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喋る木
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その人が喋る木と遭遇したのは初めての子供を身ごもったとき。
魔王がたって50年強。
畑の実りはどんどん少なくなり、森に出る動物も減り、食べ物に困っていたときだった。
このままではお腹の子ともども飢え死にしてしまうかもしれない。
夫は狩猟に出かけたまま帰ってこない。
重いお腹を抱えて必死に森で木の実や茸などを採取していると、不思議な人らしきものに出会った。
“人”とは言い難い風貌。
肘の当たりから肌色が緑がかり、手先は青々とした緑色。
ズボンの下から出ている足は木肌のように茶色く硬そうで、一歩動くたびに散る擦れた欠片。
言葉を介し、動き、概ね人間と同じ形状をしているが、少し離れると木々に紛れてしまう姿。
そんな、人とも木とも言い難い生き物だった。
木だと思っていたものに話しかけられて始めその人は動揺した。
しかし話し方は穏やかで、こちらの身を案じてくれている様子。
初めての出産や満足に取れない食料、帰ってこない夫など、押しつぶされそうな不安をこぼした。
すると、出産や夫のことはどうにもできないが、食料については力になれるかもしれないと言う。
案内されるがまま森を歩くと、小さくささやかな実をつける木々の一角に、丸々と美味しそうな果実が幾つも実る場所が。
この実をいくつか持っていくといい。
種は捨てずに植えれば、栄養のない土でも負けずに育つはずだ。
明日また来るのなら、より実りやすくなる方法を教えよう。
その喋る木の言葉に、ありがたく両手で持てるだけの果実をもいでその日は帰った。
久しぶりにお腹いっぱい満たすことができ、種は言われた通りに畑に植えた。
次の日はさっそく喋る木のもとへ行き、話を聞く。
喋る木は畑の実りをよくするためにはこうすると良い、と地面に緑色の手を当てる。
土から何か不快感のある魔力を取り出し、樹齢が高そうな大木へと移す。
痩せた土には今取り出したのと同じような魔力が含まれている。
これをこまめに大木へと移して畑を手入れすれば、実りは格段によくなる。
その助言をもとに、毎日畑の魔力を移して手入れを行った。
初日に持ち帰った果実は3日分の食事になった。
植えた種からは2日で芽が出てきた。
今にも枯れそうだった作物は次の日からピンと元気に茎を伸ばした。
収穫できる大きさも量も増え、飢えの心配はなくなった。
6日後にお礼を言いにまた森へ行ったが、喋る木に再び会えることはなかった。
それ以来、喋る木が教えてくれた方法を続けることで作物への心配はなくなった。
飢えがなくなり、十分な栄養が取れたことで健康な子も産め、夫は数か月後にひょっこり帰ってきた。
狩猟の途中で足を折り、親切な人の家で帰れるようになるまで休ませてもらっていたらしい。
不安はすべて解消された。
あの喋る木は神か、神の使いだったのではと。
「そう考えて子や孫に言い聞かせてるって話だった」
私は聞き取った話をさっそくシュワーゼに話していた。
化け物じみた、不思議な風貌の生き物。
耄碌しているとも、魔物に化かされていたとも言えたが、簡単に切り捨てられない理由があった。
「面白いね。なんで話を聞こうと思ったんだ?ゲルハルト。何か理由があるのでしょ?」
「ああ。その喋る木というのが出たのがレゲデの森だ。この森はとても広く、スプルェーベンの町に繋がっている。スプルェーベンの町は最期が記されていない勇者ヴァムの出生地だ。魔王の呪いによって風貌が変化したとも考えられる」
喋る木について話していた子供らがいたのが違う地域だったなら、私も嘘だと思い見過ごしていただろう。
喋る木の話を聞いてから、レゲデの森付近の町で似たような話はないかも調べてみた。
木が動いていた。
魔王時代でも枯れない魔法の地がある。
などの似たような話はあった。
複数の地から類似性のある話が聞けたのだ。
信憑性はあるだろう。
「可能性はあるね。その話の中にある魔力を移すっていうのは実際に効果があるのかな」
「まだ試していない。というか、今は魔王が立っていなくて作物は健康に育っている状態だから、試すに試せないな」
「そっか。そうだね。残念だな。魔王がいないのは良いことなんだけど」
パンを大きくむしって口の中に放り込むシュワーゼ。
シュワーゼが王城勤務から帰宅したあと、夕食がてら報告をしあっている。
「そうだ。聞いてよ!指南役なしで働けるようになったんだ。やっとだよ。認めてもらえるまで長かった」
シュワーゼが王城勤務を始めて4年。
成人して1年過ぎても未だ見習い扱いで、シュワーゼがとてもやきもきしていたところだった。
「よかったじゃないか」
「うん。よかった。本当によかった」
シュワーゼは安堵の溜息をついて、ワインや香辛料などで煮られた肉を大きな口で食べる。
今日の夕食は、外側パリパリ中はもっちりとした香ばしいパンに、柔らかくなるまで煮られた味の染みた肉、ジャガイモとチーズを混ぜたポテトサラダだ。
シュワーゼ家は全員が同じ王城勤務とはいえ、勤務時間は異なる。
家族で同じ食卓を囲むことは難しいため、個々人で使用人に食事を用意してもらい、自室で食事をとる形だ。
休みがかぶったときに食事を共にするらしい。
私は不定期にシュワーゼのもとへ訪れているが、シュワーゼが勤務後なら夕食を、休日ならば昼食か間食を共にいただいている。
金持ちの家なだけあって、食材は高級・作り手の腕もよい。
情報共有よりも食事を目当てに通っている日もある。
今日は成果ある情報を共有できたと思うがな。
魔王がたって50年強。
畑の実りはどんどん少なくなり、森に出る動物も減り、食べ物に困っていたときだった。
このままではお腹の子ともども飢え死にしてしまうかもしれない。
夫は狩猟に出かけたまま帰ってこない。
重いお腹を抱えて必死に森で木の実や茸などを採取していると、不思議な人らしきものに出会った。
“人”とは言い難い風貌。
肘の当たりから肌色が緑がかり、手先は青々とした緑色。
ズボンの下から出ている足は木肌のように茶色く硬そうで、一歩動くたびに散る擦れた欠片。
言葉を介し、動き、概ね人間と同じ形状をしているが、少し離れると木々に紛れてしまう姿。
そんな、人とも木とも言い難い生き物だった。
木だと思っていたものに話しかけられて始めその人は動揺した。
しかし話し方は穏やかで、こちらの身を案じてくれている様子。
初めての出産や満足に取れない食料、帰ってこない夫など、押しつぶされそうな不安をこぼした。
すると、出産や夫のことはどうにもできないが、食料については力になれるかもしれないと言う。
案内されるがまま森を歩くと、小さくささやかな実をつける木々の一角に、丸々と美味しそうな果実が幾つも実る場所が。
この実をいくつか持っていくといい。
種は捨てずに植えれば、栄養のない土でも負けずに育つはずだ。
明日また来るのなら、より実りやすくなる方法を教えよう。
その喋る木の言葉に、ありがたく両手で持てるだけの果実をもいでその日は帰った。
久しぶりにお腹いっぱい満たすことができ、種は言われた通りに畑に植えた。
次の日はさっそく喋る木のもとへ行き、話を聞く。
喋る木は畑の実りをよくするためにはこうすると良い、と地面に緑色の手を当てる。
土から何か不快感のある魔力を取り出し、樹齢が高そうな大木へと移す。
痩せた土には今取り出したのと同じような魔力が含まれている。
これをこまめに大木へと移して畑を手入れすれば、実りは格段によくなる。
その助言をもとに、毎日畑の魔力を移して手入れを行った。
初日に持ち帰った果実は3日分の食事になった。
植えた種からは2日で芽が出てきた。
今にも枯れそうだった作物は次の日からピンと元気に茎を伸ばした。
収穫できる大きさも量も増え、飢えの心配はなくなった。
6日後にお礼を言いにまた森へ行ったが、喋る木に再び会えることはなかった。
それ以来、喋る木が教えてくれた方法を続けることで作物への心配はなくなった。
飢えがなくなり、十分な栄養が取れたことで健康な子も産め、夫は数か月後にひょっこり帰ってきた。
狩猟の途中で足を折り、親切な人の家で帰れるようになるまで休ませてもらっていたらしい。
不安はすべて解消された。
あの喋る木は神か、神の使いだったのではと。
「そう考えて子や孫に言い聞かせてるって話だった」
私は聞き取った話をさっそくシュワーゼに話していた。
化け物じみた、不思議な風貌の生き物。
耄碌しているとも、魔物に化かされていたとも言えたが、簡単に切り捨てられない理由があった。
「面白いね。なんで話を聞こうと思ったんだ?ゲルハルト。何か理由があるのでしょ?」
「ああ。その喋る木というのが出たのがレゲデの森だ。この森はとても広く、スプルェーベンの町に繋がっている。スプルェーベンの町は最期が記されていない勇者ヴァムの出生地だ。魔王の呪いによって風貌が変化したとも考えられる」
喋る木について話していた子供らがいたのが違う地域だったなら、私も嘘だと思い見過ごしていただろう。
喋る木の話を聞いてから、レゲデの森付近の町で似たような話はないかも調べてみた。
木が動いていた。
魔王時代でも枯れない魔法の地がある。
などの似たような話はあった。
複数の地から類似性のある話が聞けたのだ。
信憑性はあるだろう。
「可能性はあるね。その話の中にある魔力を移すっていうのは実際に効果があるのかな」
「まだ試していない。というか、今は魔王が立っていなくて作物は健康に育っている状態だから、試すに試せないな」
「そっか。そうだね。残念だな。魔王がいないのは良いことなんだけど」
パンを大きくむしって口の中に放り込むシュワーゼ。
シュワーゼが王城勤務から帰宅したあと、夕食がてら報告をしあっている。
「そうだ。聞いてよ!指南役なしで働けるようになったんだ。やっとだよ。認めてもらえるまで長かった」
シュワーゼが王城勤務を始めて4年。
成人して1年過ぎても未だ見習い扱いで、シュワーゼがとてもやきもきしていたところだった。
「よかったじゃないか」
「うん。よかった。本当によかった」
シュワーゼは安堵の溜息をついて、ワインや香辛料などで煮られた肉を大きな口で食べる。
今日の夕食は、外側パリパリ中はもっちりとした香ばしいパンに、柔らかくなるまで煮られた味の染みた肉、ジャガイモとチーズを混ぜたポテトサラダだ。
シュワーゼ家は全員が同じ王城勤務とはいえ、勤務時間は異なる。
家族で同じ食卓を囲むことは難しいため、個々人で使用人に食事を用意してもらい、自室で食事をとる形だ。
休みがかぶったときに食事を共にするらしい。
私は不定期にシュワーゼのもとへ訪れているが、シュワーゼが勤務後なら夕食を、休日ならば昼食か間食を共にいただいている。
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