせ、ではなく、初めからハナキが目的だった……?)
(ハナキが刻の巫女姫と関わりがあると気づいたものがいる)
国内か、それ以外か。
その線もなくはない。
因果の糸が集中する。 愛しい眠り姫。
あなたを私の中で護りたい。
あなたを脅かすものは須く、排除すると決めた。
カナタはハナキを腕に抱いたまま、怜悧な刃の如く鋭い視線で、空を睨む。
・・・・・・・・・・
開け放たれた大きな出窓のふちに腰掛けて
鼻歌まじりの褐色の肌の青年。
黒い長い黒髪を靡かせて
夜が似合う美しい男が
指先で弄ぶのは片耳だけの翠玉のイヤリング。
翠玉の姫君。あなたに届けよう。
あなたが落としたモノを。
あなたが無くしたモノを。
私は、知ってるよ。
翠玉の海を超えて、宵闇の船に乗って。
夢も月も捨て置いて
一緒においで。
イヤリングにそっと口付けて、想い人に届くように。
今宵もあなたに会いに行こうか。
「最後の幕が上がるね、姫様」
多分、もうすぐ。
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