不死の魔法使いは鍵をにぎる

:-)

文字の大きさ
86 / 201

マーツェとバウム

しおりを挟む
「バウム。バウムはいるか?」



呼びかけながら森を歩く。

呪いによる木への変態は進みに進み、バウムがじっとしていると気づけないこともある。



「…ゲル、ハルト、か」

「バウム。そっちか」



バウムがこちらに顔を向けることで、生えている枝葉が揺れる。
視界の端に、軽く目を見開くマーツェの顔が映った。



「マーツェ。話していたバウムだ」



簡単に、マーツェも呪われていることや呪いを解く方法を一緒に探していることなどをバウムに説明する。








勇者に関する記録に最期の様子が描かれていなかったのは私とバウムの2人だ。

現マーツェである勇者ルターは生まれ変わるという呪いのため、死亡の記録は残されていた。
その後の勇者も、魔王討伐後どう生きどう死んだのかはきちんと記録されている。



魔王の呪いのせいで今なお苦しんでいるのは恐らく今ここにいる3人だ。








「生まれ変わる、と、いうのも、なか、なかに辛い、状態だろう」

「そうかな。そうかもね。でも面白い状況もあったよ。たまにね。かつての友達が自分の親になるとか。はじめはすごく戸惑ったな」



マーツェはけらけらと笑う。

ほぼ木が喋っていると言ってもいいほどに容姿が人間とは離れたバウムに、始めは驚き戸惑っていた様子だが、すぐに慣れたようだ。
しかしバウムの姿でこれだけ驚かれると、ベスツァフ達に会わせるのは余計に憚られるな。







「ちょっと気になるんだけどさ。“ヴァム”って残されてたんだよね。勇者に関する記録には。どうして名前が違うんだろう。バウムのことには間違いないと思うんだけど」



私も気になっていた点だ。
そういえば聞きそびれていた。

問われたバウムは数秒思考する。





「…ヴァム、は私の、あだ、名だった。魔王を、倒した後、私は王城に、行って、いない。仲間が、報告、に行った。王城など縁の、ない、目上の者、と話す、ことも少な、い、一介の兵士だ。緊張、してた、のか、もしれない」







通常、魔王を倒した勇者は自ら王に報告をし、褒美を得る。
自らの名前を間違える者などいないだろう。


しかしバウムは報告を仲間に任せ、自らが王城に足を踏み入れることはなかった。
バウムの仲間は手柄を横取りすることなく事実をありのままに王に報告をした。

魔王を倒すことができた。
でも私ではなく同行した仲間が倒して。
仲間の名前はヴァムと言って。


しどろもどろに何とか言葉をつなげて報告をしたのだろう。
慣れない相手、慣れない場所にバウムの仲間は大層緊張した。
頭が真っ白になりそうな状況で言えたのは正式な名前ではなく、言い慣れたあだ名だった。


それが記録として残り、勇者の名前はヴァムになったのだろうと言う。








「うんうん。それなら有り得るね。でもどうして?滅多にない機会なのに。王城に入れることも。勇者になれることも。あれだけの褒美を得られることも。

それに見合った苦労はしたでしょう?いや、足りないくらいかも。自分で報告に行った方が絶対よかったよ」


「長く、生きるつも、りは、なかった、からな。家族の、仇は、打った。何をする、気にも、なれなかった。
食べ物も食べ、ないで、ただただ、自宅、で、横たわって、私は餓死、するつもり、だったんだ」






褒美を受け取ったところで、金塊を使うことなどない。
今すぐにでも死にたい男をもてなすために豪勢な食事を用意するなど無駄でしかない。
それよりも、討伐の旅で苦労した仲間のために、魔物に襲われて疲弊した民のために、金や食料を使ってほしかった。



けれど呪われたバウムの体は、食事をとらなくても死ぬことはなかった。




バウムの状況は、私が残していた情報でマーツェもおおよそを把握している。
大切な家族を亡くし、その仇をうち、餓死するつもりだったのに死ねなかったバウム。

500年の時が、樹木へと変わっていく体と共に静かに流れた。







「そっか」



弱く呟いて、気分を変えるかのようにマーツェは快活な声を出す。



「早く呪い解かないとね。確実に進んでる。終わりは近づいてる。きっと解けるよ」



バウムを励ますようにも、自分を励ますようにも聞こえるマーツェの言葉。

バウムは穏やかに微笑む。



「私のこと、はいい。自分の、ために、頑張るといい。おそ、らく、私の終焉、は、近い。ようやく、家族の元に、行ける。長い、時だった、が、それも、終わる。私は、大丈夫だ」






私がバウムと会ったばかりのときにも言っていた。


“終わりは近い”


あの時よりも樹木に近づき、根が張った体は歩けなくなり、肌が固くなったことで一層喋りが遅くなったバウム。
当事者ではなくとも実感する。




なんと答えたものか言葉を探し、数秒沈黙してマーツェは口を開く。



「…羨ましいような、悲しいような、だな」

「ああ。ゲルハル、トと、マーツェにも、終わりが来る、ことを、願ってる」





通常ならば死は恐ろしい存在であり、長く生きていたいと、生にしがみつくものなのだろう。

しかし気が狂いそうなほどに長い時を生きた。
終わりの見えない生。
異常として迫害されうる見た目や精神。




私たちは死を切望している。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

死ぬ瞬間にだけ、愛してほしい

しょくぱん
恋愛
「代わって。死なない程度に、ね?」 異母姉リリアーヌの言葉一つで、エルゼの体は今日もボロボロに削られていく。 エルゼの魔法は、相手の傷と寿命を自らに引き受ける「禁忌の治癒」。 その力で救い続けてきたのは、初恋の人であり、姉の婚約者となった王太子アルベルトだった。 自分が傷つくほど、彼は姉を愛し、自分には冷ややかな視線を向ける。 それでもいい。彼の剣が折れぬなら、この命、一滴残らず捧げよう。 だが、エルゼの寿命は残りわずか。 せめて、この灯火が消える瞬間だけは。 偽りの聖女ではなく、醜く焼けた私を、愛してほしい。

【完結】存在しないことにされていた管理ギフトの少女、王宮で真の家族に出会う 〜冷遇された日々は、王宮での溺愛で上書きします〜

小豆缶
恋愛
「願った結果を、ほんの少しだけ変えてしまう力」 私に与えられたギフトは、才能というにはあまりにも残酷な自分も人の運命も狂わせるギフトだった。 そのあまりの危うさと国からの管理を逃れるために、リリアーナは、生まれたことそのものが秘匿され、軟禁され、育てられる。 しかし、純粋な心が願うギフトは、ある出来事をきっかけに発動され、運命が動き出す。 二度とそのギフトを使わないと決めて生きてきたのよ だが、自分にせまる命の危機ーー 逃げていた力と再び向き合わなければならない状況は、ある日、突然訪れる。 残酷なギフトは、リリアーナを取り巻く人たちの、過去、未来に影響し、更には王宮の過去の闇も暴いていく。 私の愛する人がどうか幸せになりますように... そう、リリアーナが願ったギフトは、どう愛する人に届くのか? 孤独だったリリアーナのギフトが今、王宮で本当の幸せを見つけるために動き始める

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

救国の代償で白髪になった聖女、一度のミスを理由に「無能の戦犯」として追放される ~隣国の覇王に拾われ、愛され、奇跡の力を見せつける~

スカッと文庫
ファンタジー
聖女アリシアは、百年に一度の大氾濫から国を守るため、禁忌の魔力全解放を行い、単身で数万の魔物を殲滅した。その代償として、彼女の美しい金髪は真っ白な「白雪色」に染まり、魔力は一時的に枯渇してしまう。 しかし、その功績はすべて現場にいなかった「偽聖女セシリア」に奪われ、アリシアは「結界を一部損壊させた戦犯」「魔力を失った役立たず」として、婚約者の王太子ギルバートから国外追放を言い渡される。 「失敗したゴミに、この国の空気は吸わせない」 泥の中に捨てられたアリシア。しかし、彼女を拾ったのは、敵対国として恐れられていた帝国の「武徳皇帝」ラグナールだった。彼はアリシアの白髪が「高純度の神聖魔力による変質」であることを瞬時に見抜き、彼女を帝国の宝として迎える。 数ヶ月後。アリシアが帝国の守護聖女として輝きを取り戻した頃、王国では「一度きりの奇跡」だったセシリアの魔力が尽き、本当の滅亡が始まっていた。 「今さら結界が解けたと泣きつかれても、もう私の魔力は一滴も残っていません」

【完結】メルティは諦めない~立派なレディになったなら

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 レドゼンツ伯爵家の次女メルティは、水面に映る未来を見る(予言)事ができた。ある日、父親が事故に遭う事を知りそれを止めた事によって、聖女となり第二王子と婚約する事になるが、なぜか姉であるクラリサがそれらを手にする事に――。51話で完結です。

処理中です...