不死の魔法使いは鍵をにぎる

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フォルファの思念

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「こんなところでしょうか。

ついでに言うと、長い年月の間に魔物にも非があったと村を離れていく愚か者がいたために、仲間かどうか見分ける魔法陣も作られました。いま私たちが身に着けている魔法陣ですね。森向こうの村が愚か者たちの証左です。

フォルファ様の追いやられた流れを知っていながら、よくそんな考えができたものです」





穏やかな話しぶりの中に混ぜられる侮蔑。
されたことを思えば、憎く思うのは納得できる。

人間どもが義理も温情もすぐに忘れるのは大昔からのようだ。


いっそ笑えてくるな。












「…ありがとうございます。酷いことをしますね。人間たちは」


「本当ですよ。フォルファ様は全ての始まりなんです。

私たち混ざり者はもちろん、魔法や呪いの体系的な理論、魔法陣、あらゆるものをこの世に残してくださいました。尊いお方なのです。

その恩恵を受けたにも拘わらず、罪深い生き物ですよ」


「そうさ!フォルファ様は本当に素晴らしい!歌についてあまり教えられてないならこれも知らないんじゃないか?魔王城にはフォルファ様が眠っているのさ!」





ダモンの母親が軽快な声で割り込んでくる。


初代魔王といえば今から2000年ほど前にもなる。

その頃の人間が魔王城に眠っているとは一体どういうことだろうか。





「その言い方は語弊があるよ。正確にはフォルファ様の思念ですね」

「思念?」


「ええ。フォルファ様は亡くなる直前、強力な呪いを使われました。残念ながら魔力が足りず発現することはありませんでしたが。

その呪いは思念となり、フォルファ様が身に着けていた奥方の形見に残留したのです。その形見はいま代々の魔王様が引き継がれてますね。

フォルファ様の恨み、悲しみ、家族との幸せな時間…、その思念から鮮やかに蘇るようですよ。

だからフォルファ様は亡くなっていない、魔王城に眠っているとよく言うのです」


「そうさ!だから魔王様は呪いを使うのさ!フォルファ様の意思を継ぎ!1人では不可能な強力な呪いを!自分が殺されたって勇者も道連れにして!せめて勇者を苦しめてやるってね!」





楽しそうに発言しやがる。
そんな理由で、1000年以上も苦しめられていたのか。


力がない故に異物を恐れ排除する人間も大概だが、2000年も一途に先祖を想い復讐に生きる魔物も大概だな。









「呪いですか。ついでに良いですか?呪いについて聞いても。魔王様の呪いについてです。呪いには傾向がありますよね。

最近は毒のようですね。毒に似た傾向があります。勇者をじわじわ苦しめ命を蝕む呪い。数か月か数年か、月日をかけて勇者を苦しめます。

数日で死ぬ時代もありましたね。血反吐を吐いたり、砂のように体が崩れたり。王都に戻れなかった勇者も居たとか。ある意味楽ですね。さっさと死ねるのですから。

逆に、勇者を死なせない呪いもあったと聞きます。古い時代の話のようですが」






勇者に関する書物には、“呪い”という単語は出てこない。


干からびるように体が渇いて死んでいった勇者。
体が腐り崩れて死んでいった勇者。
王都へ帰還する前に倒れ死んでいった勇者。


死に様は書かれていても、それが呪いのせいだとは書かれていない。

あえて隠しているのか、呪いのせいだと気づいていないのかはわからない。





私もマーツェも、始めは気づいていなかった。

魔王に呪われているのは、死んでは生まれ変わっているマーツェと、死亡を確認されていない私とバウム。
この3人だけだと思っていた。


しかし記録に残る勇者は全て、魔王を倒した後は短命であるか体調を崩している。
健康な体のまま長生きをして平和に死んでいく勇者など皆無だ。

十中八九、どの勇者も魔王に呪われている。





そして、順に記録を追っていくと、呪いの種類に傾向があることにも気づく。


近頃かけられているのは、ゆっくりと時間をかけて寿命を削っていく呪い。
それ以前は、短い期間で急激に弱っていく呪い。

そしてさらに遡り、寿命を削るのとは別枠の、永続的に続く呪い。
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