不死の魔法使いは鍵をにぎる

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破天荒な結界張

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師匠について情報を集めていたら、結界張の研究をしているという者に出会った。

魔法技術をそこまで高められる者とそうでない者の違いは何か、魔物や魔法使用を妨げる結界はどう張るのか、などを調べているようだ。



その人物によると、結界魔法を使える者に技術の優劣があるように、結界張の中でも実力差があるという。
歴代の結界張の中でも間違いなく実力があったとされるのは数人。


数千人が暮らす集落に、誰と交代することもなく1人で結界を張り続けた者。
魔法効果を阻害するどころか、発現できないほどの強い結界を張った者。
結界を張りながら、さらに治癒魔法を使って人々の治療を行った者。



興味深く話を聞いていたら、歴代最強と言われた魔法統括者を欺き逃げ出した結界張の話が出てきた。





結界張の脱走者はめったにいない。
そもそも逃げ出そうと考える者がいない。
高給の身分から逃れようと考える者は少ないのだ。

結界張から脱走し、かつ歴代最強といわれる魔法統括者を撒いた者。
ほぼ確実に師匠の話だ。



「この人はすっげえ破天荒な人だったみてえだな。結界張からの脱走以外にも滅茶苦茶な話が残ってるわ。本当に実在してたのか?って俺は思っちまう」



実在してたよ。
残ってる話に違わぬ破天荒さだったよ。

そんなことは口が裂けてもこいつには言えない。心の中で留めておく。


少し懐かしさに浸りつつ、しかし脚色されて伝わってるらしき話を面白く聞かせてもらった。







その結界張は、ある日突然連れてこられた。

片足を引きずるようにして歩く、長髪を一つに束ねた男。
転移妨害のため捕まれた腕を振り払おうと暴れていたが、統括者の前に連れてこられるとピタリと動きを止めたという。
瞬時に実力差を悟り、逃避を試みたところで無駄だと理解したからだ。


その男は結界を張る中でも特に重要な区域、王都区の結界張りを任された。
恐怖政治をしいていた統括者を恐れたのか、当初逃げようと暴れていたのに反して勤務態度は至極真面目。

任に就かせるにあたっての調査では、「子供を殺した」だの「禁忌の術に魅入られた狂人」だの碌な情報を得られなかったが、真っ当な人間に見えた。

禁忌の術についての研究は処罰に値すべき事由だが、証拠がなかったため見逃された。



それまでは2人がかりで結界が張られていた王都の防衛が強化でき安心したのも束の間、その男は勤務時間外でたびたび問題を起こした。


王都への魔物持ち込み。
結界内での魔法使用。
特区への忍び込み。


そのたびに厳重注意するものの、男ほどの結界技術を持った者は少ない。
結界張の役割自体は果たしているため、対処に困る結果となった。




結界張の任は果たしつつ、たびたび役人とは衝突しつつしばらく、あるとき王と統括者が反発する。
王と統括者は蜜月だと噂されるほどの仲で、王城に勤めているものからすると晴天の霹靂だった。


口論が勃発して会議に遅刻。
意見が反発して業務の滞り。


周囲の者は酷く狼狽え、結界張の管理などに目が行き渡らなくなる。



男はその機を逃さず、休暇日に行方をくらました。
用意周到なことに、発覚が遅れるよう自分の代わりも準備して。

役人の振りをして代役の結界張を任命。
男と見られる者の出門が確認されなかったため、変異して出て行ったと思われる。


脱走発覚後、必死の捜索が行われたが見つからず、結局その男は任から外されることとなった。
一度認知した魔法使いを見失うことはないと言われた最強の統括者からも逃げ切り、悪い意味で伝説となっている。







「すっげえだろ?子供殺したようなやつが結界張やってるなんて信じらんねえだろ。嘘じゃねえかな。でも実際に脱走記録は残ってんだよな」




私はその子供を殺したという記録が間違っていると思う。

師匠がそんなことをするはずがない。
私を育んでくれた、愛ある優しい爺ちゃんだ。




しかしこの男からだけでなく、ほかの人間からも子供殺しを耳にしている。

何か事実が捻じ曲げられて“殺した”となったのか。
他者の話が交じって師匠のものとして残されているのか。
何かしらはあったということなのだろう。

官吏が調べた記録なら事実に近しい情報だろうか。



変わらない容姿が怪しまれるまでの時間制限もある。
なるべく早めにブルデに話を通したいところだな。
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