63 / 201
双子と呪い
しおりを挟む
成長し大人に近づいてくると、しがみついてくることはなくなったものの、変わらず面は奪われる。
ある時望まぬ追いかけっこをしていると、突然に双子の片方の叫び声が響き渡った。
面を持った方が叫び声に駆け寄り、自然と私も駆けつける形になる。
叫び声をあげたのは、双子の女の方、ズィリンダだった。
腕に鋭く長いひっかき傷ができ、血が流れている。
逃げる魔物の姿があるので、あの魔物に傷つけられたのだろう。
そこまで深い傷ではなさそうだ。
傷から漂う魔力の残滓に漂う呪いの気配。
魔物を倒していないから呪いは解けていない。
魔物を倒すべきか、と動こうとしたところで、双子が何かをしていることに気づく。
双子の男の方、ズィレンデが腕の傷に手をかざしている。
魔力操作を行っているようで、徐々に薄まっていく呪いの気配。
突然のことに私は目を見張った。
魔物を、術者を倒さずに、呪いを解いた。
目を丸くする私には気づかず、双子が顔を見合わせてよかったと息をつく。
次いで傷の手当に入り、下手くそながらも治療を施した。
私はたった今見た光景が信じられない。
拙いにもほどがある魔法技術と、少ないであろう魔力量。
そんな子供が、弱いものではあるがいとも簡単に呪いを解いた。
シュワーゼとともにあれだけ呪いの解き方を探して、それでも見つからなかったものだ。
こんなところで見つかるとは。
「今のはどうやったんだ」
「いまの?」
「どれ?」
「いま呪いを解いただろう。どうやったんだ」
「どうやってる?」
「どうだろうね?」
首をかしげる双子。
からかわれているのかと思ったが、そうではない。
感覚的に行っているため言語化できないようだ。
何とか聞き出したが、広げてざらざらを取るだの、潜って黒いのを捕まえるだの、理解ができない。
村の大人どもに聞けば何かわかるだろうか。
双子に認められてから、大人たちの態度は若干軟化した。
しかし依然壁は存在し、せいぜい軽い雑談が可能になった程度である。
呪いの解き方を聞いて答えが返ってくるかどうかは定かではない。
しかし呪いに関しては久方ぶりの進歩だ。
聞きに行かないという選択肢はなかった。
以前村に話を聞きに行ってからしばらく経っているだろうか。
村の大人たちからも話が聞けるようになっていればいいのだが。
まずは双子の親のところへ行ってみる。
腕に怪我を負い魔物に呪われたが、自分たちで呪いを解いて怪我の治療も行っていたと話すと、満足げにうなずいた。
教えをようやく実現できたと頷いているような、そんな雰囲気。
「この村の者は呪いが解けるのか?」
幾度も言葉を交わして婉曲的に攻める技術は持ち合わせていない。
直球で聞いてみる。
即座に言葉が返ってくることはなく、あるのは値踏みするような視線。
情報を与えてもいいのか、判定されている。
一言二言しか返事がない段階から、他愛もない話はできるようになり、そして今、線引きを緩めるかどうかを考えている。
遅々とした歩みだがきちんと進展している。
「この辺りで暮らすなら、呪いを解けなければ生きていけない」
沈黙ののちに発せられたのは、質問への答え。
より深くに踏み込んでもいいと許可されたようである。
「魔物が出るからか。倒せばいいのではないか?」
「倒すよりも呪いを解くほうが効率がいい。体力的にも魔力的にも」
魔王がいない平和期であっても、魔王城が近いこの辺りでは魔物がたびたび現れる。
弱いものばかりだが、いちいち相手にはしていられない。
とくに成長途中の子供では魔物を倒そうとしても返り討ちにあってしまう可能性がある。
魔物を追いかけて森深くに足を踏み入れ、道がわからなくなることも有り得るだろう。
畑の手入れや食事の準備、洗濯や掃除などに追われている大人は終始子供に構っていられない。
この辺りの魔物は強くない。
かけられる呪いも強くない。
魔王が立ち強い魔物が現れるようになっても、王城の方を目指してこの辺りは素通りするのだ。
反撃の姿勢を見せれば逃げる魔物。
かけられる呪いも弱い。
となれば、簡単な治癒と解呪の魔法を子供に習得させる方が生存確率は上がる。
言葉を話せるようになるとまず、治癒と解呪の魔法を教える。
そうすれば、約束事が守れる年齢になれば放任できるようになる。
村から離れないように。
森深くに入らないように。
それだけは必ず守るように強く強く言い聞かせ、自由に遊ばせる。
それがこの村の状況らしい。
ある時望まぬ追いかけっこをしていると、突然に双子の片方の叫び声が響き渡った。
面を持った方が叫び声に駆け寄り、自然と私も駆けつける形になる。
叫び声をあげたのは、双子の女の方、ズィリンダだった。
腕に鋭く長いひっかき傷ができ、血が流れている。
逃げる魔物の姿があるので、あの魔物に傷つけられたのだろう。
そこまで深い傷ではなさそうだ。
傷から漂う魔力の残滓に漂う呪いの気配。
魔物を倒していないから呪いは解けていない。
魔物を倒すべきか、と動こうとしたところで、双子が何かをしていることに気づく。
双子の男の方、ズィレンデが腕の傷に手をかざしている。
魔力操作を行っているようで、徐々に薄まっていく呪いの気配。
突然のことに私は目を見張った。
魔物を、術者を倒さずに、呪いを解いた。
目を丸くする私には気づかず、双子が顔を見合わせてよかったと息をつく。
次いで傷の手当に入り、下手くそながらも治療を施した。
私はたった今見た光景が信じられない。
拙いにもほどがある魔法技術と、少ないであろう魔力量。
そんな子供が、弱いものではあるがいとも簡単に呪いを解いた。
シュワーゼとともにあれだけ呪いの解き方を探して、それでも見つからなかったものだ。
こんなところで見つかるとは。
「今のはどうやったんだ」
「いまの?」
「どれ?」
「いま呪いを解いただろう。どうやったんだ」
「どうやってる?」
「どうだろうね?」
首をかしげる双子。
からかわれているのかと思ったが、そうではない。
感覚的に行っているため言語化できないようだ。
何とか聞き出したが、広げてざらざらを取るだの、潜って黒いのを捕まえるだの、理解ができない。
村の大人どもに聞けば何かわかるだろうか。
双子に認められてから、大人たちの態度は若干軟化した。
しかし依然壁は存在し、せいぜい軽い雑談が可能になった程度である。
呪いの解き方を聞いて答えが返ってくるかどうかは定かではない。
しかし呪いに関しては久方ぶりの進歩だ。
聞きに行かないという選択肢はなかった。
以前村に話を聞きに行ってからしばらく経っているだろうか。
村の大人たちからも話が聞けるようになっていればいいのだが。
まずは双子の親のところへ行ってみる。
腕に怪我を負い魔物に呪われたが、自分たちで呪いを解いて怪我の治療も行っていたと話すと、満足げにうなずいた。
教えをようやく実現できたと頷いているような、そんな雰囲気。
「この村の者は呪いが解けるのか?」
幾度も言葉を交わして婉曲的に攻める技術は持ち合わせていない。
直球で聞いてみる。
即座に言葉が返ってくることはなく、あるのは値踏みするような視線。
情報を与えてもいいのか、判定されている。
一言二言しか返事がない段階から、他愛もない話はできるようになり、そして今、線引きを緩めるかどうかを考えている。
遅々とした歩みだがきちんと進展している。
「この辺りで暮らすなら、呪いを解けなければ生きていけない」
沈黙ののちに発せられたのは、質問への答え。
より深くに踏み込んでもいいと許可されたようである。
「魔物が出るからか。倒せばいいのではないか?」
「倒すよりも呪いを解くほうが効率がいい。体力的にも魔力的にも」
魔王がいない平和期であっても、魔王城が近いこの辺りでは魔物がたびたび現れる。
弱いものばかりだが、いちいち相手にはしていられない。
とくに成長途中の子供では魔物を倒そうとしても返り討ちにあってしまう可能性がある。
魔物を追いかけて森深くに足を踏み入れ、道がわからなくなることも有り得るだろう。
畑の手入れや食事の準備、洗濯や掃除などに追われている大人は終始子供に構っていられない。
この辺りの魔物は強くない。
かけられる呪いも強くない。
魔王が立ち強い魔物が現れるようになっても、王城の方を目指してこの辺りは素通りするのだ。
反撃の姿勢を見せれば逃げる魔物。
かけられる呪いも弱い。
となれば、簡単な治癒と解呪の魔法を子供に習得させる方が生存確率は上がる。
言葉を話せるようになるとまず、治癒と解呪の魔法を教える。
そうすれば、約束事が守れる年齢になれば放任できるようになる。
村から離れないように。
森深くに入らないように。
それだけは必ず守るように強く強く言い聞かせ、自由に遊ばせる。
それがこの村の状況らしい。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる