不死の魔法使いは鍵をにぎる

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魔具の誘惑

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畑をいじり、食事をとり、根城を整え、書物を読んで魔法を磨く日々。
身体強化の他に、魔力の練り方や四大元素の魔法など基礎的な内容の書物も借りてみた。



師匠1人から魔法を教わり鍛練してきたため、今まで魔法の扱い方は一つしかないと思い込んでいたが、そうではないらしい。

基本は同じでも、著者によって細部の考え方や扱い方には差違がある。
自分と相性の良い方法を探すことで、人によってはかなり威力が変わることもあるのだとか。




私は師匠のやり方と相性が良かったのだろうか。
他にもっと相性の良い方法があるのだろうか。

魔法研究というものは限りがなさそうだ。
有り余る時間を潰すには最適だな。






幾日経ったのか、もしくは数ヶ月か、また期間をあけて図書館を訪れた。
3段程度しかない魔法関連の書物には、既に1段分目を通した。


残り2段。
あと数回通えば全て目を通せるか。







書物の背表紙に手をかけたところで声がかかる。


「お兄さんやっと来たね。ずっと待ってたんだよ」






この野郎はまだいたのか。


声を掛けてきたのは、ひょろりと背の高い褐色肌の青年である。
青年の存在は無きものとして書物を選ぶ。





「この間は話の途中で帰っちゃうからさ。ボク傷付いたよ」




魔具について書かれたものはあるだろうか。
書名を見た感じでは置いてなさそうだな。




「お兄さんにまだ聞きたいことあるんだ。お兄さんだってボクに聞きたいことがあるでしょう?」





野郎がうるさいから選ぶのはもういいか。
ここの固まりを一気に借りていこう。




「今日はお兄さんにとっての朗報もあるんだよ。逃したら損するよ。後悔するよ」




書物を抱えてカウンターに向かっていると、歩くのを遮るように青年の腕が目の前に差し出された。

右手で何かを握っている。
腕輪のようなごてごてとした何か。






「これ、なーんだ」






付きだされた腕を避けて突き進もうとすると、横目に青年の手が開かれるのが見えた。
開かれた手の平に乗ったそれに、釘付けになる目。

ゆるりと青年の笑みが深まる。






「お兄さんが今とっても欲しいもの、でしょう?」




足を止めてしまった。
くそ。
腹立たしい。


睨めつけるように褐色肌の顔を見上げる。




「どうしたんだ、それ」

「旅途中の商人がこの辺りを通ったんだよ。譲ってもらったんだ。なかなか無いよ、こんな機会」





青年が指でくるくると弄っているのは、魔方陣が刻まれているだろう腕輪。

魔具だ。




鈍く光を反射するこがね色。
全体に刻まれた模様は魔法的意味があるのか、ただの飾りか。





「またしないか?情報交換」

「お前何がしたいんだ」



不規則に図書館へと現れる人間から一体何を聞き出したいというのか。
魔具にはもちろん興味を惹かれるが、この間の感じからいうと、また私自身について聞かれる可能性もある。





「魔法技術についてなら話さんこともないが、何か知らんがお前はそれ以外を聞き出そうとしているだろう」





別に魔具など自分で手に入れればいい。
時間も距離も私には何の障害にもならないのだから。

こんな素知らぬ怪しい男からわざわざ手に入れる必要はないのだ。





「やだなあ。人が何か企んでるみたいに言わないでよ。お兄さんの為じゃないか」



白々しい。
次から訪れる図書館を変えるか。




「お前から手に入れずともなんとでもなる」

「待って待って!」





止めていた足を動かしムカつく野郎を避けようとしたところで、がっしり腕を捕まれた。




「ごめん嘘。いや嘘じゃないけど本当じゃなかった。人を探してるんだ。魔法に詳しい人」

「離せ」

「お兄さん魔具の貴重さわかってる?魔具が作られた地域でも滅多に見つからないんだよ。増してこんな離れたところじゃ」

「どうとでもなる」

「例え手に入っても簡単な構造じゃないよ。一人で理解するのは難しいよ。お兄さん魔具の知識あるの?魔具に関する書物は?魔具を手に入れて構造を理解するのに一体どれだけかかるんだろうね?何百年もありえるよ?」





青年の腕から逃れようとしていた力が若干弱まる。


どれだけの時間がかかろうと、生に限りのない私には障害にならない。
何十、何百と時をかけようが、魔具がこの世に存在する限り探しだすことは可能なのだ。

しかしだからといって、その行為に苦痛が伴わないわけではない。
進んでいるのか、誤った道へ踏み出しているのか、進歩も何もわからない遅々とした時間は耐え難い。






「取引をしようよ。お兄さんはこの魔具を手に入れる。ボクは情報をもらう。良い取引だと思わないか?」

「それが紛れもない魔具だと、証明できるのか」





魔具を実際に見たことのない私には、野郎の持っているものが本物なのか偽物なのか、判断がつかない。
この野郎自体が騙されている可能性もなくはない。

情報だけ渡して偽物を掴まされるなどたまったものではない。





「用心深いね。模造品じゃない。ちゃんと本物だよ。発動させてみようか?」

「ああ」





書物の貸し出し手続きを済ませてから、二人で図書館の脇へと出た。

結界で守られている図書館内では、魔法の使用が制限される。
結界の術者よりも魔法技術が低ければ魔法は発動しないし、拮抗する技術力ならば魔法の効果は減退する。

恐らく魔具についても同様だろう。



少し距離をあけて青年と向き合う。





「見せてもらおうか」





攻撃系の魔具である場合に備えて、体を護れるように魔力をうっすら練り始める。




「あ、安心してね。この魔具攻撃できないから。防御用の魔具なんだ。王族を守るためのものだから」


そう言いながら魔具を左腕にはめる。





「商人が言うには対炎にすぐれてるらしいよ。攻撃してみてくれる?あ、でも全力はやめてね。お兄さんの魔法威力凄そうだから」




青年が魔力を練っている様子は窺えないが、魔力なしで発動するものなのだろうか。
ああ、防御用ならばその方がいいのか。


右手に炎を作り出す。
手の平を広げた程度の大きさ。




「これぐらいか」

「うん。魔具めがけて放ってくれると嬉しいな」




青年は左腕を前に突き出し、強く目を瞑った。
腕を振りかぶって、魔具に向けて手の平大の炎を投げる。

炎は魔具に当たり、青年を丸く包み込むように勢いよく広がり、幕の上を滑るように流れ鎮火した。

透明な繭にでも包まれているかのようだ。
数秒してそれも消えていった。




「ね。本物でしょう?」




ふう、と息を吐いて笑う青年。
腕から魔具を外し、こちらに近づいてくる。





「ボクのこと信用してほしいな。お兄さんに悪いことはしないよ。仲良くしよう?」
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