不死の魔法使いは鍵をにぎる

:-)

文字の大きさ
45 / 201

お喋りレフラ

しおりを挟む
門番の試験は無事に終わり、シュワーゼへのお咎めも無かった。

あの書庫へ連日出入りする人間はいない。
昨日の今日でまた鍵を借りに行っては、怪しんでくれと言っているようなものである。


シュワーゼは次の機会を伺いつつ勤務に励んでいる。







私はといえば、ユーゲンと旅したときに師匠の逸話や伝説を聞いた土地や、私と師匠が往年過ごした町デルアンファ、師匠の出身地などを回って師匠について調べている。


私が知っている師匠そのものだ、という内容もあれば、事実かどうか疑わしいものもある。
一緒に過ごしていた時期の話は判断しやすいが、出会う前の話、私が魔王討伐に出かけていたころの話は真偽が判断しがたい。



「子供を吹き飛ばして殺した」というのもあり、有り得なさ過ぎて笑ってしまった。





師匠の出身地は、王都から距離がある。

しかし途方もなく離れているわけではなく、馬車などの交通手段を使えば数日で王都まで行けるほどほどの距離。
そして魔王城と王城を結んだ直線上からも少し逸れており、全くないとは言えないが、魔物被害が少ない地域だ。

王都の情報を程よく受け取りつつ、独自の魔法研究等を行える距離感。


ここで、師匠は魔法陣の研究をしていたはずである。
魔法陣は悪魔の技術と言われていた時代に、どのように知識をつけ、研鑽していたのか。




しばらくこの町で情報収集していたが、他の町と比べて特異な部分は大して見受けられない。
よくある、都会に近い田舎町だ。

いや、師匠が居たのは1000年前の話なのだから、今と状況は違うわけだが。








図書館に寄り、食堂で昼食を取り、町を歩いて探索する。
今日は特に有益な情報は得られなかったな、と王都に戻り特区のシュワーゼ宅に向かっていると、誰かに呼び止められた。



「ゲルハルトさん」


早歩きで近づいてくるのはレフラだ。



「お久しぶりですね。シュワーゼさんのところに向かうんですか?」






レフラが教師として屋敷に来ていたのはブルデが学校に通っていたころである。

ブルデが学校を卒業して6年ほどたつ。
同様の年月、レフラとは顔を合わせていなかった。



「…ああ、そうだ」

「私も屋敷に向かうところなんです。一緒に行きませんか?」



勝負を挑んできていたときの対抗意識はどこへやら、ほがらかにレフラは笑う。



「…構わないが」



態度の違いが気持ち悪い。
眉根が自然と寄る。

そんな私の顔を見て、申し訳なさそうにレフラは口を開いた。



「あの頃はごめんなさい。今考えると、なんて幼かったんだろうって思います。仮にも魔法学校を主席で卒業して、自分が負けた事実を認めたくなかっただけなんです、きっと。あの実力差で、どれだけ努力したって敵うはずがなかったのに」








あの訓練小屋で、幾度となく魔法勝負をした。


結果を見るまでもなく、魔力を練っている時点ですでに歴然とした実力差。
戦意を喪失しておかしくなかったはずだ。

その圧倒的な差を見せつけて勝負を終わらせたい私の意に反して、ブルデもレフラも何度も勝負を挑んできた。



面倒だという思いしかなく、レフラとブルデの顔を見るだけで表情がゆがんだあの頃。
勝負がなくなってしまえば、ただのよく喋るやつだ。








「ゲルハルトさんに勝ちたくて努力したおかげで学校では好成績を収めたし、王城勤務でも役立ってるってブルデ、ゲルハルトさんに感謝してるんですよ。

あれだけ喧嘩腰だったくせにって、恥ずかしいから本人には言えないって言ってましたけど。

魔法統括者にも匹敵する実力じゃないかって、ブルデ、実はこっそりゲルハルトさんのこと慕ってるんです。

顔合わせたときには、良かったら会話してやってくださいね。あの人喜ぶので」


「はあ」



何やら好意的にとらえられている。
だから婚約報告もしてきたのだろうか。



「あ、もちろん私だって尊敬してますよ、本当に。今ならよくわかるんです。私とゲルハルトさんの実力差がどれだけのものだったか。

振り返れば、魔法学校では理論の詰め込みばかりでした。座学でいい成績をとったところで、魔法技術が高いわけではないんですよね。恥ずかしいことに、あの頃の私はうぬぼれてました」



少し落ちる声とともに、目を伏せた。
と思ったら、勢いよくこちらを見上げる。



「ゲルハルトさんはどちらの学校出身ですか?どのように魔法を勉強してました?」





くそ。
こういう、波のように気分が変わるやつは苦手だ。

舌打ちが出そうになる。





「私は、途中から学校には行っていない。…魔法は知り合いから教わってた」

「そうなんですか?学校に頼りすぎてはいけないということですかね…」



顎に手を当てて考え込むレフラ。

屋敷に居た頃は、落ち着いていながらもめげない闘志が面倒な奴だという印象だったが…。
案外落ち着きがないやつかもしれない。

早く屋敷に着かないだろうか。



「あ、突然ごめんなさい。実はブルデとの子供ができたことが分かって…。気が早いですけど、教育方針の参考に聞いておこうかと思ったんです。ブルデの魔力を継いで、魔力量のある子が産まれるかもしれませんからね。そうなったら、私の知識も生かしてとことん魔法分野を伸ばしてあげたいんです」



生き生きとレフラは教育方針を語っていたかと思いきや、今度はじっと私の顔を見る。



「…なんだ」

「ゲルハルトさんって全然お顔が老けないですね」

「そういう、老けにくい顔なんだろ」


















一瞬、心臓が掴まれたかのように、胸が詰まった。







そういえばシュワーゼと会ってから12年余りが経っている。
人間と関わるようになったのが久方ぶりすぎて忘れていたが、今まで誰にも怪しまれていなかったのが奇跡とも言える。


このままシュワーゼのところに通い続けるのは危険か?

平静を装いつつ考えを巡らせる私にレフラは変わらず一人喋り続ける。



「すごく羨ましいです。私なんてすっかり若さが薄れちゃいました。ブルデとは年が離れてるので、隣歩いてるときとかぴちぴちお肌が羨ましくって。夜更かししないようにしたり、お肌には気を使ってるんですけどね」



レフラはさして気にしていないようだ。
一度シュワーゼに相談したほうがよさそうだな。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...