137 / 201
ヘフテとダモンの報告
しおりを挟む
本来の名前が気に入らないから師匠の名前を名乗っている、など私の設定が増えていくなか、ヘフテとダモンが戻ってきた。
盛大に遊んできたらしい。
泥まみれの衣服。
興奮で紅潮した頬。
走って戻ってきたのか、肩で息をしている。
「戻ってきた」
「ごはん」
「おかえり。泥んこだね。2人とも」
マーツェが汚れた顔を拭う。
駆け寄ってきた2人の姿に、エヌケルは「ああ」と声を出した。
「子供を連れて旅をしてきたというのでも噂になっていたね。この子たちか」
「うん。この子がヘフテ。こっちがダモン。ヘフテ、ダモン、この人はエヌケルさん。話を聞いてたんだよ」
紹介を聞いて、エヌケルはヘフテとダモンに笑いかける。
「随分体が汚れているね。楽しく遊んできたんだね。何をしてきたんだい?」
「かくれんぼ」
「そうかそうか」
ヘフテの返答に頷いて、エヌケルは立ち上がった。
「そろそろ失礼するよ。宿屋に入らないといけない時間だ。君たちも寝かしつけなどあるだろうからね。また話をしてもらえると嬉しいよ」
「うん。また」
簡単に王城の雰囲気は聞けた。
嘘も混じっているが互いの素性を話し、今後も交流できそうな空気。
今日はなかなかの成果だ。
胃袋が限界のヘフテとダモンは、自ら料理を頼んで給仕を待つ。
私とヘフテも飯はまだ食べていない。
追加して注文し、そのまま4人で情報共有へと移る。
「遊んでて、魔物見た。かわいいって言ってた」
「魔物?どこで見たの?」
「端っこの、壁の上。のぼって、外が見えた」
おそらく町と外を区切る塀のことだ。
そこまで高くなく、大人なら背伸びで塀の向こうを覗ける程度の高さだ。
そこらに転がってる物を足場にして上ったのだろう。
そこからさらに魔物の姿を確認できたということは、町の東側の塀に違いない。
魔物への対抗を目的とした防衛用の強固な塀は、町の西側を中心に建てられる。
魔物の進路は西から東に一直線だ。
西にある魔王城からやってきて、東にある王城を目指す。
町を滅ぼすことを目的としていないため、回り込んでまで町を襲うことはないのだ。
「どんな魔物?可愛いって言ってたのは。どんな見た目してた?」
「うさぎ、みたいな。でもうさぎより、ずっと大きい。爪もとんがってた」
「ふうん。可愛い、か。魔物をねえ」
ウサギに似た風貌であろうと、動物にはない大きさと鋭い爪。
恐怖か嫌悪か、負の感情を持つのが通常だ。
可愛いと思えるのは幼さ故か。
「そうだよね。わからないものだ。小さいうちは」
恐怖や嫌悪を学習していない、まだ新しい頭なら受け入れられる。
それは、ダモンについても然り。
「友達を増やしてくってのも有りか。ヘフテとダモンは友達を作っていく。そんで、友達に教えていくんだ。尻尾のある人。肉球のある人。そんな人がいても“普通”なんだよって」
「形の違う体を持つ人間がダモンだけでは足りないだろう。すぐにダモン1人だけが違うと気づいて、それは“普通”じゃないという思考になる」
「そっか。時間稼ぎにしかならないかな。良い考えだと思ったんだけど。…いや、うん。考え自体は悪くないよね?数を増やせばいいんだ。協力を仰ごうよ。ヘフテの村とか。えっと、ベスツァフだっけ。異形の村とか」
明日にでも実行に移させようという態度に怪訝を表するも、マーツェは意見を変えない。
確かに間違った意見ではない。
経験も知識も少なく、まだ頭の柔らかい子供であれば、大人たちとは違う“普通”を教えることはできるだろう。
しかし都合よく子供たちだけに教えることができるのか。
大人に知られずに、周りとは違う“普通”を広げられるのか。
そうできる可能性は低いだろう。
子供は自らの経験を親に話して聞いてもらいたがる。
諸刃の剣だ。
盛大に遊んできたらしい。
泥まみれの衣服。
興奮で紅潮した頬。
走って戻ってきたのか、肩で息をしている。
「戻ってきた」
「ごはん」
「おかえり。泥んこだね。2人とも」
マーツェが汚れた顔を拭う。
駆け寄ってきた2人の姿に、エヌケルは「ああ」と声を出した。
「子供を連れて旅をしてきたというのでも噂になっていたね。この子たちか」
「うん。この子がヘフテ。こっちがダモン。ヘフテ、ダモン、この人はエヌケルさん。話を聞いてたんだよ」
紹介を聞いて、エヌケルはヘフテとダモンに笑いかける。
「随分体が汚れているね。楽しく遊んできたんだね。何をしてきたんだい?」
「かくれんぼ」
「そうかそうか」
ヘフテの返答に頷いて、エヌケルは立ち上がった。
「そろそろ失礼するよ。宿屋に入らないといけない時間だ。君たちも寝かしつけなどあるだろうからね。また話をしてもらえると嬉しいよ」
「うん。また」
簡単に王城の雰囲気は聞けた。
嘘も混じっているが互いの素性を話し、今後も交流できそうな空気。
今日はなかなかの成果だ。
胃袋が限界のヘフテとダモンは、自ら料理を頼んで給仕を待つ。
私とヘフテも飯はまだ食べていない。
追加して注文し、そのまま4人で情報共有へと移る。
「遊んでて、魔物見た。かわいいって言ってた」
「魔物?どこで見たの?」
「端っこの、壁の上。のぼって、外が見えた」
おそらく町と外を区切る塀のことだ。
そこまで高くなく、大人なら背伸びで塀の向こうを覗ける程度の高さだ。
そこらに転がってる物を足場にして上ったのだろう。
そこからさらに魔物の姿を確認できたということは、町の東側の塀に違いない。
魔物への対抗を目的とした防衛用の強固な塀は、町の西側を中心に建てられる。
魔物の進路は西から東に一直線だ。
西にある魔王城からやってきて、東にある王城を目指す。
町を滅ぼすことを目的としていないため、回り込んでまで町を襲うことはないのだ。
「どんな魔物?可愛いって言ってたのは。どんな見た目してた?」
「うさぎ、みたいな。でもうさぎより、ずっと大きい。爪もとんがってた」
「ふうん。可愛い、か。魔物をねえ」
ウサギに似た風貌であろうと、動物にはない大きさと鋭い爪。
恐怖か嫌悪か、負の感情を持つのが通常だ。
可愛いと思えるのは幼さ故か。
「そうだよね。わからないものだ。小さいうちは」
恐怖や嫌悪を学習していない、まだ新しい頭なら受け入れられる。
それは、ダモンについても然り。
「友達を増やしてくってのも有りか。ヘフテとダモンは友達を作っていく。そんで、友達に教えていくんだ。尻尾のある人。肉球のある人。そんな人がいても“普通”なんだよって」
「形の違う体を持つ人間がダモンだけでは足りないだろう。すぐにダモン1人だけが違うと気づいて、それは“普通”じゃないという思考になる」
「そっか。時間稼ぎにしかならないかな。良い考えだと思ったんだけど。…いや、うん。考え自体は悪くないよね?数を増やせばいいんだ。協力を仰ごうよ。ヘフテの村とか。えっと、ベスツァフだっけ。異形の村とか」
明日にでも実行に移させようという態度に怪訝を表するも、マーツェは意見を変えない。
確かに間違った意見ではない。
経験も知識も少なく、まだ頭の柔らかい子供であれば、大人たちとは違う“普通”を教えることはできるだろう。
しかし都合よく子供たちだけに教えることができるのか。
大人に知られずに、周りとは違う“普通”を広げられるのか。
そうできる可能性は低いだろう。
子供は自らの経験を親に話して聞いてもらいたがる。
諸刃の剣だ。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる