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そして後日、遥は自分の意志で、イアン・セーガンに連絡を入れた。電話を掛けるとイアンは多少驚いたようだったが、遥が話をしたいと申し入れると、すぐ日時と場所を指定してきて、会う段取りをつけてくれた。
それから遥は約束の日に、待ち合わせ場所の駅前にある喫茶店へと向かった。喫茶店に着いた彼女は、外に設けられたテーブルで、イアンが何かを飲みながら彼女に向かってゆらゆらと手を振っているのに、すぐ気がついた。
遥は彼のいるテーブルまで行って、彼らしくもなく楽しげに、自分を見ているイアンの前に腰掛けると、ちょっと皮肉を込めて言った。
「今日は手荒な事はしないのね。」
イアンは飄々と答えた。
「だって今回は君の方から会いたいって言ってきたからね。
―まぁ、僕から逃げ出すこともないだろうと思って。
さてさて遥さん。ところで一体、何の話だろうね?」
遥はじっとイアンを見て、しばし沈黙していたが、それから探りを入れるように言った。
「イアン、あなたにどうしても聞きたい事があるの。」
「うん。それは何?」
「もし、―もし、あなたが異世界に行けたなら、そこであなた達、・・・つまりニューカマーのメンバーである人達は、何をするつもりなのかしら?」
「なるほど。それは大雑把に言えば、僕らの理念を知りたいって事だね?
そうだな。僕らは自分達の目標として、“共存”という思想を掲げている。」
「共存。」
遥はイアンの言葉を繰り返した。
「そう。
今の地球の世界では、どこでも弱者と強者が存在するだろう。そして強いものが生き残り、弱いものは淘汰される。・・・それが当たり前とされてきた。
でも僕らはそろそろそういう世界観から、次のステージに上がる時期が来ている、と考えている。それは人間だけの利潤を考えるのではなく、この大いなる地球の恵みである自然や、立場の弱いものと共存し、そうやって世界を本当の意味で“調和”させて、真の理想の社会をつくること。
それが僕らの目的であり、最終的な目標でもあるんだ。しかし・・・。
地球でそんな僕らの願いを叶える事は、おそらくできないだろう。この世界はあまりに色々な物が壊れすぎていて、もう手遅れの状態にあると僕らは考えている。それは生態系の事であったり、社会の事であったりするのだけれどね。
―そしてこの破滅に向かう流れはきっと、誰にも止められない。
そこで僕らは新たな世界に行き、決して選民思想というわけではないけれど、僕の思想に共鳴する進歩した考えを持つ人々と共に、
“第二の世界”
・・・つまり新たな地球の世界を作り出そうとしているんだ。その場所として僕らには、『異世界』の存在がどうしても必要なのさ。」
そうイアンは語った。遥は両手を組み、真剣にイアンの話を聞いていた。そしてイアンはひと口飲み物を飲むと、物問いたげな目で遥を見つめて言った。
「―何かあったのかい?」
「えっ。」
「何か困った事があったから、僕に会いに来たのかな、と思って。だって以前に僕は、何か困った事があったら僕の所においで、と言っておいてあったからね。
―そうでもないと、自ら僕と会おうとは思わないんじゃないだろうか。」
遥は思わず黙り込んだ。するとイアンは眉間に皺を寄せて、話を続けた。
「実は僕は今、多少焦っているんだ。
―異世界に通じる扉は、今年1年間しか開かないはずだ。そして僕達は何としても、この機会を取り逃すわけにはいかない。
・・・それなのに未だ、謎は謎のままと来ている。
遥、君に乱暴はしたくないけれど、君がもし僕らに非協力的な態度をとる場合には、僕らも強引な手段に出るかもしれないという事を、覚えておいてほしい。」
遥はイアンの言葉に驚いて、彼の顔を見ると、イアンは冷酷と言っていいほど冷静な目で、遥を見下ろしていた。そして言葉を継いだ。
「・・・他に、何か僕に話したい事はあるかい?」
「いえ、今は特に・・・。」
遥は首を横に振ってそう答えた。するとイアンはすっと椅子から立ち上がってから言った。
「それじゃ、僕はこれで失礼させてもらおう。こう見えても結構忙しい身なんでね。
さよなら、遥。」
「さようなら、イアン。」
遥はそう言って彼を見つめると、イアンはさっと伝票を受け取り、遥を後に残して足早に喫茶店を出ていったのだった。
それから遥は約束の日に、待ち合わせ場所の駅前にある喫茶店へと向かった。喫茶店に着いた彼女は、外に設けられたテーブルで、イアンが何かを飲みながら彼女に向かってゆらゆらと手を振っているのに、すぐ気がついた。
遥は彼のいるテーブルまで行って、彼らしくもなく楽しげに、自分を見ているイアンの前に腰掛けると、ちょっと皮肉を込めて言った。
「今日は手荒な事はしないのね。」
イアンは飄々と答えた。
「だって今回は君の方から会いたいって言ってきたからね。
―まぁ、僕から逃げ出すこともないだろうと思って。
さてさて遥さん。ところで一体、何の話だろうね?」
遥はじっとイアンを見て、しばし沈黙していたが、それから探りを入れるように言った。
「イアン、あなたにどうしても聞きたい事があるの。」
「うん。それは何?」
「もし、―もし、あなたが異世界に行けたなら、そこであなた達、・・・つまりニューカマーのメンバーである人達は、何をするつもりなのかしら?」
「なるほど。それは大雑把に言えば、僕らの理念を知りたいって事だね?
