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ブルデの孫
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次第に顔見知りが増え、くだらない会話もしながら治癒をしていると、食堂を訪れる老人の姿があった。
先に気づいたマーツェが私の肩をたたく。
「ゲルハルト。あれ。あの老人。そうじゃない?」
黒々とした肌。
年齢は感じるが筋肉質な手足。
ブルデに瓜二つの顔。
孫の三つ子だ。
何番目かはわからないが。
老人は空いている席に座り、店主に食事を注文している。
「私行ってくる。話してくるね」
治癒待ちの列がまだ並んでいるため、私は手が離せない。
手の空いているマーツェが老人のところに向かった。
「エヌケルさんを探してたのか?」
焼け爛れた腕を差し出す男が言う。
あの三つ子はエヌケルという名前なのか。
「ああ。知り合いなのか?」
「仕事で世話になったことがあってな」
魔王が台頭する前、その男は塀の強化に携わっていたという。
その時に塀の状態を調査し報告をする官吏が、エヌケルだった。
「三つ子の官吏がいるってんで前から軽く噂になってたんだが、まー気さくな方でな。
ほら、王城で働く黒色肌の連中ってお高くとまった奴らが多いだろ?指示だけだしてこっちの話は聞かない連中ばっかでさ。
でもエヌケルさんは違う。体調はどうだ、仕事はどうだって、いろいろ話しかけてくれるんだ。一度飲みにも出かけたな。官吏にしては珍しい方だろ?
だから聞いたのさ。なんで俺らみたいなのにも気さくに話しかけてくれんのかってな。なんでも、小さい頃に会った特区外の奴に面白いのが居たんだってよ。
そうそう、あんたみたいに面を付けてた奴だって言ってたな。外には面白いやつがいる、それが頭に刷り込まれてて、いろんな奴と話すようにしてるんだってさ」
聞き出すまでもなく自ら話してくる男。
ブルデの病床で一度会った出来事が、幼い頭に印象に残っていたようだ。
まあ、まさかあの時と同一人物だとは思うまい。
面も服装も違う物に変えている。
並んでいた治癒待ちを漸く消化して移動すると、話が盛り上がっている。
私が治癒している間にマーツェと老人エヌケルはだいぶ打ち解けたようだ。
「お疲れ、ゲルハルト」
「やあ。マーツェさんに君のことを軽く聞いたよ。治癒も見てたが、すごい腕だね」
エヌケルは噂を聞きつけてこの町までやってきたのだという。
ある食堂に治癒を施す凄腕の魔法使いがいるらしいという噂。
まさか王都の方にまで届いているとは。
エヌケルはわざわざ用事を作ってまでこの町まで出向いて来たのだ。
「魔王が出たから引退なんて言ってられなくてね。この年になっても働いてるんだ。今日は治癒師や兵士の数は足りてるか、疲弊してないか、その様子を見に来たんだ」
エヌケルは王城に勤める官吏の中でも、上位に入る魔力量・技術力を誇る。
王都からこの町までの道中、魔物に襲われる危険を鑑みての人選だ。
「治癒師として働いてもらいたいくらいだね。すでにマーツェさんに断られてしまったけれど。ゲルハルトさんはどうして面を付けているんだい?」
「見せられる顔じゃないんだ」
「それは怪我で?それとも醜悪な見た目という意味かい?」
「…どちらでもいいだろう」
「ああ、気を悪くしたならすまないね。いや、面白いことに君と同じ名前で面を被っていた人物を知っていてね。その人は怪我の跡が酷いからと面を被っていたんだが、私の祖父母はそれをとても残念がっていた。自分とその人との間に壁が出来てしまったようだと」
壁を感じたというブルデとレフラの感覚は間違っていないだろう。
シュワーゼが処罰され、1人調査をする時間が増えるにつれ、段々と聞かれては困る内容が増えていく。
王都に足を運ぶ頻度も減っていた。
特区の屋敷に連日のように足を運んでいた時と比べれば、距離感も変わる。
当然の流れだ。
面を外さない私に対して残念がっていたことは知っていたが、同情ではなかったことに驚く。
「傷跡が酷かろうと、醜い顔であろうと、親しい人は素顔の君の表情を見たいものだと、伝えたくなってしまったんだよ。やあ、お節介だったね」
