不死の魔法使いは鍵をにぎる

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エヌケルとの話

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「一度だけだったんでしょう?エヌケルさんと、その違うゲルハルトさんが会ったのは。よほど印象的だったのか?その一度の出会いが」





マーツェの問いかけに、懐かしむように微笑むエヌケル。



「印象的ではあったけどね。それよりも祖父母がよく話題にあげていたのが大きいかな。

祖父の弟が、とても利口なのに魔力をうまく扱えない子供だったらしいんだ。教師だった祖母が教えても魔力操作は一向に上達しない。

けれどその人が教えだしてから急に上達して、魔法技術でも頭角を現すようになったとか。その人に魔法勝負を挑んだこともあったけど、まるで敵わなかったそうだよ。祖父母は楽しそうによくこの話をしていた。

そんなだったから、子供心に憧れだけが膨らんでね。実際に会えたときは嬉しかったな」


「すごい人だったんだね。そのゲルハルトさん」





にやついた顔で、わざとらしくマーツェが言う。

私自身の話を違う人物として話題に出している状況。
マーツェを軽くにらんで、居心地の悪さをごまかす。





「そうだと思うよ。仕方のないことだけれど、親しくする機会が私にももっとあればと親を羨んだね」



そう言って飲み物に口を付けるエヌケル。













マーツェはにやついていた顔を改めて、話を変えた。



「ねえ、エヌケルさん。話を聞いてて思ったんだけど、私知ってるかもしれない。エヌケルさんの祖父の弟さんの話。シュワーゼって名前だったりしない?その人の名前」

「ああ、そうだよ。シュワーゼという名前で、若くして亡くなったらしい。神童と呼ばれて有名だったらしいからね。そんなこともあるかもしれないね。マーツェさんはどんな話を聞いたんだい?」

「いろいろ聞いたよ。すごい話はもちろん。それ以外も」







最後に声を潜めて付け加える。


「処刑されちゃったんでしょ?その人」









数度瞬きを繰り返し、心なしかエヌケルも声を小さくした。

こっそり音情報阻害の結界を張っているから、普通に話をしても何も問題はないのだが。

マーツェもそれを知っているくせに、エヌケルに対する演技として小声を選択していた。





「驚いたね。どこでその話を聞いたんだい?身内の者しか知らないはずなんだが」

「実はね、そのゲルハルトさんの弟子なんだよ。このゲルハルト。…ややこしいな。ゲルトって呼ぶね。こっちのゲルハルトは」






突然何を言い出すんだマーツェは。
とりあえず口を挟まずに成り行きを見守ることにする。





「ゲルトが聞いたんだよ。ゲルハルトさんから。それを私が聞いたんだ。不穏だったってね。その頃の王城の雰囲気。今はどう?評判いいみたいだけど。賢王ってよく聞くし」


「不穏な空気は感じないかな。王とまみえる機会も何度かあった。魔王が立ってからも落ち着いて対処してらっしゃる。信頼できるお方だと思うよ。

私も聞いていいかい?ゲルハルトさんが、ゲルハルトさんの…。確かにややこしいね。私も拝借させてもらうよ。ゲルトさんがゲルハルトさんの弟子だという話は、詳しく聞いても大丈夫かい?」




エヌケルが私に目線を向ける。



が、唐突にマーツェが言い出したことだ。
事前に打ち合わせているわけではない。














返答に悩む前にマーツェが言葉を挟む。



「私が代わりに答えるね。ゲルトは隠したがりっていうか。自分のこと話すの苦手でさ。面も師匠の真似なんだよ。さっきは返答濁してたけど。

ゲルトは拾われたんだって。ゲルハルトさんに。ゲルハルトさんが親代わりなんだよ。高度な魔法技術もゲルハルトさん譲り。

ゲルハルトさんとシュワーゼさんって仲良かったんでしょ?でも若くして死んだ。処罰されちゃった。

だからよく言われたんだって。王の動向は気にしろって。魔法学校の教育規制も行ってたらしいからね。一時期。不穏な王だったら距離を取る。民に寄り添う王なら協力する。今の王は大丈夫ってことかな。そこまで警戒しなくても」


「官吏の立場だというのもあるけれど、私は協力してほしいと思うよ」

「そっか。何かあったら言ってね。役職には就けないけど。できることがあるかも」


「ああ、ぜひお願いするよ。ゲルトさんとゲルハルトさんは幾つくらいの時に一緒だったんだい?

ゲルハルトさんの年齢は知らないけれど、結構高齢の方だったとは思うんだ。ゲルトさんは見た限りでは若そうに見える」


「どれくらいかな。ゲルトが13、4になるくらいまでだったかな。ほら、とんでもない魔法技術だったと言うでしょう。ゲルハルトさん。長生きしたらしいよ。魔法で細胞の老化を遅らせて」






奇妙な会話である。

捏造であるが、私に関する話をマーツェが答えていく。



全くの他人として話すよりも、何か繋がりを持たせたいのだろう。
親しく思ってくれた方が情報は手に入りやすくなる。


しかし魔法で寿命を延ばすとは、出任せもいいところだな。
私にはできない。

消失した手足を取り戻せないように、おそらく魔法でも不可能な事柄だ。
年齢に不整合が生じるためそれっぽい理由をこじつけたのだろうが。



よく口が回るものである。
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