136 / 201
エヌケルとの話
しおりを挟む
「一度だけだったんでしょう?エヌケルさんと、その違うゲルハルトさんが会ったのは。よほど印象的だったのか?その一度の出会いが」
マーツェの問いかけに、懐かしむように微笑むエヌケル。
「印象的ではあったけどね。それよりも祖父母がよく話題にあげていたのが大きいかな。
祖父の弟が、とても利口なのに魔力をうまく扱えない子供だったらしいんだ。教師だった祖母が教えても魔力操作は一向に上達しない。
けれどその人が教えだしてから急に上達して、魔法技術でも頭角を現すようになったとか。その人に魔法勝負を挑んだこともあったけど、まるで敵わなかったそうだよ。祖父母は楽しそうによくこの話をしていた。
そんなだったから、子供心に憧れだけが膨らんでね。実際に会えたときは嬉しかったな」
「すごい人だったんだね。そのゲルハルトさん」
にやついた顔で、わざとらしくマーツェが言う。
私自身の話を違う人物として話題に出している状況。
マーツェを軽くにらんで、居心地の悪さをごまかす。
「そうだと思うよ。仕方のないことだけれど、親しくする機会が私にももっとあればと親を羨んだね」
そう言って飲み物に口を付けるエヌケル。
マーツェはにやついていた顔を改めて、話を変えた。
「ねえ、エヌケルさん。話を聞いてて思ったんだけど、私知ってるかもしれない。エヌケルさんの祖父の弟さんの話。シュワーゼって名前だったりしない?その人の名前」
「ああ、そうだよ。シュワーゼという名前で、若くして亡くなったらしい。神童と呼ばれて有名だったらしいからね。そんなこともあるかもしれないね。マーツェさんはどんな話を聞いたんだい?」
「いろいろ聞いたよ。すごい話はもちろん。それ以外も」
最後に声を潜めて付け加える。
「処刑されちゃったんでしょ?その人」
数度瞬きを繰り返し、心なしかエヌケルも声を小さくした。
こっそり音情報阻害の結界を張っているから、普通に話をしても何も問題はないのだが。
マーツェもそれを知っているくせに、エヌケルに対する演技として小声を選択していた。
「驚いたね。どこでその話を聞いたんだい?身内の者しか知らないはずなんだが」
「実はね、そのゲルハルトさんの弟子なんだよ。このゲルハルト。…ややこしいな。ゲルトって呼ぶね。こっちのゲルハルトは」
突然何を言い出すんだマーツェは。
とりあえず口を挟まずに成り行きを見守ることにする。
「ゲルトが聞いたんだよ。ゲルハルトさんから。それを私が聞いたんだ。不穏だったってね。その頃の王城の雰囲気。今はどう?評判いいみたいだけど。賢王ってよく聞くし」
「不穏な空気は感じないかな。王とまみえる機会も何度かあった。魔王が立ってからも落ち着いて対処してらっしゃる。信頼できるお方だと思うよ。
私も聞いていいかい?ゲルハルトさんが、ゲルハルトさんの…。確かにややこしいね。私も拝借させてもらうよ。ゲルトさんがゲルハルトさんの弟子だという話は、詳しく聞いても大丈夫かい?」
エヌケルが私に目線を向ける。
が、唐突にマーツェが言い出したことだ。
事前に打ち合わせているわけではない。
返答に悩む前にマーツェが言葉を挟む。
「私が代わりに答えるね。ゲルトは隠したがりっていうか。自分のこと話すの苦手でさ。面も師匠の真似なんだよ。さっきは返答濁してたけど。
ゲルトは拾われたんだって。ゲルハルトさんに。ゲルハルトさんが親代わりなんだよ。高度な魔法技術もゲルハルトさん譲り。
ゲルハルトさんとシュワーゼさんって仲良かったんでしょ?でも若くして死んだ。処罰されちゃった。
だからよく言われたんだって。王の動向は気にしろって。魔法学校の教育規制も行ってたらしいからね。一時期。不穏な王だったら距離を取る。民に寄り添う王なら協力する。今の王は大丈夫ってことかな。そこまで警戒しなくても」
「官吏の立場だというのもあるけれど、私は協力してほしいと思うよ」
「そっか。何かあったら言ってね。役職には就けないけど。できることがあるかも」
「ああ、ぜひお願いするよ。ゲルトさんとゲルハルトさんは幾つくらいの時に一緒だったんだい?
ゲルハルトさんの年齢は知らないけれど、結構高齢の方だったとは思うんだ。ゲルトさんは見た限りでは若そうに見える」
「どれくらいかな。ゲルトが13、4になるくらいまでだったかな。ほら、とんでもない魔法技術だったと言うでしょう。ゲルハルトさん。長生きしたらしいよ。魔法で細胞の老化を遅らせて」
奇妙な会話である。
捏造であるが、私に関する話をマーツェが答えていく。
全くの他人として話すよりも、何か繋がりを持たせたいのだろう。
親しく思ってくれた方が情報は手に入りやすくなる。
しかし魔法で寿命を延ばすとは、出任せもいいところだな。
私にはできない。
消失した手足を取り戻せないように、おそらく魔法でも不可能な事柄だ。
年齢に不整合が生じるためそれっぽい理由をこじつけたのだろうが。
よく口が回るものである。
マーツェの問いかけに、懐かしむように微笑むエヌケル。
「印象的ではあったけどね。それよりも祖父母がよく話題にあげていたのが大きいかな。
祖父の弟が、とても利口なのに魔力をうまく扱えない子供だったらしいんだ。教師だった祖母が教えても魔力操作は一向に上達しない。
けれどその人が教えだしてから急に上達して、魔法技術でも頭角を現すようになったとか。その人に魔法勝負を挑んだこともあったけど、まるで敵わなかったそうだよ。祖父母は楽しそうによくこの話をしていた。
そんなだったから、子供心に憧れだけが膨らんでね。実際に会えたときは嬉しかったな」
「すごい人だったんだね。そのゲルハルトさん」
にやついた顔で、わざとらしくマーツェが言う。
私自身の話を違う人物として話題に出している状況。
マーツェを軽くにらんで、居心地の悪さをごまかす。
「そうだと思うよ。仕方のないことだけれど、親しくする機会が私にももっとあればと親を羨んだね」
そう言って飲み物に口を付けるエヌケル。
マーツェはにやついていた顔を改めて、話を変えた。
「ねえ、エヌケルさん。話を聞いてて思ったんだけど、私知ってるかもしれない。エヌケルさんの祖父の弟さんの話。シュワーゼって名前だったりしない?その人の名前」
「ああ、そうだよ。シュワーゼという名前で、若くして亡くなったらしい。神童と呼ばれて有名だったらしいからね。そんなこともあるかもしれないね。マーツェさんはどんな話を聞いたんだい?」
「いろいろ聞いたよ。すごい話はもちろん。それ以外も」
最後に声を潜めて付け加える。
「処刑されちゃったんでしょ?その人」
数度瞬きを繰り返し、心なしかエヌケルも声を小さくした。
こっそり音情報阻害の結界を張っているから、普通に話をしても何も問題はないのだが。
マーツェもそれを知っているくせに、エヌケルに対する演技として小声を選択していた。
「驚いたね。どこでその話を聞いたんだい?身内の者しか知らないはずなんだが」
「実はね、そのゲルハルトさんの弟子なんだよ。このゲルハルト。…ややこしいな。ゲルトって呼ぶね。こっちのゲルハルトは」
突然何を言い出すんだマーツェは。
とりあえず口を挟まずに成り行きを見守ることにする。
「ゲルトが聞いたんだよ。ゲルハルトさんから。それを私が聞いたんだ。不穏だったってね。その頃の王城の雰囲気。今はどう?評判いいみたいだけど。賢王ってよく聞くし」
「不穏な空気は感じないかな。王とまみえる機会も何度かあった。魔王が立ってからも落ち着いて対処してらっしゃる。信頼できるお方だと思うよ。
私も聞いていいかい?ゲルハルトさんが、ゲルハルトさんの…。確かにややこしいね。私も拝借させてもらうよ。ゲルトさんがゲルハルトさんの弟子だという話は、詳しく聞いても大丈夫かい?」
エヌケルが私に目線を向ける。
が、唐突にマーツェが言い出したことだ。
事前に打ち合わせているわけではない。
返答に悩む前にマーツェが言葉を挟む。
「私が代わりに答えるね。ゲルトは隠したがりっていうか。自分のこと話すの苦手でさ。面も師匠の真似なんだよ。さっきは返答濁してたけど。
ゲルトは拾われたんだって。ゲルハルトさんに。ゲルハルトさんが親代わりなんだよ。高度な魔法技術もゲルハルトさん譲り。
ゲルハルトさんとシュワーゼさんって仲良かったんでしょ?でも若くして死んだ。処罰されちゃった。
だからよく言われたんだって。王の動向は気にしろって。魔法学校の教育規制も行ってたらしいからね。一時期。不穏な王だったら距離を取る。民に寄り添う王なら協力する。今の王は大丈夫ってことかな。そこまで警戒しなくても」
「官吏の立場だというのもあるけれど、私は協力してほしいと思うよ」
「そっか。何かあったら言ってね。役職には就けないけど。できることがあるかも」
「ああ、ぜひお願いするよ。ゲルトさんとゲルハルトさんは幾つくらいの時に一緒だったんだい?
ゲルハルトさんの年齢は知らないけれど、結構高齢の方だったとは思うんだ。ゲルトさんは見た限りでは若そうに見える」
「どれくらいかな。ゲルトが13、4になるくらいまでだったかな。ほら、とんでもない魔法技術だったと言うでしょう。ゲルハルトさん。長生きしたらしいよ。魔法で細胞の老化を遅らせて」
奇妙な会話である。
捏造であるが、私に関する話をマーツェが答えていく。
全くの他人として話すよりも、何か繋がりを持たせたいのだろう。
親しく思ってくれた方が情報は手に入りやすくなる。
しかし魔法で寿命を延ばすとは、出任せもいいところだな。
私にはできない。
消失した手足を取り戻せないように、おそらく魔法でも不可能な事柄だ。
年齢に不整合が生じるためそれっぽい理由をこじつけたのだろうが。
よく口が回るものである。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる