18 / 201
魔物の心臓
しおりを挟む
それからの10日間は書物を読むのはほどほどに、魔具を調べることに時間を費やした。
魔物の心臓に魔方陣、他に必要な材料はなんだろうか。
全体的に金属質だからやはり金属は必須か。
しかし魔力を使って生成するのだから、金属を使わずともこの質感になる可能性がある。
書物を読み込むために10日の時間を設けたというのに、すっかり魔具へ夢中になっていた。
人間はどうしようもなく醜い生き物だが、こういった技術の進歩は侮れないな。
魔具を観察しながらそう思う。
どれくらいぶりの旅だろうか。
師匠がなくなってしばらくは転々と各地を放浪していたが、それ以来か。
この根城を構え結界を設けてからは、森から出ずにずっと生活をしていた。
再び外へ出ようという気になるとは思わなかったな。
あのひょろっこい青年と一緒だというのは気に食わないが。
それにしてもあの野郎、魔王の影響で魔物が跋扈しているというのに、躊躇いもなく旅しようと言い出したな。
一人で頻繁に図書館に来るくらいだから、多少は戦えるのだろうが。
自分で10日と言っておきながら、待ち遠しくなって数日早く図書館へと出向いていた。
転移した瞬間に視界に飛び込んでくる何人もの姿。
ざわざわとした喧騒に叩き交わされる硬質な音。
大人を優に踏み潰せる巨大な前足を持った魔物と人間が戦っているところだった。
図書館の結界内で治療を受けている者がいる。
恐らくそいつを追い掛けて魔物はここまでやってきたのだろう。
距離をとって魔法を放つ者たちの間で中心となって戦っているのはあの青年だった。
いい機会なので戦いぶりを観察する。
長いリーチを生かして絶妙な距離間で魔物を切り裂いていく。
しかし完全な物理攻撃のみ。
魔物の強靭な皮膚に浅い傷しか残せない。
魔法は扱えないようだ。
いつだったか魔力操作が苦手だと抜かしていたか。
それにしてもいい目を持っている。
鋭く早い爪を避け、隙をぬって的確に魔物を切りつけている。
自分の攻撃が一向に当たらず、魔物がいらいらしだした様子が見てとれる。
魔物の太い毛が逆立ち始め、針のように鋭くなっていく先端。
このままじゃあいつ死ぬかもな。
廻りで青年を援護しようと、基本的な四大元素魔法を打ち出したり、極簡単な身体強化魔法をかける者たち。
それらに紛れてこっそりと、青年の腕力を強化する。
加えて、青年の持つ長剣へ雷属性を付与。
パチパチと仄かな音を立てて、剣が小さく雷を帯びる。
恐らくあの魔物は対雷に弱い。
いつの間にかピンと真っ直ぐに尖りきった魔物の毛が、一瞬引込む。
魔物が毛を飛ばそうとしたその瞬間、青年が剣を突き刺した。
硬く尖った毛の間へと、深く入り込む。
痛みに暴れ襲い来る爪を避けるとともに青年は剣を引き抜き、もう一太刀。
あふれ出る血とともにしなびるように垂れる毛。
魔物はぐしゃりと地面へと倒れ伏した。
一瞬静まり返った後、そこかしこから安心したように息をつくのが聞こえた。
ふん。
あの程度に手間取るとはな。
戦っていた者たちが死骸の廻りに集まり始める。
その流れに逆らい図書館に向かって歩き出すと、
「ゲルハルト!」
と大きな声で呼び止められた。
集まる視線に自然と舌打ちをしてしまう。
「どうして舌打ちするのさ。失礼だよ?舌打ちはよくないよ?」
こちらに駆け寄りながらそう言う。
地獄耳か。
「これから素材を分けるんだ。ゲルハルトも来てよ」
「私は関係ないだろう」
「どうして?関係あるよ。最後手助けしてくれたでしょう。身体強化と属性付与。あれのお陰で倒せたのに」
こいつ。
魔力操作は苦手なくせに魔力感知の技術は高いのか。
再び出る舌打ち。
それを咎める青年。
くそ。
面倒だな。
「とにかく私は無関け…」
「魔物の心臓手に入れるチャンスだよ?あれは中々いい素材だよ。たぶん魔具にも合ってる」
集まっている魔法使いどもが青年の様子を伺っている。
同時に私にも視線が注がれる。
「ならお前が心臓を取ってこい。お前はともかく、廻りの連中は私に気付いていない。のこのこ出て行っても揉めるだけだ」
ちらと連中の方へ向いて、それもそうかと呟いた。
「じゃあボク行ってくる。ゲルハルトの分ももらってくるね」
魔物の心臓に魔方陣、他に必要な材料はなんだろうか。
全体的に金属質だからやはり金属は必須か。
しかし魔力を使って生成するのだから、金属を使わずともこの質感になる可能性がある。
書物を読み込むために10日の時間を設けたというのに、すっかり魔具へ夢中になっていた。
人間はどうしようもなく醜い生き物だが、こういった技術の進歩は侮れないな。
魔具を観察しながらそう思う。
どれくらいぶりの旅だろうか。
師匠がなくなってしばらくは転々と各地を放浪していたが、それ以来か。
この根城を構え結界を設けてからは、森から出ずにずっと生活をしていた。
再び外へ出ようという気になるとは思わなかったな。
あのひょろっこい青年と一緒だというのは気に食わないが。
それにしてもあの野郎、魔王の影響で魔物が跋扈しているというのに、躊躇いもなく旅しようと言い出したな。
一人で頻繁に図書館に来るくらいだから、多少は戦えるのだろうが。
自分で10日と言っておきながら、待ち遠しくなって数日早く図書館へと出向いていた。
転移した瞬間に視界に飛び込んでくる何人もの姿。
ざわざわとした喧騒に叩き交わされる硬質な音。
大人を優に踏み潰せる巨大な前足を持った魔物と人間が戦っているところだった。
図書館の結界内で治療を受けている者がいる。
恐らくそいつを追い掛けて魔物はここまでやってきたのだろう。
距離をとって魔法を放つ者たちの間で中心となって戦っているのはあの青年だった。
いい機会なので戦いぶりを観察する。
長いリーチを生かして絶妙な距離間で魔物を切り裂いていく。
しかし完全な物理攻撃のみ。
魔物の強靭な皮膚に浅い傷しか残せない。
魔法は扱えないようだ。
いつだったか魔力操作が苦手だと抜かしていたか。
それにしてもいい目を持っている。
鋭く早い爪を避け、隙をぬって的確に魔物を切りつけている。
自分の攻撃が一向に当たらず、魔物がいらいらしだした様子が見てとれる。
魔物の太い毛が逆立ち始め、針のように鋭くなっていく先端。
このままじゃあいつ死ぬかもな。
廻りで青年を援護しようと、基本的な四大元素魔法を打ち出したり、極簡単な身体強化魔法をかける者たち。
それらに紛れてこっそりと、青年の腕力を強化する。
加えて、青年の持つ長剣へ雷属性を付与。
パチパチと仄かな音を立てて、剣が小さく雷を帯びる。
恐らくあの魔物は対雷に弱い。
いつの間にかピンと真っ直ぐに尖りきった魔物の毛が、一瞬引込む。
魔物が毛を飛ばそうとしたその瞬間、青年が剣を突き刺した。
硬く尖った毛の間へと、深く入り込む。
痛みに暴れ襲い来る爪を避けるとともに青年は剣を引き抜き、もう一太刀。
あふれ出る血とともにしなびるように垂れる毛。
魔物はぐしゃりと地面へと倒れ伏した。
一瞬静まり返った後、そこかしこから安心したように息をつくのが聞こえた。
ふん。
あの程度に手間取るとはな。
戦っていた者たちが死骸の廻りに集まり始める。
その流れに逆らい図書館に向かって歩き出すと、
「ゲルハルト!」
と大きな声で呼び止められた。
集まる視線に自然と舌打ちをしてしまう。
「どうして舌打ちするのさ。失礼だよ?舌打ちはよくないよ?」
こちらに駆け寄りながらそう言う。
地獄耳か。
「これから素材を分けるんだ。ゲルハルトも来てよ」
「私は関係ないだろう」
「どうして?関係あるよ。最後手助けしてくれたでしょう。身体強化と属性付与。あれのお陰で倒せたのに」
こいつ。
魔力操作は苦手なくせに魔力感知の技術は高いのか。
再び出る舌打ち。
それを咎める青年。
くそ。
面倒だな。
「とにかく私は無関け…」
「魔物の心臓手に入れるチャンスだよ?あれは中々いい素材だよ。たぶん魔具にも合ってる」
集まっている魔法使いどもが青年の様子を伺っている。
同時に私にも視線が注がれる。
「ならお前が心臓を取ってこい。お前はともかく、廻りの連中は私に気付いていない。のこのこ出て行っても揉めるだけだ」
ちらと連中の方へ向いて、それもそうかと呟いた。
「じゃあボク行ってくる。ゲルハルトの分ももらってくるね」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる