不死の魔法使いは鍵をにぎる

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兵士と乾杯

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結局、私はユーゲンと共に兵士らのところへ出向いていた。

指定された店からは、がやがやと騒がしい声。
中に入るとすぐに筋骨隆々な男が声をかけてくる。






「おう、ユーゲン。よくきてくれた」



昼食後に顔を出した時点でだいぶ仲を深めてきたらしい。
言葉を交わしながらにこやかにユーゲンに席を空ける。

共に歩いてくる私には軽い怪訝の目。
あの戦いの場で、ユーゲンしか目に入っていなかったようだな。



「ボクと旅をしてるゲルハルト。あのとき一緒に戦ってたから。つれてきたんだ」







ユーゲンの言葉にきょとんとした顔になる兵士たち。



「一緒に戦ってた?ユーゲン1人で倒していたように見受けられたんだが」

「ユーゲンが一突きで倒していたじゃないか。他のやつが戦っていた様子はなかったぞ」

「魔法で補助してもらってたんだよ。じゃなきゃあんな簡単に刃が入らないよ。あの魔物は物理攻撃に強いんだ」

「そうだったのか。まったく気付かなかったな」

「距離とってたからね。それだけ高い技術なんだよ。わかるでしょ?」

「ああ。魔法には明るくないがすごいことなのだとはわかる」







ざわざわし始める中で、誰かが口を開いた。



「とりあえず魔物を倒してくれたことに感謝して、乾杯でもしようじゃないか」



この地域の地酒であろうものを全員分頼もうとする兵士に、ユーゲンは制止をかける。



「ボクらはお酒は飲まないよ。ボクまだ未成年だから」

「まだ成人してないのか?その若さであの強さとは恐れ入るな」

「一度手合わせ願いたいな」







兵士たちの間にお酒がいきわたったところで乾杯が始まる。


昨日のような魔物が増えていること。
手負いの兵士が増えてきたこと。
魔王はまだ倒されないのか。
ユーゲンの戦い方について。
あの戦いのときにはどんな魔法をかけていたのか。


雑多に話が行き交う。



時たま私にも話を振られるが、短い返答しかしないため、ユーゲンへと話題は集中する。



「もっと会話しようよ。話つなげようよ」

「結構だ」







騒がしく飛び交う会話を聞きながら黙々と食事を取る。

ここの食事はなかなかうまいな。
次は昼間に一人で来よう。





「それにしても一向に帰ってくる勇者はいないな」

「半年前にあいつの息子が旅にでただろう。どうなったんだ」

「あいつは駄目さ。先月足を1本無くして帰ってきたらしい」

「魔王の地へ足を踏み入れてないってんだから全然だな」

「治癒師はいないのか?この街には。居るものだと思ってたよ。王都も近いし」



兵士の会話の途中でユーゲンが疑問を投げかける。





治癒師とは魔法で治療を施す者だ。
治癒師として活動するには王都で認定される必要があり、認定された者は王都を中心に周辺地域へと派遣される。




「何年か前に王都に戻されちまったんだよ。治癒師の数が足りないとかなんとかってな」

「ありゃ絶対うそだぜ。ただ王が不安なだけさ」

「今代の王は臆病だよなあ。頼りないっつうか」

「おかげで俺も傷が増える一方だってな」




王都で話したなら罰せられているだろう内容を、わいわいと大声で話す兵士たち。
体表面に傷のない者はなく、骨折により手や足を固定している者もいる。







ユーゲンがそれら兵士を見回した後にこちらを見る。



「治してあげなよ。ゲルハルトなら簡単でしょう」



兵士に聞かれないよう、抑えられた声。
私を無視して兵士に話を持ちかけないだけまだいいが、おせっかいなやつだな。



「そんな必要ないだろう」

「有るよ。大有りだよ。ここで魔物を食い止められれば王都への被害も減る。それにこのままじゃ兵士がくたばっちゃうよ。治癒師がいないなんて。魔王討伐までまだ先は長いのに」

「私には関係ないことだ」



王都での被害も兵士の疲弊も私には関係ない。
どれだけの被害が出ようが、どれだけの兵士がくたばろうが、どうだっていい。








「どうしてそんな…」







困ったように、悲しそうに、ぽつり呟いたが、この話題を続けるのは諦めたようだ。
席を立って兵士長らしき人物に話しかけに行った。
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