不死の魔法使いは鍵をにぎる

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かつての絶望

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変化のない私とマーツェの立場。
ついにマーツェは声を荒げる。




「どうしてだよ!ゲルハルトはそんなに人が憎いのか!?同じ人間じゃないか!ゲルハルトだって人間じゃないか!」

「恨むなという方がどうかしてる」



荒ぶるマーツェに反して、心底冷えていく私の声。







いっそ滅びればいいとさえ思う。
人間など救いようのない生き物だ。
温情も義理もあったもんじゃない。






「お前はないのか?

致死量の毒を盛られ、苦しむ姿を化け物のような目で見られ、なお死なない体に剣を突き立てられたことは。気味が悪いと家に火を付けられたことは。

腐敗した食物を押し付けられたことも、家をヘドロで汚されたことも、一度たりともないのか?」














それはうすうす魔王の呪いに気づき始めていたときだった。
師匠が亡くなってから十数年が経ったとき。

一向に変化がなく感じる自分の顔。

住民からは不審な目を感じるようになっていた。
不審な目をする者の中には、学校に通っていたころ怪我をさせた奴も混ざっている。



ある時飯屋でおまけをもらった。
新料理を開発中で、家に持ち帰って味見をしてほしい、と。

それまで一度たりとも注文したもの以外を出されたことはなかった。
他の客におまけを渡している素振りもなかった。

けれどその時は特に疑うこともなく、素直におまけを受け取った。



その日の夕飯、用意した料理と共におまけを口に入れ、舌に触れた瞬間吐き出した。

神経を取り出したかのように感覚のない舌。
そのくせ、痺れがして苦みを感じるような気がする。

ついさっき食べたものが食道を逆流する。
舌先から広がる痺れ。
鼓動を刻むごとに痛くなる心臓。

手足が震え、吐瀉物の上に倒れた。
息ができない。
目玉が焼け落ちそうに熱い。



おまけには猛毒が含まれていたのだ。
少量口に入れただけで死に至る毒。
舌に触れた毒は致死量だったはずだ。

私の命もすぐに終わる。



けれどやけに長く痛みも苦しみも続いた。

床に倒れ、声も出せず息もできずに痛みや熱さに苦しんでいると、朦朧とする意識に破壊音が届く。
飛び散るのは扉だった木片。
町の者が入ってきて、汚物を見る目で私を見下ろす。



おいまだ息があるぞ。
ちゃんとあの毒を使ったのか。
気味が悪いな本当に人間か?



それは、害獣や魔物に対する方が優しいかもしれない、嫌悪に満ちた声。



死ぬ気配がないじゃないか。
すでに死んでていいはずだ。
毒が効きにくいのかもしれない剣で止めを刺そう。



畑を耕したり、食堂を切り盛りしたり、争いとは縁のないはずの者たち。
そのはずの者たちが左胸を狙って剣を突き立て、苦しむ私を見て心臓に刺さっていないのではと喉に突き刺し、声なき声を漏らす私に恐怖する。



まだ生きてやがる化け物じゃねえか。
だから止めようって言ったんだ復讐されたらどうする。
家に火をつけようさすがに焼かれれば全部燃えて炭になるだろう。



震え逃げ出すように私から離れ、町の者は家に火をつけた。

毒のせいで熱いのか、燃えて熱いのかもわからなくなる。
痛みで泣いているのか、悲しみで泣いているのかもわからない。
いや、そもそも涙を流せているのかもわからない。

何も見えていなかった。
おそらく目玉は焼け落ちた。










苦しい。

熱い。

痛い。












どれだけ苦しんだのか。
私は炭となって果てた、家だったものの中に倒れていた。

火傷跡も殺傷跡もない体。
当然私の体も炭となっていてしかるべき状況。
なのに火傷跡も殺傷跡もない体。




絶望だった。




魔王を倒したことで私が救ったはずの住民に命を狙われたこと。
呪われて死ねない体になっていたこと。









私は“世界”から弾かれた。
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