そうだな。僕らは自分達の目標として、“共存”という思想を掲げている。」
「共存。」
遥はイアンの言葉を繰り返した。
「そう。
今の地球の世界では、どこでも弱者と強者が存在するだろう。そして強いものが生き残り、弱いものは淘汰される。・・・それが当たり前とされてきた。
でも僕らはそろそろそういう世界観から、次のステージに上がる時期が来ている、と考えている。それは人間だけの利潤を考えるのではなく、この大いなる地球の恵みである自然や、立場の弱いものと共存し、そうやって世界を本当の意味で“調和”させて、真の理想の社会をつくること。
それが僕らの目的であり、最終的な目標でもあるんだ。しかし・・・。
地球でそんな僕らの願いを叶える事は、おそらくできないだろう。この世界はあまりに色々な物が壊れすぎていて、もう手遅れの状態にあると僕らは考えている。それは生態系の事であったり、社会の事であったりするのだけれどね。
―そしてこの破滅に向かう流れはきっと、誰にも止められない。
そこで僕らは新たな世界に行き、決して選民思想というわけではないけれど、僕の思想に共鳴する進歩した考えを持つ人々と共に、
“第二の世界”
・・・つまり新たな地球の世界を作り出そうとしているんだ。その場所として僕らには、『異世界』の存在がどうしても必要なのさ。」
そうイアンは語った。遥は両手を組み、真剣にイアンの話を聞いていた。そしてイアンはひと口飲み物を飲むと、物問いたげな目で遥を見つめて言った。
「―何かあったのかい?」
「えっ。」
「何か困った事があったから、僕に会いに来たのかな、と思って。だって以前に僕は、何か困った事があったら僕の所においで、と言っておいてあったからね。
―そうでもないと、自ら僕と会おうとは思わないんじゃないだろうか。」
遥は思わず黙り込んだ。するとイアンは眉間に皺を寄せて、話を続けた。
「実は僕は今、多少焦っているんだ。
―異世界に通じる扉は、今年1年間しか開かないはずだ。そして僕達は何としても、この機会を取り逃すわけにはいかない。
・・・それなのに未だ、謎は謎のままと来ている。
遥、君に乱暴はしたくないけれど、君がもし僕らに非協力的な態度をとる場合には、僕らも強引な手段に出るかもしれないという事を、覚えておいてほしい。」
遥はイアンの言葉に驚いて、彼の顔を見ると、イアンは冷酷と言っていいほど冷静な目で、遥を見下ろしていた。そして言葉を継いだ。
「・・・他に、何か僕に話したい事はあるかい?」
「いえ、今は特に・・・。」
遥は首を横に振ってそう答えた。するとイアンはすっと椅子から立ち上がってから言った。
「それじゃ、僕はこれで失礼させてもらおう。こう見えても結構忙しい身なんでね。
さよなら、遥。」
「さようなら、イアン。」
遥はそう言って彼を見つめると、イアンはさっと伝票を受け取り、遥を後に残して足早に喫茶店を出ていったのだった。
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