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第二話 アリさんのおはなし
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「さてさて、今回のやつはすげぇぞ? いつもの固い飴玉じゃあねぇ。甘くてふわふわの、コイツさ!」
アリさんは大きなリュックサックから、透明な紙で包まれた白いものを取り出しました。
「……これなに?」
キョトンとするエトにアリさんは透明な紙をはがしながら答えます。
「コイツはケーキっつうんだ。そんじょそこらのやつじゃ手が届かねぇ極上の食いもんさ。……はいよ、おまちどおさん」
エトは小さなケーキをまじまじと見てから、フォークをさしてパクリと一口。
「んむ!」
しっとりとしてるのに、ふわふわ。モグモグと口を動かすだけで心がほんわりと温かくなります。
「ん~! おいしー!」
その様子を見ていたアリさんは腕を組んで首をかしげました。
「おや? 思ったより普通の反応だなぁ。嬢ちゃんなら飛び上がって天井に頭ぶつけちまうかと思ったのに」
「そ、そんなことしないもん!」
顔を真っ赤にして否定するエト。アリさんはからからと笑ってから、
「なんかあったかい? オイラに話してみな」
と軽い調子でたずねてきました。
エトは無言でもう一口食べてゴクンと飲み込みます。
「エト、アリさんのおはなしがききたい」
ポツリとそうつぶやくと、アリさんは少し間を置いてから「そうかい。んじゃ、何から話すかねぇ」とあごに手を当てました。
そして、フッと笑ってお話が始まったのです。
「これはオイラが旅の途中で出会った、キールっつう少年の話さ」
その男の子とアリさんが出会ったのは雪が降りしきる北の国に行った時でした。
きっかけは雪合戦をしている人間の子供たちに「この国で一番甘いもの」についてたずねたことです。
みんなが首をかしげるなか、一人だけ手を上げた男の子がキールでした。
キールは『知ってるけど、タダでは教えない。オレに勝てたら教えてやるよ』と勝負を挑んできたのです。
「……え? アリさん、たたかったの?」
エトが驚いてそう言うと、アリさんは当然といった顔でうなずきました。
「そりゃもちろん。ケンカは買うもんだかんなぁ」
「エトよりちっちゃいのに?」
「失礼なこと言うんじゃねぇやい。ま、ちっせぇのは確かだけどな」
「……それで、たたかいはどうなったの?」
エトが心配しながらたずねるとアリさんはニッと笑って言いました。
「結論から言やぁ、オイラが勝った」
アリさんは大きなリュックサックを置いて軽くストレッチをしました。
『うへぇ、寒っ』
ぶるりと体を震わせてから、飛んでくる雪玉をひょいと避けます。
続く三つの雪玉も素早い身のこなしで回避。
『な⁉︎ 速すぎんだろ!』
雪玉を投げたキールは驚愕しました。一方、アリさんはその隙に距離を詰めます。
『だてに世界中飛び回ってねぇってこった。修羅場は潜り慣れてんのよ』
キールの足を這い上がり、背中を駆け抜けます。アリさんを払うためにがむしゃらに動かされた腕を避け、耳のそばまで到達するとこう言いました。
『知ってっかい、坊主。アリは元々ハチの仲間だったんだぜ』
キールがその言葉の意味を理解する前に、答えが襲いかかります。──チクリ、と。
『いぃってぇ!』
バシッと反射的に手で耳を叩くも、すでにアリさんは肩に落ちています。そのまま首へ回り込み、ブスリ。
『あだっ! あだだっ! いってぇ!』
三回ほど刺すとついにキールは「まいった」と白旗を上げました。
エトはその戦いのお話を聞いてなんとも微妙な顔になりました。
「アリさんにまけちゃうなんて……」
「なんでい。オイラが強かったらおかしいってのかい」
「だって、にんげんってエトよりもおおきいのに──」
エトはその先の言葉を言うのをためらいました。代わりにアリさんがなんでもないことのように言います。
「ま、ダメダメだわな」
エトは無言でぎゅっと自分の手をつかみました。アリさんは気づいていないのかそのまま話を続けます。
「キールはな、何やってもてんでダメなやつだったんだ」
走れば最下位。料理をすれば真っ黒け。何をやっても周りより一歩も二歩も劣るという有様でした。
お菓子屋のおじさんからケーキを分けてもらうため、仕事を手伝うことになったときもアリさんがサポートをしなければドジを踏んで失敗していたでしょう。
エトはそれを聞いて、その子は自分と同じだと思いました。いっつも肝心な時に失敗してみんなに迷惑をかけてしまう自分と同じだ、と。
だから、きっとその子もエトと同じように──
「それでも、あいつぁいつも笑ってたんだ」
「……え?」
「ドジ踏んで周りにからかわれても、落ち込むようなことがあっても、なんでもねぇって顔して笑ってんのさ」
どうして、という疑問がエトの頭に浮かびました。同時に裏切られたようなさびしさが心をなでます。
「嬢ちゃん、キールはなんで笑ってられるかわかるかい?」
「……なやまない、から?」
アリさんは「いいや、違う」と首を振ります。
「キールはいつも悩んでたさ。努力をしても周りに追いつけないことにも。うまくやろうと思うほど失敗することにも。一つのことしかできない自分にも、いつも悩んでた」
「……じゃあ、なんで?」
エトがたずねるとアリさんはニヤリと笑って言いました。
「キールが笑ってられんのは、みんなで心の雪かきをしてたからさ」
アリさんは大きなリュックサックから、透明な紙で包まれた白いものを取り出しました。
「……これなに?」
キョトンとするエトにアリさんは透明な紙をはがしながら答えます。
「コイツはケーキっつうんだ。そんじょそこらのやつじゃ手が届かねぇ極上の食いもんさ。……はいよ、おまちどおさん」
エトは小さなケーキをまじまじと見てから、フォークをさしてパクリと一口。
「んむ!」
しっとりとしてるのに、ふわふわ。モグモグと口を動かすだけで心がほんわりと温かくなります。
「ん~! おいしー!」
その様子を見ていたアリさんは腕を組んで首をかしげました。
「おや? 思ったより普通の反応だなぁ。嬢ちゃんなら飛び上がって天井に頭ぶつけちまうかと思ったのに」
「そ、そんなことしないもん!」
顔を真っ赤にして否定するエト。アリさんはからからと笑ってから、
「なんかあったかい? オイラに話してみな」
と軽い調子でたずねてきました。
エトは無言でもう一口食べてゴクンと飲み込みます。
「エト、アリさんのおはなしがききたい」
ポツリとそうつぶやくと、アリさんは少し間を置いてから「そうかい。んじゃ、何から話すかねぇ」とあごに手を当てました。
そして、フッと笑ってお話が始まったのです。
「これはオイラが旅の途中で出会った、キールっつう少年の話さ」
その男の子とアリさんが出会ったのは雪が降りしきる北の国に行った時でした。
きっかけは雪合戦をしている人間の子供たちに「この国で一番甘いもの」についてたずねたことです。
みんなが首をかしげるなか、一人だけ手を上げた男の子がキールでした。
キールは『知ってるけど、タダでは教えない。オレに勝てたら教えてやるよ』と勝負を挑んできたのです。
「……え? アリさん、たたかったの?」
エトが驚いてそう言うと、アリさんは当然といった顔でうなずきました。
「そりゃもちろん。ケンカは買うもんだかんなぁ」
「エトよりちっちゃいのに?」
「失礼なこと言うんじゃねぇやい。ま、ちっせぇのは確かだけどな」
「……それで、たたかいはどうなったの?」
エトが心配しながらたずねるとアリさんはニッと笑って言いました。
「結論から言やぁ、オイラが勝った」
アリさんは大きなリュックサックを置いて軽くストレッチをしました。
『うへぇ、寒っ』
ぶるりと体を震わせてから、飛んでくる雪玉をひょいと避けます。
続く三つの雪玉も素早い身のこなしで回避。
『な⁉︎ 速すぎんだろ!』
雪玉を投げたキールは驚愕しました。一方、アリさんはその隙に距離を詰めます。
『だてに世界中飛び回ってねぇってこった。修羅場は潜り慣れてんのよ』
キールの足を這い上がり、背中を駆け抜けます。アリさんを払うためにがむしゃらに動かされた腕を避け、耳のそばまで到達するとこう言いました。
『知ってっかい、坊主。アリは元々ハチの仲間だったんだぜ』
キールがその言葉の意味を理解する前に、答えが襲いかかります。──チクリ、と。
『いぃってぇ!』
バシッと反射的に手で耳を叩くも、すでにアリさんは肩に落ちています。そのまま首へ回り込み、ブスリ。
『あだっ! あだだっ! いってぇ!』
三回ほど刺すとついにキールは「まいった」と白旗を上げました。
エトはその戦いのお話を聞いてなんとも微妙な顔になりました。
「アリさんにまけちゃうなんて……」
「なんでい。オイラが強かったらおかしいってのかい」
「だって、にんげんってエトよりもおおきいのに──」
エトはその先の言葉を言うのをためらいました。代わりにアリさんがなんでもないことのように言います。
「ま、ダメダメだわな」
エトは無言でぎゅっと自分の手をつかみました。アリさんは気づいていないのかそのまま話を続けます。
「キールはな、何やってもてんでダメなやつだったんだ」
走れば最下位。料理をすれば真っ黒け。何をやっても周りより一歩も二歩も劣るという有様でした。
お菓子屋のおじさんからケーキを分けてもらうため、仕事を手伝うことになったときもアリさんがサポートをしなければドジを踏んで失敗していたでしょう。
エトはそれを聞いて、その子は自分と同じだと思いました。いっつも肝心な時に失敗してみんなに迷惑をかけてしまう自分と同じだ、と。
だから、きっとその子もエトと同じように──
「それでも、あいつぁいつも笑ってたんだ」
「……え?」
「ドジ踏んで周りにからかわれても、落ち込むようなことがあっても、なんでもねぇって顔して笑ってんのさ」
どうして、という疑問がエトの頭に浮かびました。同時に裏切られたようなさびしさが心をなでます。
「嬢ちゃん、キールはなんで笑ってられるかわかるかい?」
「……なやまない、から?」
アリさんは「いいや、違う」と首を振ります。
「キールはいつも悩んでたさ。努力をしても周りに追いつけないことにも。うまくやろうと思うほど失敗することにも。一つのことしかできない自分にも、いつも悩んでた」
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