不死の魔法使いは鍵をにぎる

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特区の門

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次の日も、王都周辺の町は料理や芸を振る舞い、それを享受する人らで賑わっていた。

昨日は王城から少し距離のある王都北東部に行ったので料理の出し物が多かった。
今日は特区に行くために王城に特に近い地区に来ている。
料理よりも芸の出し物が多い。

魔王を倒しためでたさや、王城関係者も足を運ぶ地区であるために華やかさを演出するためだろうか。




人を避けて蛇行しつつ歩いていく。
特区に近づくにつれ、身なりの整った人間が増えて足元もきれいにならされた道になる。






さて。
特区と一般区を区切る門に来てみたがどうすればいいだろうか。


門には門番が立っており、顔や名前、出入りの目的などを聞いている。
私が中に通れる要素はない。


厳しく確認されている者と甘い者がいるな、と眺めていると服を引っ張られた。



「ありがとうゲルハルト。早速来てくれた。ぼく嬉しいよ」



私の膝あたりから見上げてくる幼児。
シュワーゼだ。

親や護衛などが近くにいる様子はない。





「お前どうやって来たんだ。門を通ってないだろう。1人か?」

「抜け出してきた。かくれんぼしようって言って。門はね。通らなくても出れるんだよ。この小さな体ならね」



どこか得意げににんまりと笑う。
小さな子供の体なら通れる抜け道があるようだ。



「毎回抜け出す気か?」

「いや、子供の体はすぐに成長するからね。今でもギリギリなんだ。すぐに使えなくなる。ゲルハルトいい時間帯に来てくれたよ。もう少しで門番が交代なんだ。ゲルハルトが通れるようにするよ」






待つ間に、と小包を取り出した。



「ゲルハルト甘いもの好きでしょう。お菓子だよ。蜜を使ったお菓子。食べながら待ってよう」

「いい案だ」




遠慮せずにかっさらう。





蜜は高級品である。
砂糖よりも甘さが強く深みのある蜜は、採取方法に難がある。
怪我は日常茶飯事、時には死ぬこともある。
そのうえ一度に取れる量が少なく、なりても少ない。


そんな蜜を使った菓子をさらりと出せるとは、さすが特区に住む人間だ。





一口サイズのビスケットに蜜がコーティングしてある。
パリッとした蜜の食感にビスケットのさっくりとした食感が混ざる。
ビスケットのバターの香り、少しの塩味、そして蜜の強い甘み。

ああ、久しぶりの菓子は素晴らしいな。


味わって食べていると、こちらをじっと見つめてくる視線。
年下の子を見つめるような、慈愛にも似た視線。

ノーラと同じ視線だ。
どこかでまだ疑っていたが、同一人物なのだと腑に落ちる。



「おい、なんだ」

「あ、ごめん。良かったと思って。気に入ってくれたみたいで」

「言っておくが、私のほうがはるかに年上だからな」



馬鹿にされているみたいで不快だ。
釘を刺しておこうとそう言うと、一瞬大きく目を見開いて、そうかと呟いた。



「ぼくより前の勇者だもんね。生まれ変わりに間が開く分差も開く。そうか。そっか!」



今にも飛び跳ねそうな声色だ。



「ぼくもう自分より年上の人には会えないと思ってた。一生無理だって。うわあ嬉しいな!」



本当に飛び跳ねたところで、門番の交代に気づいた。





「ゲルハルト行こう。一緒に来て。門番に顔覚えさせるから」

「そんなんで通れるようになるのか」

「大丈夫。ぼくに心酔してるんだよね。その門番。ぼくが言えば聞くよ」



4歳児に心酔する門番。
正気か。
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