不死の魔法使いは鍵をにぎる

:-)

文字の大きさ
154 / 201

結界避けの実験 再び

しおりを挟む
私とマーツェは魔法用訓練施設に向かっていた。

もう一度調べなおすのだ。
結界避けに関する官吏の研究情報を、フォルグネのひ孫が手に入れたかどうかも確かめたい。



施設の出入口で見張りをしている兵士はこの間とは別の者だった。

しかし話が通っているようですんなりと入れてくれる。







訓練の合間にフォルグネのひ孫と話すことが出来た。



「友人から情報をもらうことができた。軽く読んだが、分かっていない点は多いようだな」



資料は有難く受け取った。
休憩の間軽口を交わし、施設を調べてからその場を後に。


結界避けを研究する専門部署の資料には、施設を建造した際の人員や配置、魔石の数など細かに情報が残されていた。

魔石の数や配置の法則はつかめないまま、過去資料から似た規模のものを流用して建造したようだ。





「結構な人員を割いてる。30人ちょっとかな。魔石5つに1人の配置だ。大まかに見ると。魔法陣を描いて、魔石を配置して、魔力を流す。手順は普通だな。特別なことはしてない。あ、兄さんも魔力流してる」

「ああ。そういえば、人員が足りなくて担当じゃないのに駆り出されたと言っていたな」





王城で官吏として働いていたブルデは、本来は関わる立場ではなかった。

施設建造のために必要な人員を割き、その者たちが担当していた仕事をどう回すかを調整していた。


しかし魔法陣を発動させるにあたって人手が足りないと判明。
担当ではなかった、魔力量が多い官吏も引っ張り込まれたのだ。




「ああ。やっぱり不具合は後からだな。建造直後は魔法をちゃんと使えてる。効力は落ちてるけどね」








魔法の不発・暴発が起こるようになった時期は判然としない。



聞き取り調査や訓練記録などから、建造10年後には不具合の事実を確認できている。

しかし訓練施設での魔法使用をそもそもしていなかった。
もう少し早く不具合が生じていた可能性もある。



魔石の損壊が原因であることには、やはり早々に気が付いていたようだ。
施設内のあらゆる場所で魔法使用を試し、制御の具合や効力の変化について調査もされている。

魔石が壊れている地点では特に魔法使用に障害がある。
まあ予想通りの結果だ。



魔石の何がいけなかったのか。
どういった質の魔石を使用していたのか。

調べられた範囲で記してある。



強い魔物から作った魔石もあれば、弱い魔物から作った魔石も使われている。
中には動物から作った質の悪い魔石も混ざっていた。


期限が迫り、時間のない中大量の魔石を用意する必要があった。
質にこだわっている場合ではなかったのだろう。










「魔石の質がバラバラだ。揃えてなかった。揃えられなかったんだね」




複数の魔石を使用して魔法を発動させる場合、魔石の質は揃えるのが定石だ。

大抵、同じ魔物から作った魔石で統一する。


あれだけの規模の魔法陣を発動させるために用いるのだ。
魔石は大量に必要となる。


同一の魔物から作った魔石で揃えられないのは仕方がない。
しかし動物から作った魔石も混ぜるとは、差がありすぎるだろう。




「これが原因だね。一部だけ壊れてたのは。魔石の質。これが統一されてないからだ」




使用した魔石の全てが書かれているわけではない。
何から作られたのか、判明していない魔石もある。


しかし損壊した魔石の1つが、動物から作られた魔石だったと調べがついていた。




専門部署の調べはここまでだった。













新たに判明した、魔石の質が揃っていない点を取り入れて実験してみる。

規模や魔石の配置などはこの間と変えない。
揃えていた魔石の質だけ、ばらつかせた状態に変えた。




魔力を流してみると、質の悪い部分で魔力が滞るような間隔があった。

しかし結果に問題はない。

きちんと発動した魔法。結界の効力を完全に除けている。
続けて、流す魔力量を増やしていく。


魔法陣の発動だけを考えるなら過剰な魔力量だ。

ある程度まで魔力量を増やすと、小さく耳に届く罅が入る音。
もう一押し、と魔力を流すと、砕け散る魔石。



配置した魔石の中で、特に質の悪かった魔石が破損していた。




「おお。良い感じだね。一部の魔石だけ壊れた。施設の状態と同じだ。いや、完璧同じとは言えないか」




魔石が壊れた瞬間に、発動していた魔法も壊れていた。



結界避けの効力が消えたため魔法は使えず。
当然、魔法の不発や暴発など起こりもしない。




「難しいなあ。揃ってない魔石の質。それ以外にも何かあるね。不具合の原因。今の実験と施設の状況、どう違うかな。規模。魔力流す人員。魔石の数。さすがに無理だよね。訓練施設と同じ規模での実験は」

「そうだな」




結界避けの魔法陣だけならまだ可能かもしれない。

しかし結界避けの効力を確認するには、結界を張った中で行わなければ意味がない。



あれだけの規模の結界と結界避け。
2つともを発動させるにはさすがに魔力が足りない。

全く同一の条件で実験することはできないが、なるべく近づけてみようという話になった。



規模を広げ、魔石の数を増やし、魔力を流す人手も増やす。
人手を増やすと言ってもマーツェが加わるだけだが。



様々条件を変えて試してみたが、魔石が壊れれば付随して魔法も壊れた。


効力は維持されつつ、魔石が壊れた周囲のみ不具合が生じる状況にはならない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...