84 / 201
王が記した書物
しおりを挟む
シュワーゼが死ぬ前に読んでいたのは、王としての心構えや肝に銘じておくべき教訓が記された資料だった。
大昔の王が、祖父から聞いた高祖父についての話を、自戒とともに後世に伝えるため残された書物。
書物を記した人物の高祖父は晩年、酷く自責の念に駆られていたという。
流されるべきではなかった。
勝手を許してはならなかった。
うわ言のように繰り返し繰り返し口にしていた。
高祖父は初代魔王と対立した王である。
人類と魔物。
長く続く争いの始まりを経験し、人類のためにもがいた王。
民に伝わる偉大で勇敢な王という人物像とは異なり、能力はあれど天才ではない、親しみの持てる普通の人間だった。
高祖父はある部下を信じ切れず、違う部下の意見に流され、また勝手な動きを許してしまったことを後悔していた。
高祖父が命じ、人類の発展に大きく寄与するであろう発明をした部下。
しかしその発明は画期的すぎた。
きちんとした理性の元活用できるのか。
暴走させることは無いのか。
不安に駆られ、人類に害をもたらすと考える者もいた。
高祖父自身も使い道を間違えれば危険であるとは感じたものの、発明した部下を信じていた。
不安はわかる。
しかし間違えないよう慎重に利用していけばいい。
けれどとある部下は高祖父に強く意見する。
もしものことがあったらどうするのですか。
王は民が大事ではないのですか。
あんな危険な発明は無くすべきです。
そうかもしれない。
しかし。
煮え切らない態度の王に、部下は勝手を決意する。
発明者である部下を処罰し追い出したのだ。
なぜ勝手をした。
追い出すことはないだろう。
何を言っているのです。
王も危険だとお考えなのでしょう。
危険なものをそのまま置いておくつもりですか。
民を危険にさらすおつもりですか。
危険なものは排除せねば。
民だけでなく、王ご自身も危険にさらされる可能性もあるのですよ。
高祖父はここで揺らいでしまった。
いや、その前からすでに、反対意見に流されて煮え切らない態度を取ってしまった。
我々が、我々一族が王をお守りします。
王をお守りするためなのです。
ご理解ください。
勝手をした部下は黒色肌だった。
王の周りは黒色肌で固められるようになった。
やがて魔王が立ち、少なくない数の民が犠牲になり、高祖父は不安と恐怖に駆られるようになった。
私のせいで民は犠牲になったのか。
私が間違えなければ争いは生まれなかったのか。
罪悪感に押しつぶされるように、高祖父は理性的な考えができなくなっていった。
決断ができない高祖父に代わり、黒色肌の部下が采配を振るようになる。
王を守るため。
有事にすぐ駆けつけるため。
そう理由を付けて特区を作り、自分たち一族が住まうようになった。
王城に勤める官吏も黒色肌が占めるようになった。
官吏登用の基準は変更され、官吏として働けるのは黒色肌のみに。
確かに魔力量が多い者は黒色肌である割合が大きかったものの、それ以外にも優秀な者は存在した。
しかし登用基準が変更された流れで、黒色肌以外の官吏へ風当りが強くなり、やめる者も増えた。
この事実も高祖父を責め、退位し王としての体面を取り繕う必要のなくなってからは、見る見るやつれていった。
うわ言のように後悔や自責の言を繰り返す高祖父。
その姿を見ていた若き祖父は、心に刻んだ。
王として上の立場に立つ以上、他者の言葉に流されてはいけない。
他者の意見を聞くことは大事だが、勝手は許さず律しなければならない。
正常な判断を下すため、恐怖や不安に囚われてはならない。
祖父は自分の子に教え伝え、孫にも度々言い聞かせる。
孫である大昔の王は、これを書物に記し残すことにした。
文字が普及し、情報を視覚化して残す文化の黎明期だった。
大昔の王が、祖父から聞いた高祖父についての話を、自戒とともに後世に伝えるため残された書物。
書物を記した人物の高祖父は晩年、酷く自責の念に駆られていたという。
流されるべきではなかった。
勝手を許してはならなかった。
うわ言のように繰り返し繰り返し口にしていた。
高祖父は初代魔王と対立した王である。
人類と魔物。
長く続く争いの始まりを経験し、人類のためにもがいた王。
民に伝わる偉大で勇敢な王という人物像とは異なり、能力はあれど天才ではない、親しみの持てる普通の人間だった。
高祖父はある部下を信じ切れず、違う部下の意見に流され、また勝手な動きを許してしまったことを後悔していた。
高祖父が命じ、人類の発展に大きく寄与するであろう発明をした部下。
しかしその発明は画期的すぎた。
きちんとした理性の元活用できるのか。
暴走させることは無いのか。
不安に駆られ、人類に害をもたらすと考える者もいた。
高祖父自身も使い道を間違えれば危険であるとは感じたものの、発明した部下を信じていた。
不安はわかる。
しかし間違えないよう慎重に利用していけばいい。
けれどとある部下は高祖父に強く意見する。
もしものことがあったらどうするのですか。
王は民が大事ではないのですか。
あんな危険な発明は無くすべきです。
そうかもしれない。
しかし。
煮え切らない態度の王に、部下は勝手を決意する。
発明者である部下を処罰し追い出したのだ。
なぜ勝手をした。
追い出すことはないだろう。
何を言っているのです。
王も危険だとお考えなのでしょう。
危険なものをそのまま置いておくつもりですか。
民を危険にさらすおつもりですか。
危険なものは排除せねば。
民だけでなく、王ご自身も危険にさらされる可能性もあるのですよ。
高祖父はここで揺らいでしまった。
いや、その前からすでに、反対意見に流されて煮え切らない態度を取ってしまった。
我々が、我々一族が王をお守りします。
王をお守りするためなのです。
ご理解ください。
勝手をした部下は黒色肌だった。
王の周りは黒色肌で固められるようになった。
やがて魔王が立ち、少なくない数の民が犠牲になり、高祖父は不安と恐怖に駆られるようになった。
私のせいで民は犠牲になったのか。
私が間違えなければ争いは生まれなかったのか。
罪悪感に押しつぶされるように、高祖父は理性的な考えができなくなっていった。
決断ができない高祖父に代わり、黒色肌の部下が采配を振るようになる。
王を守るため。
有事にすぐ駆けつけるため。
そう理由を付けて特区を作り、自分たち一族が住まうようになった。
王城に勤める官吏も黒色肌が占めるようになった。
官吏登用の基準は変更され、官吏として働けるのは黒色肌のみに。
確かに魔力量が多い者は黒色肌である割合が大きかったものの、それ以外にも優秀な者は存在した。
しかし登用基準が変更された流れで、黒色肌以外の官吏へ風当りが強くなり、やめる者も増えた。
この事実も高祖父を責め、退位し王としての体面を取り繕う必要のなくなってからは、見る見るやつれていった。
うわ言のように後悔や自責の言を繰り返す高祖父。
その姿を見ていた若き祖父は、心に刻んだ。
王として上の立場に立つ以上、他者の言葉に流されてはいけない。
他者の意見を聞くことは大事だが、勝手は許さず律しなければならない。
正常な判断を下すため、恐怖や不安に囚われてはならない。
祖父は自分の子に教え伝え、孫にも度々言い聞かせる。
孫である大昔の王は、これを書物に記し残すことにした。
文字が普及し、情報を視覚化して残す文化の黎明期だった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる