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きな臭い噂
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門番の試験は本日行われているらしい。
該当の兵士たちは特区内の専用施設で試験を受けている。
その穴埋めで、上の地位に就いた連中も門番の役に一時的に戻っているようだ。
つまり、数日ぶりにフォルグネに会った。
「ゲルハルト。数日ぶりだな」
「また門番に戻ってるのかフォルグネ」
「今日が試験日でな。人手が足りなくなるから穴埋めをしてるんだ。そうだ。ゲルハルトと話した数日後にシュワーゼさんが会いに来てくれてさ、久々に話せたよ。何か知らんが俺のおかげでうまくいきそうだってさ」
自慢のつもりなのか、デレデレとした笑顔で私に話す。
「あ、そういや。ちょっときな臭い噂を聞いてさ」
兵士らしい真面目な顔にすっと切り替えて、声のトーンも落とすフォルグネ。
耳を貸せ、という仕草をされたので顔を近づける。
「今の王は先代の王以上に臆病だって噂、一度くらいは聞いたことあるだろ?最近それが病的になってるんだよな。側近のうちの何人か、怪しいと疑われて処分されたって話を聞いた。
シュワーゼさん、いろんなとこに首突っ込みがちだからさ、ちょっと気を付けるよう言っといてくれよ」
約100年前、ユーゲンと旅していた時に臆病だと話されていた先代の王。
魔物に襲われやすい地域に派遣すべき治癒師を王都に戻し、自らの守りを固めていた王。
その王以上に臆病だという今代の王。
しかし、何をそんなに恐れる必要があるというのか。
魔王がたっていたときならいざ知らず、今は倒されてまだ十数年だ。
平和は深まるばかり。
駄目になっていた畑や壊された塀などの復旧を頑張ろうという時期である。
「忠告はシュワーゼに伝えておくよ。聞くかどうかは知らないがな」
「だよなーそうだよなー。シュワーゼさんやりたいことは絶対やるからなーっ!」
膝に手を当て、心配を込めに込めた大きな溜息を吐きながらフォルグネが嘆く。
「屋敷や特区の抜けだしは日常茶飯事だったし、訓練小屋に出入りしたがったり、自分の剣を欲しがったり、兵士の駐屯場に出入りしたがったり、魔物がいる森に行きたがったり」
あれもこれもと上げ連ねられるシュワーゼの過去の所業。
客観的にシュワーゼの行動を聞いてみると、相当手のかかる面倒くさい人物だな。
「シュワーゼさんの行動を制限したくはないけど、くれぐれも気をつけてくれよ。頼むぜゲルハルト」
「ああ」
その日のシュワーゼは、いつもよりも少し遅めに帰ってきた。
屋敷に入れば、シュワーゼ付きの使用人が自然と紅茶や茶菓子などを用意してくれる。
シュワーゼが仕事の日は、勤務終了時間におおよそ合わせて来てるので、すでに帰宅しているか、紅茶を半分口にした辺りで帰ってくる。
なのに今日は、もう少しでポットの紅茶まで飲み終えそうだった。
「あ、ゲルハルト。いらっしゃい。待たせたね」
「遅かったな」
「うん。ちょっとね」
簡単に荷物を片付け、上着を脱ぎ、速やかに用意されたシュワーゼ分の紅茶に口をつける。
ふう、と一息ついてから、シュワーゼは口を開いた。
「今日、ようやく“書庫”に入れたよ」
書庫の存在を知ってから2,30日は経っただろうか。
ようやく。
「それで遅くなったのか?」
「いや、ちょっと違う。お偉い方が来てね。書庫に入った理由を聞かれたんだ」
「咎められたのか」
フォルグネの話が頭をかすめ、一瞬ひやりとする。
「大丈夫。理由を聞かれただけだよ。真っ当な理由で入ったからね。咎めようがないよ」
合否判定に困る結果の兵士がおり、書庫の過去資料に似たような判例がないか見てくると提案して鍵を入手したようだ。
「本来ならその権限はないけどね。慌ててたからばれないでしょう。同じ所属の者じゃない限り。複合的に問題が起きてたからね」
さらりと危ないことを言う。
後から追及されたら懲戒も有り得る状況だ。
「…まあ、いい。それで何かわかったのか」
「書庫の中身を確認してきた。ごく簡単に、だけど。あまり時間かけたくなかったからね」
本来なら書庫に入れない身。
長々と書庫で調べていてはその事実に気づかれる危険性があがる。
また、官吏の仕事で求められるのは素早さと正確さだ。
仕事ができない奴だと評価されては王城で動き回りづらくなってしまう。
表題を一瞥し、数冊厳選して目次に目を通すに留めてきたそうだ。
「なぜ官吏には黒色肌が多いのか。それを書庫で大事に秘匿してたみたいだよ。王族は。王族の歴史とかを期待してたけどそれはなさそうだったな」
「そんな大事に隠すべき情報なのかそれは」
「さあ?まだわからないよ。掘れば何か出てくるかもね」
実に楽しそうに口端を引き上げるシュワーゼ。
一度鍵を借りた事実を作ってしまえば、再び借りるのは簡単である。
シュワーゼに鍵を使う権限は本来ないが、所属が違う者はそこまで知らない。
以前貸し出したから、と判定が緩くなるはずである。
「楽しみだな。大事に秘匿されている情報だもの。何が出てくるかな」
「少しは気をつけろよ。最近の王は病的に臆病で、処分された側近もいるってフォルグネが心配してたぞ」
「僕も耳にしてるよ、その話は。でも慎重になってたら達成できないこともあるでしょう?やれるときにやらなくちゃ」
想像はしていたが、全く耳を貸す余地のない態度。
そのうち本当に殺されそうだな。
「…お前、もしかしてそうやって無茶して早死にを繰り返してるんじゃないだろうな」
「そんなことないよ。できることなら死にたくないもの。…でも結果的にそうなることもあるね」
つまり早死にはよくしてるってことだな。
該当の兵士たちは特区内の専用施設で試験を受けている。
その穴埋めで、上の地位に就いた連中も門番の役に一時的に戻っているようだ。
つまり、数日ぶりにフォルグネに会った。
「ゲルハルト。数日ぶりだな」
「また門番に戻ってるのかフォルグネ」
「今日が試験日でな。人手が足りなくなるから穴埋めをしてるんだ。そうだ。ゲルハルトと話した数日後にシュワーゼさんが会いに来てくれてさ、久々に話せたよ。何か知らんが俺のおかげでうまくいきそうだってさ」
自慢のつもりなのか、デレデレとした笑顔で私に話す。
「あ、そういや。ちょっときな臭い噂を聞いてさ」
兵士らしい真面目な顔にすっと切り替えて、声のトーンも落とすフォルグネ。
耳を貸せ、という仕草をされたので顔を近づける。
「今の王は先代の王以上に臆病だって噂、一度くらいは聞いたことあるだろ?最近それが病的になってるんだよな。側近のうちの何人か、怪しいと疑われて処分されたって話を聞いた。
シュワーゼさん、いろんなとこに首突っ込みがちだからさ、ちょっと気を付けるよう言っといてくれよ」
約100年前、ユーゲンと旅していた時に臆病だと話されていた先代の王。
魔物に襲われやすい地域に派遣すべき治癒師を王都に戻し、自らの守りを固めていた王。
その王以上に臆病だという今代の王。
しかし、何をそんなに恐れる必要があるというのか。
魔王がたっていたときならいざ知らず、今は倒されてまだ十数年だ。
平和は深まるばかり。
駄目になっていた畑や壊された塀などの復旧を頑張ろうという時期である。
「忠告はシュワーゼに伝えておくよ。聞くかどうかは知らないがな」
「だよなーそうだよなー。シュワーゼさんやりたいことは絶対やるからなーっ!」
膝に手を当て、心配を込めに込めた大きな溜息を吐きながらフォルグネが嘆く。
「屋敷や特区の抜けだしは日常茶飯事だったし、訓練小屋に出入りしたがったり、自分の剣を欲しがったり、兵士の駐屯場に出入りしたがったり、魔物がいる森に行きたがったり」
あれもこれもと上げ連ねられるシュワーゼの過去の所業。
客観的にシュワーゼの行動を聞いてみると、相当手のかかる面倒くさい人物だな。
「シュワーゼさんの行動を制限したくはないけど、くれぐれも気をつけてくれよ。頼むぜゲルハルト」
「ああ」
その日のシュワーゼは、いつもよりも少し遅めに帰ってきた。
屋敷に入れば、シュワーゼ付きの使用人が自然と紅茶や茶菓子などを用意してくれる。
シュワーゼが仕事の日は、勤務終了時間におおよそ合わせて来てるので、すでに帰宅しているか、紅茶を半分口にした辺りで帰ってくる。
なのに今日は、もう少しでポットの紅茶まで飲み終えそうだった。
「あ、ゲルハルト。いらっしゃい。待たせたね」
「遅かったな」
「うん。ちょっとね」
簡単に荷物を片付け、上着を脱ぎ、速やかに用意されたシュワーゼ分の紅茶に口をつける。
ふう、と一息ついてから、シュワーゼは口を開いた。
「今日、ようやく“書庫”に入れたよ」
書庫の存在を知ってから2,30日は経っただろうか。
ようやく。
「それで遅くなったのか?」
「いや、ちょっと違う。お偉い方が来てね。書庫に入った理由を聞かれたんだ」
「咎められたのか」
フォルグネの話が頭をかすめ、一瞬ひやりとする。
「大丈夫。理由を聞かれただけだよ。真っ当な理由で入ったからね。咎めようがないよ」
合否判定に困る結果の兵士がおり、書庫の過去資料に似たような判例がないか見てくると提案して鍵を入手したようだ。
「本来ならその権限はないけどね。慌ててたからばれないでしょう。同じ所属の者じゃない限り。複合的に問題が起きてたからね」
さらりと危ないことを言う。
後から追及されたら懲戒も有り得る状況だ。
「…まあ、いい。それで何かわかったのか」
「書庫の中身を確認してきた。ごく簡単に、だけど。あまり時間かけたくなかったからね」
本来なら書庫に入れない身。
長々と書庫で調べていてはその事実に気づかれる危険性があがる。
また、官吏の仕事で求められるのは素早さと正確さだ。
仕事ができない奴だと評価されては王城で動き回りづらくなってしまう。
表題を一瞥し、数冊厳選して目次に目を通すに留めてきたそうだ。
「なぜ官吏には黒色肌が多いのか。それを書庫で大事に秘匿してたみたいだよ。王族は。王族の歴史とかを期待してたけどそれはなさそうだったな」
「そんな大事に隠すべき情報なのかそれは」
「さあ?まだわからないよ。掘れば何か出てくるかもね」
実に楽しそうに口端を引き上げるシュワーゼ。
一度鍵を借りた事実を作ってしまえば、再び借りるのは簡単である。
シュワーゼに鍵を使う権限は本来ないが、所属が違う者はそこまで知らない。
以前貸し出したから、と判定が緩くなるはずである。
「楽しみだな。大事に秘匿されている情報だもの。何が出てくるかな」
「少しは気をつけろよ。最近の王は病的に臆病で、処分された側近もいるってフォルグネが心配してたぞ」
「僕も耳にしてるよ、その話は。でも慎重になってたら達成できないこともあるでしょう?やれるときにやらなくちゃ」
想像はしていたが、全く耳を貸す余地のない態度。
そのうち本当に殺されそうだな。
「…お前、もしかしてそうやって無茶して早死にを繰り返してるんじゃないだろうな」
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