不死の魔法使いは鍵をにぎる

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ダモンの両親

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「ありがとう、ダモン。よくわかったよ。これで解決だね。村に入れる。陣を身に着けてればいいんだ」




陣を入れるのは面でなくてもよい。
魔力を流すことができ、熱を確認することができればいいのだ。

実際ダモンの村では、面の他に袖や襟の内側など、個々人で入れる場所が異なっているようだ。


私は面に、マーツェとヘフテは衣服の内側に陣を刻んだ。
加えて変異の魔法で肌の色を変える。



陣を持っていたとしても、褐色肌でなければ一目で村の仲間ではないと分かってしまうからだ。





「よし。これで行けるね。あとは失言に気を付けるだけだ。台無しだからね。変なこと聞いちゃうと」



いかに怪しまれずに聞き出すかが問題だ。

情報を聞き出すのは全面的にマーツェに任せることにして、私はいざというときの逃亡を担う。


ダモンの村に、訪問者が現れることは無い。
あるとしたら新しい魔王が立ったときだけだ。

以前から村で生活していた体で話さなければならない。



マーツェの交渉能力に賭ける。












ダモンの村には問題なく入れた。
村人とすれ違うたびに陣が反応して熱を持つ。

それだけ「村にこんな奴はいたか」と疑問に思われているわけだが、陣の反応があれば皆すんなり納得するようだ。




まずダモンの家に向かうことになっている。


そこら辺の村人に唐突に“歌”や呪いについて聞いても怪しまれる。
それよりは、ダモンが自分の親に聞くことから情報収集を始めたい。

まだ怪しさが薄まるだろう。




家にたどり着く前に、ダモンの親が掛けて来た。
村人の誰かが知らせたようだ。



「もうあんたは!また1人でフラフラと!危ないからやめなって言ってるだろう!おかえり!」

「元気なようで良かったよ。怪我もないね。1人で何日もふらつくんじゃないよ」



語気を荒くしつつ、きつくダモンを抱きしめる母親。
柔らかい口調で話しつつ、ダモンの頭を軽くはたく父親。


小さな子供が何日も行方をくらますなど大問題だが、初めてではないようだ。
何日も、どころではない期間だが。





「後ろの人は?村に居ない間一緒にいたのかい?近所の人じゃないね!」

「ともだち。仲良しなった」

「そうかい!ふらついてた間のことを聞かせてくんな!あんたたちも!一緒においでよ!」

「あなた方の話も聞かせてくださいな。ダモンは話す方ではないので。食事お出ししますよ」











断る理由はなく、ダモンの両親に付いて行った。


急に4人分の食事が必要になり、ダモンの父親は手早く料理をする。
その傍で私たち4人は卓に着き、母親と話をしている。





「まったく!フラフラいなくなることはよくあったけどね!こんな長いのは初めてだ!さすがに心配したよ!どこ行ってたんだい?」

「そと。行ってた」

「外!?よく無事だったね!敵だらけのところに行ってるんじゃないよ!」

「たのしかったよ。おいしーのたくさん、食べた」

「それは良かったね。何を食べたのかな。あなた方が助けてくださってたんですよね」




早くも料理を2品作って持ってきた。

トラのような太い手をしているのに、器用に料理をする父親。
どのようにして調理器具を持っているのだろう。




「いえいえ。たくましく旅をしてましたよ。私たちが会ったのは数か月前なので。会ったときは驚きましたね。子供だけの旅だったようで。この年ですごいですね」




人当たりよく外面を取り繕って話すマーツェ。普段と言葉遣いが違って気持ちが悪い。
つい眉間にしわを寄せたらマーツェに肘で小突かれた。




「父親に似たのかね!この子はいつだって落ち着いてるのさ!こっちが心配になるくらいにね!あんたたちは外で何をしてたんだい?」

「調査です。外を調べてました。大事ですよね。外の様子を知ることは」

「ああ!そうだね!私も若い頃は行ったことがあるよ!」




鳥のような足をした、小さく尻尾も生えている母親。
衣服で隠せば普通の人間に見せられるだろう。




「赤や黄色の柔そうなもんばっかで!うじゃうじゃだったね!数だけは多いよね!じゃなきゃあんな大きい顔はさせないのにさ!」




マーツェの体がぴくりと反応する。
とっさに手首を掴んだが、大丈夫だとでも言うように反対の手で腕を小さく叩かれた。




「本当ですね。数だけはいますよね」

「やさしかったよ」


とりあえずマーツェが同意を示すと、横からダモンが言った。






「ごはんくれた。泊めてくれた」







少し話しただけでも伝わる人間嫌いの空気。
けれどそれに染まらずに育ったのだろうか。

ダモンは自分の旅が楽しかったと、会う人たちは優しかったと主張する。




人間側のヘフテからすると思うところがあるはずだ。

しかし“敵”として教育された村の中にいるからだろう、体を固くして黙っていた。










ダモンの話に合わせつつ、マーツェが流れを変える。



「意外でした。案外優しいですね。まあ姿を偽ってるからですが。弱いのに助けようとしてくれる。いや、弱いからでしょうか。助け合おうとする。そこで思ったんですよ。改めて知りたいと。なぜ祖は裏切られたのか。殺されたのか」

「歌があるだろう!教えられてないのかい?」

「教えられてます。もちろん。ただ親がずぼらでして。詳細は知らないんです。大雑把にしか教えられてなくて」

「それはよくないですね。きちんと知っておくべきですよ。いかに祖が素晴らしいか。いかに人間が愚かか。よくわかりますから」



この場にいる6人で分けてもそれなりの量食べられそうな大皿を卓に置きながら、ダモンの父親が言った。



「まああたしも説明は苦手だけどね!あんた話しておやりよ!料理は十分だろう!」




また調理に戻りそうだった父親を引き留め、椅子に座らせる。
強引な母親に笑いつつ、父親が話を始めた。



人間と魔物が、争いを始めるに至った話。
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