不死の魔法使いは鍵をにぎる

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マーツェの嫌悪的態度

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「つまり褒美や実力が理由じゃない。黒色肌は自分たちで地位を固めていったわけだ。半ば王を脅すように。

書かれてた情報の全てが正しいとは限らないけど。でも流れは合ってる。特区が設立されてから初代の魔王が倒される流れだ。魔力量を理由に登用基準を変えたわけでもない。

真実味がある。以前知った説よりかずっとね」






対外的に耳障りのよい説を後世に残すために、“王を守った褒美と魔力量の実績で黒色肌が重用されるようになった”と記された書物がつくられたのだろうとマーツェは言う。

真実はごくごく一部で秘匿して。






「まあまだ謎はあるけどね。何を発明したのかとか。“争い”とは何を指しているのか。追い出された人物はどうなったのか。
…王城に残されてるのかな。その辺の情報も。うーん。あの時殺されるべきじゃなかったかな。もうちょっと慎重に行動してれば…。でも絶好の機会だったんだよな」





100年前の行動をいまさら後悔してもどうしようもない。
視野を広く持っているようで、時たま突っ走るマーツェに息を吐く。



「これからどうする」

「どうしようね。今の私は単なる子供だからな。特別な場所で調査とかできない。シュワーゼとは違ってね。ゲルハルトと同じところを回るって手もあるけど。子供と大人じゃ探れるところが違うもんね」



確かに子供相手だと警戒心が低い者もいる。
マーツェと行動を共にしていた方が都合がいいだろうか。









「そういえば。異形の姿の人たちの村って何?先を聞きたくて流しちゃったけど」

「なぜそうなのかは知らないが、生まれつき獣のような部位を持って生まれる者たちが集まった村だ。手足がそうであったり、顔であったり、ごく一部の者もいる」



話しながら、ノートの端に絵を描く。

半面で隠せる鼻と口元が異形のベスツァフ。
手足が獣で尻尾も生えているバリエレ。
手足合わせて6本生えている者や、獣の耳が生えている者。


それぞれの姿を思い浮かべて書いた絵からマーツェに視線を移すと、ひどく顔を歪めていた。



「本当に人間?呪いじゃなくその姿なのか?生まれつきって…。そんなこと有り得るのかな」

「彼らは自分たちを人間だと言っていた。閉鎖的に暮らしていて、中に入るのにも苦労したんだ。先ほどもこの村に行っていたからマーツェは連れていけなかった」

「村では何を?」

「魔法教育を行ってる」





マーツェは乾いた笑いを浮かべた。
無駄な行動だと馬鹿にしているかのように。




「贅沢だね。ゲルハルトが魔法教師だなんて。かつて魔王を倒した勇者。結界も転移もお手の物な魔法使い。それがそんな辺鄙な村で」












こんな反応をするとは思っていなかった。

レフラには辛辣な態度を取ったりもしていたが、あれは性格や態度を直で知っていての態度だ。
会ったこともない知らない相手に嫌悪する姿は見たことがない。





「随分とつっかかるな」

「…ごめん。失礼だったね。ろくに知りもしないのに。この絵を見たらつい」


私が描いたベスツァフたちの絵を指すマーツェ。




「なんだか魔物みたいだ。この絵。ゲルハルトが描いた絵だし。実物はもうちょっと違うのかもしれないけど。魔物が嫌いなんだよ。私。差別的な態度だったね」










獣と魔物を分ける違いはただひとつ。
魔法を使うか使わないか、だ。


魔法を使わないのが獣。
魔法を使うのが魔物。


姿かたちで線引きをするのは難しい。
害獣駆除や癒し目的に家庭で飼育される犬猫のように親しみやすい見た目の魔物もいれば、一目で魔物だと解る禍々しい容姿の魔物もいる。



魔物みたいだというマーツェの言葉で、初めて気づいた。
ベスツァフたちのことを獣に似た部位を持つ人間だと捉えていたが、“魔物に似た部位”と捉えることもできる。









「定期的に村に行ってるのか?」

「毎日だな。夕方からが教育の時間になっている」

「付いて行ってもいいか?今度でいい。一度見てみたい。この目で確かめたい。異形の姿を」



純粋な興味や調査目的という、明るい意味で言っているとは思えなかった。
ベスツァフたちにマーツェを会わせたら衝突しそうだ。
そうなると魔法での誓いに反する恐れも出てくる。



「考えさせてくれ」

「うん。わかった」



とりあえずは私とともに各地へ調査に行くという話に落ち着いた。
明日はバウムに会わせる。
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