不死の魔法使いは鍵をにぎる

:-)

文字の大きさ
43 / 201

フォルグネとの話

しおりを挟む
王城の怪しい書庫については進展がないまま数日。

ブルデの協力を煽る良い案はないかとシュワーゼは頭をこねくり回しつつ、勤務に励んでいる。
私は喋る木の生息地を特定できないか模索しているところだ。



喋る木に関する話を聞ける地域はある程度の範囲に限られている。
話し手は伝説や幻などと思って話している者が多いが、喋る木は実在したし現在も生きていると私とシュワーゼは考えている。


どうにかして対面したいものだ。









「おう。ゲルハルト!」


考えながら特区の門をくぐると声をかけられた。



「フォルグネ」



当時4歳のシュワーゼに心酔していた門番、フォルグネである。



「相変わらずシュワーゼさんのところに通ってるんだな。ゲルハルトの顔を見るのは久しぶりだ。シュワーゼさんはお元気そうか?」






立場が偉くなったフォルグネはここ数年、門番として外に立つことはなかった。
それまでは2,3日に1度は必ず顔を合わせていたものである。

当初はライバル視されており目線が厳しかったが、顔を合わせるうちに軟化し、今ではシュワーゼに心酔する同士のように思われている。
不本意ながら。






「ああ、シュワーゼは相変わらず動き回ってるよ。せっかくお前の顔を見ずにすんでたのにな。門番に格下げか?」

「俺は会えて嬉しいぜゲルハルト。残念ながら順調に出世してるよ。今度、門番たちの試験が行われるんだ。それの試験対策でな、門番業務をきちんとできているか、ようは見張りだよ」

「門番に試験とかあるのか。何を試験するんだ?」

「ここで言えるわけないだろ。というか、詳しいことは俺も知らないんだ。試験で重視される点をまとめた書物が王城で管理されてるって話だけど、もっと上の連中じゃないと見れないしな」





シュワーゼが言っていた書庫ではないかと、直感が言う。



「それは王の執務室の近くにある部屋に保管されてるんじゃないか?」

「よく知ってるな。そうさ。治安管理の部が管理してる部屋だ。だから試験内容を決める上層部以外は試験内容はわからない。不正はできないってことさ」

「しっかり不正対策されてるんだな。フォルグネはその試験に通過したのか?」

「もちろん。出世には必須の試験だ。シュワーゼさんにも助力をもらったからな。必死で頑張ったさ」





シュワーゼからの助力がいかに的確だったか、どれだけ他の門番に羨ましがられたか、シュワーゼがいかに素晴らしいかを述べられる。


おそらく門番仲間には話を聞いてもらえないのだろう。
久々に会って、自分同様にシュワーゼと親しい私に口が止まらない様子。

面倒に感じつつ、シュワーゼを褒め称える合間に差し込まれる情報に耳が離せない。


結局、同僚らしき門番に叱られるまでフォルグネの話は続いた。








シュワーゼの部屋に顔を出すと、遅かったねと声がかかる。
今日のシュワーゼは勤務の無い休日だ。



「フォルグネに捕まってたんだよ。話が長い」

「フォルグネ!久しく会ってないなあ。元気だった?聞くまでもないか。その様子だと」

「ああ。相変わらずのシュワーゼ狂だったよ。でもいい話が聞けた」



用意された、蜜を練りこんだビスケットにハーブティーで一息ついてから報告をする。



「今度、門番たちの試験があるらしい」

「ああ。今頃だったね。そういえば。懐かしいな」



フォルグネに助言してた頃を思い出したのか、シュワーゼは目を細める。



「その試験の内容についての書物が、“あの書庫”に置いてあるそうだ」

「書庫に?ふうん。怪しいもの以外もしまわれてるのか。なら、やりようがあるな」



途端に、シュワーゼの瞳がぎらりと燃える。








秘匿すべき情報のみがしまわれている場合、ブルデへの建前をでっちあげるのが難しかった。

しかし、業務で使う情報もしまわれているのならば、建前は作りやすい。
書庫に入れる可能性はぐんと上がる。






「門番試験に関する書物、か。試験関係がしまわれているということか?なら官吏試験の書物も置いてありそうだな。官吏試験はぼくが見てもおかしくはない。うん。いけそう」



ぶつくさと考えを回しては、満足そうに頷く。
ようやく進展するかもしれない。



「いい情報をありがとう。ゲルハルト。喋る木の方はどう?進んでる?」

「いまいちだな。新しい噂やらも聞かなくなったし、難しい」






レゲデの森近辺の村は一通りまわった。

喋る木に直接会ったという人物はあの老婆のみで、それ以外は脚色がされていそうな噂や伝説ばかりだった。

しかし噂や伝説でも、類似点は真実に近い部分だと考えられる。
幅広く話は聞いた。

手がかり程度のことで構わないから何か情報はないかと。
だが聞けるのは、曖昧なものばかりだ。



森のどこかに魔法の地があるらしい。
木々の生い茂る森深くで木が動いた。



場所を特定するには程遠い情報。





喋る木はいったん諦めて、違う地域に調べに行ったほうがいいかもしれない。








「そっか。残念。じゃあ次はぼくが頑張ってくるね。何か新しい情報を持ち帰れるように」



ここしばらくは少し落ち込み気味だったシュワーゼ。
鍵の書庫に入れる可能性が出てきて、やる気が出たようだ。
フォルグネもたまには役に立つ。





それからしばらく、シュワーゼは書庫を出入りする人物を密かに調べ、しまわれている書物の種類をまず推測しているようだ。

今のところ考えられる書庫に入る方法は、ブルデの協力が必須である。
仮にブルデが書庫の中身を知っていて、シュワーゼが話した書庫に入る理由が見当違いだった場合、むしろ障害になる可能性もある。

厳重に管理されている書庫に嘘をついて入ろうとしているのだ。
王城勤務もできなくなるかもしれない。
それは避けたい。
慎重に調べを重ねているところだ。




私はというと、喋る木を中心に調べていたのをいったん諦め、また違う地域に足を延ばしている。

師匠がどのように腕の魔法陣を編み出したのか、それについても調べたいところだ。



調べる時間は飽きるほどにある。
一番調べたい魔王の呪いについて、重点的に調べることはもう困難だ。
あらゆることを調べていって、関連するものが出てくることを祈りたい。



裾野を広く、視野を広く、だ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...