蛍火のおもかげ

藤田 蓮

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約束4

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「もう送ったよ。今頃はご主人のところだろうね」
「え…。え?」
「はい、コーラ。お供え物だからありがたくいただくんだよ」
 ぽいと手渡されたコーラは冷えていた。
「お供え物…?」
 その顔を見ると、掃除屋はにっこりと笑って、頷いた。
「そうだ、もうこんな時間だね。ちょっと待って」
 掃除屋が懐に手を差し込み、取り出したのは提灯だった。なんでそんな処から提灯が出るのか、と馨が言いかける前に掃除屋は燐寸で火をつけた。
 ゆらゆらと蝋燭の炎が辺りを照らしだす。
 掃除屋が、その掌をゆっくりと開いた。
 小さな指輪が、微かに輝いて見えた。
「これが僕の今回の仕事。これで最後。小さいから結構大変だったんだ」
「掃除って、これが掃除?」
「…?そうだよ?」
「これはゴミじゃないだろ」
 掃除屋は困ったように苦笑いを浮かべ、頭を掻いた。
「掃除するものはゴミだけとは決まってないよ」
「なんだよそれ」
「君には難しいかもしれないけど、この仕事を大体のひとは掃除屋と呼んでるなあ」
「だいたい、浴衣姿で仕事する奴がどこにいるんだよ。真面目にやってる?」
「厳しいな。いいの、これは僕にとってのユ二フォームだから。それよりも、さあ、送っていくよ」
 言って、掃除屋が提灯を差し出した先に、ぼんやりと何かがあった。
 馨が身を乗り出すようにして見るのを、掃除屋が、ああ、と何かを思い出したように呟いた。
「馨くん、ちゃんとコーラのお礼を言っておくんだよ」
「お礼?」

 そこには、色とりどりの花束と、菊の花束。そしてコーラが供えてあった。
 誰かが、そこで亡くなった事を悼む為に用意されたものなのは明らかだった。
 馨にも、さすがにそれは分かった。

「…え、なに。これと、さっきの婆ちゃんって、どうして…」
 だが、それが先程の老婆と、目の前に広がる光景に直接の関係を見出だせず、口を開けたまま、馨は次の言葉を探した。
 掃除屋は短く、答えた。
「まあ、そういうこと。これが僕のお仕事」
 完全に歩みが止まったその背を押して、帰ろう、と掃除屋は笑った。
 促されて歩き出した馨が、時折背後を振り返る。
 そこには闇に、ぼんやりと花々が浮かび上がって見えていた。
 提灯の揺れる明かりが、闇の中で、二人を導いていた。

 その光も小さくなり、やがて闇に溶け合った頃。

 川面から、小さな光がふわりと舞い出た。
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