15 / 201
青年と情報交換
しおりを挟む
青年を振り切ろうという考えは一旦捨てて、図書館の談話スペースへと移った。
椅子に腰かけて口を開く。
「とりあえず先に教えてもらおうか」
こいつを信頼するわけではない。
見ず知らずの私に執着する理由もわからないし、得たいものは先に得ておくべきだ。
「高圧的だなあ。もうちょっと態度軟化させようよ」
「無駄口はいい。早く話せ」
やれやれとでも言いたげに息をついてから言葉を紡ぐ。
いちいち癪に触る奴だ。
「簡単に言うとね、魔具を使う方法と四肢そのものを大きくする方法があるんだよ」
王都と西の地域に伝わる方法だったかな、と付け加えて私を見る。
四肢そのものを大きくするというのはつまり、足を巨大化させて脚力を得たりする、ということだろうか。
試しに両足を約2倍に巨大化させてその場で跳び跳ねてみる。
通常時の1.5倍といったところか。
「…効率悪くないか」
巨大化する魔力に対して得られる効果が小さい。
これは他の身体強化と組み合わせても微々たる差違になるだろう。
魔力消費量から考えると組み合わせない方が正解かもしれない。
「西は魔法研究が盛んじゃないみたい。原始的というか、効率悪い方法が多そうだったからね」
「そうか。魔具はどうするんだ」
王都は魔法研究が盛んなはずだ。
以前訪れたときには魔具を見かけなかったから、研究が進んで新しくできた物なのだろう。
「魔物の心臓を素材にして、魔方陣を描いて作るんだよ。魔物の種類によって相性の良し悪しもあるみたいだよ」
魔物の心臓か。
相性はわからないが、弱い魔物より強い魔物の心臓を用いる方がいいのは確実だろう。
魔王によって魔物が強大になっている今、好都合ではなかろうか。
「魔方陣はどう描くんだ」
今すぐにでも魔物狩りに行きたい心境で青年に聞くと、笑みが返ってきた。
「質問責めは不公平だと思わないか?ボクにも質問させてよ」
一番知りたい情報の前で歯止めがかかる。
ちっ、最後まで答えるようなことはしないか。
「何が聞きたい」
「お兄さんは魔法をどこで習得した?」
「…学校に決まってるだろう」
不可解な答えを聞いたかのように青年は丸い目を瞬かせた。
私は一般的で極自然な答えを返したはずだ。
よほど田舎じゃない限りはどこにだって学校は設けられている。
大抵の人間が魔力を持っているのだ。
魔力を最低限扱えるように学校で学ばないと、ちゃんとした職場を得ることは難しい。
家の仕事を継いだり、学校のない田舎で生活する者以外は必須である。
「そう。そっか。何処の学校?この町の学校ではないでしょ?」
「…魔法知識の交換じゃなかったのか?内容がずれているぞ」
いまいち納得していない様子で話を続けようとしてきたが制止した。
私自身については答える気はない。
「ごめんごめん。じゃあ質問を変えるね。お兄さんは身体強化をどう行ってる?」
「筋肉に魔力を纏わせている」
「コツは?魔力をどう動かすの?コツ教えてよ」
一瞬説明する言葉を探して、眉をひそめる。
感覚派なのだ私は。
説明するための言葉が見つからない。
「筋肉に、こう、纏わせるんだよ」
言いながら右腕で魔力を練ってみせるも、説明になってないよと笑われた。
直後、青年の視線が腕に釘付けになる。
「…腕に何か、掘ってる?」
魔力に反応して淡く発光していた右腕。
さっと魔力を散開させて右腕を引っ込める。
衣服で隠れているが、発光により掘ってある魔方陣が透けて見えたのだろうか。
「右腕見せてくれないか?魔力に反応してたよね。なら魔方陣か?魔方陣を掘ってる人初めて見たよ。自分で入れたの?人に入れてもらったのか?」
くそっ、失敗した。
よく動く野郎の口に舌打ちをすると、即座に反応が返ってくる。
「舌打ちはするものじゃないよ?失礼だよ。大人なんだから気をつけようよ」
「知ったことか」
がたりと音をたてて勢いよく立ち上がり、その場に背を向けた。
大事な情報はもう聞けている。
あとは自分で調べればいい。
幾ら時間がかかったとしても私には関係ないのだから。
身体強化で疾走するよりも速く歩き、図書館の結界外へ出る。
後方から聞こえてくる私を呼び止めようとする声は、転移と共にぷつりと途絶えた。
椅子に腰かけて口を開く。
「とりあえず先に教えてもらおうか」
こいつを信頼するわけではない。
見ず知らずの私に執着する理由もわからないし、得たいものは先に得ておくべきだ。
「高圧的だなあ。もうちょっと態度軟化させようよ」
「無駄口はいい。早く話せ」
やれやれとでも言いたげに息をついてから言葉を紡ぐ。
いちいち癪に触る奴だ。
「簡単に言うとね、魔具を使う方法と四肢そのものを大きくする方法があるんだよ」
王都と西の地域に伝わる方法だったかな、と付け加えて私を見る。
四肢そのものを大きくするというのはつまり、足を巨大化させて脚力を得たりする、ということだろうか。
試しに両足を約2倍に巨大化させてその場で跳び跳ねてみる。
通常時の1.5倍といったところか。
「…効率悪くないか」
巨大化する魔力に対して得られる効果が小さい。
これは他の身体強化と組み合わせても微々たる差違になるだろう。
魔力消費量から考えると組み合わせない方が正解かもしれない。
「西は魔法研究が盛んじゃないみたい。原始的というか、効率悪い方法が多そうだったからね」
「そうか。魔具はどうするんだ」
王都は魔法研究が盛んなはずだ。
以前訪れたときには魔具を見かけなかったから、研究が進んで新しくできた物なのだろう。
「魔物の心臓を素材にして、魔方陣を描いて作るんだよ。魔物の種類によって相性の良し悪しもあるみたいだよ」
魔物の心臓か。
相性はわからないが、弱い魔物より強い魔物の心臓を用いる方がいいのは確実だろう。
魔王によって魔物が強大になっている今、好都合ではなかろうか。
「魔方陣はどう描くんだ」
今すぐにでも魔物狩りに行きたい心境で青年に聞くと、笑みが返ってきた。
「質問責めは不公平だと思わないか?ボクにも質問させてよ」
一番知りたい情報の前で歯止めがかかる。
ちっ、最後まで答えるようなことはしないか。
「何が聞きたい」
「お兄さんは魔法をどこで習得した?」
「…学校に決まってるだろう」
不可解な答えを聞いたかのように青年は丸い目を瞬かせた。
私は一般的で極自然な答えを返したはずだ。
よほど田舎じゃない限りはどこにだって学校は設けられている。
大抵の人間が魔力を持っているのだ。
魔力を最低限扱えるように学校で学ばないと、ちゃんとした職場を得ることは難しい。
家の仕事を継いだり、学校のない田舎で生活する者以外は必須である。
「そう。そっか。何処の学校?この町の学校ではないでしょ?」
「…魔法知識の交換じゃなかったのか?内容がずれているぞ」
いまいち納得していない様子で話を続けようとしてきたが制止した。
私自身については答える気はない。
「ごめんごめん。じゃあ質問を変えるね。お兄さんは身体強化をどう行ってる?」
「筋肉に魔力を纏わせている」
「コツは?魔力をどう動かすの?コツ教えてよ」
一瞬説明する言葉を探して、眉をひそめる。
感覚派なのだ私は。
説明するための言葉が見つからない。
「筋肉に、こう、纏わせるんだよ」
言いながら右腕で魔力を練ってみせるも、説明になってないよと笑われた。
直後、青年の視線が腕に釘付けになる。
「…腕に何か、掘ってる?」
魔力に反応して淡く発光していた右腕。
さっと魔力を散開させて右腕を引っ込める。
衣服で隠れているが、発光により掘ってある魔方陣が透けて見えたのだろうか。
「右腕見せてくれないか?魔力に反応してたよね。なら魔方陣か?魔方陣を掘ってる人初めて見たよ。自分で入れたの?人に入れてもらったのか?」
くそっ、失敗した。
よく動く野郎の口に舌打ちをすると、即座に反応が返ってくる。
「舌打ちはするものじゃないよ?失礼だよ。大人なんだから気をつけようよ」
「知ったことか」
がたりと音をたてて勢いよく立ち上がり、その場に背を向けた。
大事な情報はもう聞けている。
あとは自分で調べればいい。
幾ら時間がかかったとしても私には関係ないのだから。
身体強化で疾走するよりも速く歩き、図書館の結界外へ出る。
後方から聞こえてくる私を呼び止めようとする声は、転移と共にぷつりと途絶えた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる