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喋る木との邂逅
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「外の人はどこからくるんだ?」
木登りをしていた双子が、動きを止める。
しがみついていた木からずり落ちて、顔を見合わせる2人。
目線で言葉を交わしてから私を見る顔には、先ほどまではなかった疑心。
「兄ちゃん外からきたんでしょ?」
「外からきたんじゃないの?」
あの小さな村で、顔を知らない住民がいるというのは有り得ない。
私が村の外からきたのは一目瞭然である。
なぜ外からきたのかを問う必要があるのか。
双子の言う“外”には違う意味がある。
「“外”っていうのはどこを指しているんだ?」
私の言葉に双子は両手で口を抑え、わかりやすく答えられない姿勢を示す。
「兄ちゃん違う人だ」
「話しちゃダメな人だ」
再び顔を見合わせて、村へと一目散に走り去っていった。
地図に載っていない地域は全然足を踏み入れていなかったが、調べる価値がありそうだな。
情報が集まるのは人が多くいる場所だ。
書物だって流通するのは人工が多い町になる。
こういう小さな村には書物は存在せず、日々の暮らしをなんとかするのに精一杯で、有益な情報も存在しない。
しかし西地域は例外かもしれないな。
双子の言っていた“外”とは、おそらくここよりもさらに西に行った方だろう。
行ってみるか。
時折鉢会う魔物を蹴散らしながら木立を進む。
視力を強化して目を凝らしてみるが、村らしきものは見当たらない。
人間にも出会わない。
日が暮れてきたので、その日は諦めて転移で根城に戻った。
無策で探しても難しそうだ。
思った以上に森は深く、移動しづらい上に視界が悪い。
数日間探索を繰り返し、小川や畑にしやすい土、実や茸が取りやすそうな場所を記録していく。
定住するには、生活しやすい環境が必要になる。
水や食料が取れる土地の近くにあってしかるべきだ。
そう見当をつけてみるも、人間の住処らしきものに出会わない。
数度、あの双子の姿を森で見かけたが、私の顔を見るなり逃げて行った。
あの村に再び出向いても情報を得られることはなさそうだ。
数十日ねばって探し続けてみたが結局村は見つからず、私は諦めることにした。
これだけ探して何も見つからないということは、結界で村を隠している可能性もある。
結界を壊すことは可能だが、結界の場所がわからない状態ではどうすることもできない。
諦めて違う地域で情報収集したほうが有益だ。
溜息をついてそう結論付けたとき、視界の端で樹木が動いた気がした。
風などで枝葉が揺れたという動きではない。
魔物でも現れたのかと、警戒しながら目をこらす。
緩やかに風で揺れる周りの木々とは明らかに違う、横移動をしているように見える木。
木が、歩いている?
注視していたら、向きを変えたその木と目が合った。
“目が合った”
違う。
木ではない。
人間、…か?
人間とは言い難い風貌だが、そう思える。
よく見れば服だって着ている。
薄汚れていてもはや襤褸だ。
ゆっくり、ゆっくりと歩く、木に見間違えてしまう人間、らしき生き物。
もしやあれが“喋る木”だろうか。
木肌の固そうな足は、間接があまり曲がらないらしい。
摺り足のような移動。
腕も顔も人間らしい肌色部分は見当たらず、青々とした緑色。
肩や頭部からは小ぶりの葉が幾つも生えている。
以前老婆から聞いた話とは風貌が違うが、年月を経て人間から樹木により近づいてしまったのかもしれない。
ゆっくりとしか動けないらしいそいつは、少しずつ近づいてくる。
私が3、4歩近づけば手が届く距離になって声をかけてきた。
「どうした。迷い込んだのか?」
「…いや、少し探索をしていたんだ」
言葉を交わすことができる。
低めの落ち着いた声だ。
若干テンポの遅い喋り方。
「お前の名は?人間か?」
「バウムという。…あなたがそう、認めてくれるのなら、私はまだ人間なのだろう」
バウム。勇者ヴァムではないのか?