年をとると説教くさくなっていけない、とエヌケルは小さく自嘲した。
先に気づいたマーツェが私の肩をたたく。
「ゲルハルト。あれ。あの老人。そうじゃない?」
黒々とした肌。
年齢は感じるが筋肉質な手足。
ブルデに瓜二つの顔。
孫の三つ子だ。
何番目かはわからないが。
老人は空いている席に座り、店主に食事を注文している。
「私行ってくる。話してくるね」
治癒待ちの列がまだ並んでいるため、私は手が離せない。
手の空いているマーツェが老人のところに向かった。
「エヌケルさんを探してたのか?」
焼け爛れた腕を差し出す男が言う。
あの三つ子はエヌケルという名前なのか。
「ああ。知り合いなのか?」
「仕事で世話になったことがあってな」
魔王が台頭する前、その男は塀の強化に携わっていたという。
その時に塀の状態を調査し報告をする官吏が、エヌケルだった。
「三つ子の官吏がいるってんで前から軽く噂になってたんだが、まー気さくな方でな。
ほら、王城で働く黒色肌の連中ってお高くとまった奴らが多いだろ?指示だけだしてこっちの話は聞かない連中ばっかでさ。
でもエヌケルさんは違う。体調はどうだ、仕事はどうだって、いろいろ話しかけてくれるんだ。一度飲みにも出かけたな。官吏にしては珍しい方だろ?
だから聞いたのさ。なんで俺らみたいなのにも気さくに話しかけてくれんのかってな。なんでも、小さい頃に会った特区外の奴に面白いのが居たんだってよ。
そうそう、あんたみたいに面を付けてた奴だって言ってたな。外には面白いやつがいる、それが頭に刷り込まれてて、いろんな奴と話すようにしてるんだってさ」
聞き出すまでもなく自ら話してくる男。
ブルデの病床で一度会った出来事が、幼い頭に印象に残っていたようだ。
まあ、まさかあの時と同一人物だとは思うまい。
面も服装も違う物に変えている。
並んでいた治癒待ちを漸く消化して移動すると、話が盛り上がっている。
私が治癒している間にマーツェと老人エヌケルはだいぶ打ち解けたようだ。
「お疲れ、ゲルハルト」
「やあ。マーツェさんに君のことを軽く聞いたよ。治癒も見てたが、すごい腕だね」
エヌケルは噂を聞きつけてこの町までやってきたのだという。
ある食堂に治癒を施す凄腕の魔法使いがいるらしいという噂。
まさか王都の方にまで届いているとは。
エヌケルはわざわざ用事を作ってまでこの町まで出向いて来たのだ。
「魔王が出たから引退なんて言ってられなくてね。この年になっても働いてるんだ。今日は治癒師や兵士の数は足りてるか、疲弊してないか、その様子を見に来たんだ」
エヌケルは王城に勤める官吏の中でも、上位に入る魔力量・技術力を誇る。
王都からこの町までの道中、魔物に襲われる危険を鑑みての人選だ。
「治癒師として働いてもらいたいくらいだね。すでにマーツェさんに断られてしまったけれど。ゲルハルトさんはどうして面を付けているんだい?」
「見せられる顔じゃないんだ」
「それは怪我で?それとも醜悪な見た目という意味かい?」
「…どちらでもいいだろう」
「ああ、気を悪くしたならすまないね。いや、面白いことに君と同じ名前で面を被っていた人物を知っていてね。その人は怪我の跡が酷いからと面を被っていたんだが、私の祖父母はそれをとても残念がっていた。自分とその人との間に壁が出来てしまったようだと」
壁を感じたというブルデとレフラの感覚は間違っていないだろう。
シュワーゼが処罰され、1人調査をする時間が増えるにつれ、段々と聞かれては困る内容が増えていく。
王都に足を運ぶ頻度も減っていた。
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当然の流れだ。
面を外さない私に対して残念がっていたことは知っていたが、同情ではなかったことに驚く。
「傷跡が酷かろうと、醜い顔であろうと、親しい人は素顔の君の表情を見たいものだと、伝えたくなってしまったんだよ。やあ、お節介だったね」
年をとると説教くさくなっていけない、とエヌケルは小さく自嘲した。
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