不死の魔法使いは鍵をにぎる

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魔具の製作

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青年が戻ったことで素材分配が始まったようだ。
私はそれに背を向け図書館へ入り、青年が戻るのを待った。


時間つぶしに新たな魔法関連の書物を手に取ったが、魔具のことで脳内が占められ、内容が頭に入ってこない。





特にもめることなく分配を終えたようで、さほど待つことなく青年は図書館へ入ってきた。

小脇に抱えている、布で包まれた素材。
頭1つ分ほどの大きさだ。






「心臓もらえたよ。みんな要らないって。貴重な素材なのにね。ボクは爪もらってきた。心臓どうする?早く使わないとダメになるけど。魔具作る?」

「心臓があれば作れるのか」

「心臓と魔力と魔方陣。あとは形づくれる何かがあればいいよ。土くれでも金属でもなんでも」

「そうか。なら使えなくなる前に作ろう」

「じゃあ外の森でやろうか。図書館じゃ結界の影響受けるからね。ゲルハルト結界張ってくれる?魔物の邪魔入らないように」




さらりと飛び出た言葉に耳を疑う。








「…誰が結界張るって?」

「ゲルハルト。できるでしょ?ボクできないもの」




聞き返されたことが理解できないとでも言うように不思議そうな表情だ。




「なぜそう思う」

「さっき物理接触もなしに魔法かけたでしょう。あの距離で接触なしは難しいよ。それも全体じゃなく局所的にだ。すごく高度な技術だよ。だったら結界もできるでしょ?」




こいつ1を見せたら10のことを読み取るな。







「ふん。まあいいだろう」



二人で近くの森へ移動して結界を張る。
今回はその場で採取した粘土を元に形作ることにする。

作るのは装飾も何も無く、ごく簡単な輪。
腕輪を想定して。







「手順としては簡単。心臓に魔方陣を書く。結晶になった心臓を埋め込む。魔方陣を発動させる。それだけ」







そう言いながら、小枝で地面にがりがりと模様を書いていく青年。



「基本となる魔法陣がこれね。それに付与したい属性の記号を足していく。何がいい?攻撃系か防御系か。身体強化でもいいよ」



ずらりと地面に並んだ記号を見ながら考える。



「そうだな。…呪いを防ぐことはできるか?」

「呪い?掛けられるのを防ぐのか?」

「いや…」



違うと否定しかけてやめた。






試してみたかったことは、すでに掛かっている呪いに対抗できる魔具だが、呪われている身だと自ら述べるようなものだ。



「そうだ。呪いを防ぐものでいい」






丸々とした目でじっと見詰められる。



「呪いか。いきなり高度なことに挑戦するね。呪いは分類わけしてそれぞれの記号を入れていく必要がある。全てに対応はできないね。この心臓じゃちょっと力不足だよ。簡単な呪い防御でいいか?」

「ああ」

「じゃあそうだな…。風魔法攻撃永続の呪いにしようか。この魔方陣を書いてね。これとこの記号を組込んだやつ。それを高密度の魔力で心臓に焼きいれるんだ」






指先に魔力を集中させて圧縮。
人さし指を心臓に当てて書き始めると、「それじゃ弱いよ」といわれた。

さらに圧縮を重ねる。
なかなかに神経を使うな。




高密度の魔力に焦がされるように、じりりと心臓に跡がついていく。



「そうそう。それくらい。その高密度が難しいんだ。並の魔法使いじゃできないんだよね。その密度で保ってね。不安定だと魔具の精度も落ちるから」



そういうことは始める前に言って欲しいものだな。
魔力圧縮に集中するあまり聞き流しそうになる。

書き損じのないよう慎重に進めると、自然と時間がかかる。
手のひら大の魔方陣を書くのに数十分と時間がかかり、書き終えた私は長い息を吐いた。



指先に高密度の魔力を集中させていたせいで感じる、ぴりぴりとした軽い痺れ。
これは慣れの問題なのか、この作業に必ず付きまとうものなのか。





「お疲れさま。ちょっと待ってね。魔方陣に反応して心臓が結晶化するはずだから。強い魔物の心臓ほど良質な結晶になるんだって。魔方陣が反応しやすくなるみたい」




そうこう言っているうちに書き終えた魔法陣が淡く発光しだす。
ぴしぴしと跳ねるように光が心臓を包んでいき、一瞬白く点滅したかと思えば、心臓は結晶へと変わっていた。


大きかった心臓は、書いた魔法陣よりも小さな結晶と化している。
梅の実くらいの大きさだろうか。

その周りには結晶になり損ねた欠片が散っている。
結晶となった本体よりも色が薄い。




「この欠片は使えないのか」

「魔具に使うには出力不足かな。せいぜい魔法の補助に使うとか。あとは単なる飾りだね」

「そうか」




とりあえず集めて持っておく。







「じゃ次ね。結晶を適当に砕いて。加工しやすいように」



はい、と渡されたのはそこらに転がっていた石だ。
これで叩き割れということか。




「形とか大きさとかこだわる必要はないのか」

「見栄えとしてはこだわったほうがいいけどね。精度としては関係ないよ。でもちゃんと石で砕いてね。魔力使っちゃだめだよ。魔具として完成させる前に効力を持っちゃう」




石で砕くよりも楽では、とまさに魔力で切り裂こうと考えていた出鼻をくじかれる。




「常に手で持ってなきゃいけなくなるよ。効力を持った後に加工はできない。魔具は皮膚接触が必要なんだ。実用性が低いよ。それでもいいならいいけどね」

「…」




素直に石を手に取った。
結晶をほどほどの大きさに砕いていく。







「あとは結晶を埋め込むだけ。魔法陣を発動させれば終わりだよ」



始めに形作っておいた粘土の輪に結晶を埋め込みながら尋ねる。



「魔具に使用制限はないのか」

「どうだろう。今のところ聞かないね。半永久に使えるんじゃないかって言われてるよ」




埋め込み終わった腕輪に魔力を流す。
結晶が光を帯び、結晶同士点と点がつながるように光が伸びる。
光は円へとつながった瞬間に終息し、いつのまにか粘土も固まっていた。



「完成したね。試してみる?っていってもボク呪い使えないけど」







魔物でもいないかと周りを見渡す青年。
断られることを前提に、試しに聞いてみる。



「お前が付けてみるか?」

「いいよ。ボクに呪いかけてみる?」




あっけらかんと了承する青年にこちらが驚く。
見知らぬ男をなぜそこまで信用できるのか。

私の手から完成したばかりの魔具を取ると、躊躇いもなく右腕に付ける。




「大丈夫。ゲルハルトほどの人が造ったものだよ?失敗はないよ」




それに、と言葉を続ける。









「死ぬような呪いじゃないしね。仮に失敗してても問題ないよ」








にこりと笑う、ここいらじゃ珍しい肌の色をした青年、ユーゲン。
若さの割りに肝が据わりすぎてはいないか。





なんともいえない気味の悪さを感じつつ、前触れもなく呪いを使う。
ぱん、と弾かれる感覚とともに、使っていた魔力が分散された。






「問題ないね。ちゃんと発動する。でも呪う前に一言ほしいな。驚くじゃないか」



そういいつつも焦った様子はなく平然としている。
魔具を外して私に戻すと、地面に描いていた記号を足で消して旅の荷物を背負った。



「じゃあ行こうか」
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