こいつが“喋る木”なのは間違いなさそうだが。
「お前、何十年か前に森で畑の実りを改善する方法を教えてないか?魔力を、土から大木に移す方法だ」
「いつのことかはわからないけれど、何人かの人に、教えているな。もう、月日の間隔がわからないんだ」
月日の間隔がわからないというのは、植物化している影響か。
わからなくなるだけの長い時間を生きてきたということか。
「探索、というのは、何かを探しているのか?私に手伝えることは、あるだろうか」
「村を探していたんだ。この辺りに村はないか?」
「確かに村は、存在する。しかし、私には教えられない」
知らないと言われる前提で聞いてみたのだが、よもや答えが返ってくるとは。
しかし“教えられない”とはどういうことなのか。
「何故だ?別に何か危害を加えようというわけではない。ただ調べたいことがあるだけだ」
数秒考えて、バウムは首を横に振る。
「それでも、そっとしておいて、やってほしい。彼らは衝突を、望まない」
秘する村の住民と知り合いなのだろうか。
衝突なぞ、面倒だからこちらだってお断りなのだが。
まあ、いい。
僻地の村を探し出すよりも、目の前のバウムから情報を得るほうがよっぽど有意義だ。
「わかった。村を探すのはやめよう。代わりにバウムと話がしたい」
「それなら、歓迎する」
ずっと無表情で話していたバウムが、ほんのりと口角を上げた。
木登りをしていた双子が、動きを止める。
しがみついていた木からずり落ちて、顔を見合わせる2人。
目線で言葉を交わしてから私を見る顔には、先ほどまではなかった疑心。
「兄ちゃん外からきたんでしょ?」
「外からきたんじゃないの?」
あの小さな村で、顔を知らない住民がいるというのは有り得ない。
私が村の外からきたのは一目瞭然である。
なぜ外からきたのかを問う必要があるのか。
双子の言う“外”には違う意味がある。
「“外”っていうのはどこを指しているんだ?」
私の言葉に双子は両手で口を抑え、わかりやすく答えられない姿勢を示す。
「兄ちゃん違う人だ」
「話しちゃダメな人だ」
再び顔を見合わせて、村へと一目散に走り去っていった。
地図に載っていない地域は全然足を踏み入れていなかったが、調べる価値がありそうだな。
情報が集まるのは人が多くいる場所だ。
書物だって流通するのは人工が多い町になる。
こういう小さな村には書物は存在せず、日々の暮らしをなんとかするのに精一杯で、有益な情報も存在しない。
しかし西地域は例外かもしれないな。
双子の言っていた“外”とは、おそらくここよりもさらに西に行った方だろう。
行ってみるか。
時折鉢会う魔物を蹴散らしながら木立を進む。
視力を強化して目を凝らしてみるが、村らしきものは見当たらない。
人間にも出会わない。
日が暮れてきたので、その日は諦めて転移で根城に戻った。
無策で探しても難しそうだ。
思った以上に森は深く、移動しづらい上に視界が悪い。
数日間探索を繰り返し、小川や畑にしやすい土、実や茸が取りやすそうな場所を記録していく。
定住するには、生活しやすい環境が必要になる。
水や食料が取れる土地の近くにあってしかるべきだ。
そう見当をつけてみるも、人間の住処らしきものに出会わない。
数度、あの双子の姿を森で見かけたが、私の顔を見るなり逃げて行った。
あの村に再び出向いても情報を得られることはなさそうだ。
数十日ねばって探し続けてみたが結局村は見つからず、私は諦めることにした。
これだけ探して何も見つからないということは、結界で村を隠している可能性もある。
結界を壊すことは可能だが、結界の場所がわからない状態ではどうすることもできない。
諦めて違う地域で情報収集したほうが有益だ。
溜息をついてそう結論付けたとき、視界の端で樹木が動いた気がした。
風などで枝葉が揺れたという動きではない。
魔物でも現れたのかと、警戒しながら目をこらす。
緩やかに風で揺れる周りの木々とは明らかに違う、横移動をしているように見える木。
木が、歩いている?
注視していたら、向きを変えたその木と目が合った。
“目が合った”
違う。
木ではない。
人間、…か?
人間とは言い難い風貌だが、そう思える。
よく見れば服だって着ている。
薄汚れていてもはや襤褸だ。
ゆっくり、ゆっくりと歩く、木に見間違えてしまう人間、らしき生き物。
もしやあれが“喋る木”だろうか。
木肌の固そうな足は、間接があまり曲がらないらしい。
摺り足のような移動。
腕も顔も人間らしい肌色部分は見当たらず、青々とした緑色。
肩や頭部からは小ぶりの葉が幾つも生えている。
以前老婆から聞いた話とは風貌が違うが、年月を経て人間から樹木により近づいてしまったのかもしれない。
ゆっくりとしか動けないらしいそいつは、少しずつ近づいてくる。
私が3、4歩近づけば手が届く距離になって声をかけてきた。
「どうした。迷い込んだのか?」
「…いや、少し探索をしていたんだ」
言葉を交わすことができる。
低めの落ち着いた声だ。
若干テンポの遅い喋り方。
「お前の名は?人間か?」
「バウムという。…あなたがそう、認めてくれるのなら、私はまだ人間なのだろう」
バウム。勇者ヴァムではないのか?
こいつが“喋る木”なのは間違いなさそうだが。
「お前、何十年か前に森で畑の実りを改善する方法を教えてないか?魔力を、土から大木に移す方法だ」
「いつのことかはわからないけれど、何人かの人に、教えているな。もう、月日の間隔がわからないんだ」
月日の間隔がわからないというのは、植物化している影響か。
わからなくなるだけの長い時間を生きてきたということか。
「探索、というのは、何かを探しているのか?私に手伝えることは、あるだろうか」
「村を探していたんだ。この辺りに村はないか?」
「確かに村は、存在する。しかし、私には教えられない」
知らないと言われる前提で聞いてみたのだが、よもや答えが返ってくるとは。
しかし“教えられない”とはどういうことなのか。
「何故だ?別に何か危害を加えようというわけではない。ただ調べたいことがあるだけだ」
数秒考えて、バウムは首を横に振る。
「それでも、そっとしておいて、やってほしい。彼らは衝突を、望まない」
秘する村の住民と知り合いなのだろうか。
衝突なぞ、面倒だからこちらだってお断りなのだが。
まあ、いい。
僻地の村を探し出すよりも、目の前のバウムから情報を得るほうがよっぽど有意義だ。
「わかった。村を探すのはやめよう。代わりにバウムと話がしたい」
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