不死の魔法使いは鍵をにぎる

:-)

文字の大きさ
160 / 201

孤児の受け入れ

しおりを挟む
「他の孤児か。うーん。そうだね。どうしようか」



ワイセの話を聞いて、マーツェは腕を組む。


確かに余裕はない。
現在の状態に子供が6人も加わったら、満足な食事はとれなくなるだろう。

ワイセの判断は間違っていない。


だがダモンを“普通”だと考える人間を増やすには、その孤児たちも取り入れたいところだ。

マーツェ自身、できるなら見捨てたくない気持ちもあるだろう。







食堂に治癒と修理を希望する人が集まってきたため、一旦話は保留にして対応に当たった。


孤児たちを受け入れるのならば、もっと別の方法を考える必要がある。

大人数で宿に滞在はできない。
恐らく食事も足りなくなる。

金がかからず、大人数が長期間滞在できる場所。
食材を各自である程度の量、調達する方法。


それらがあれば、受け入れ可能かもしれない。









治癒と修理の対応が終わり、食事を取りながら話し合う。



「受け入れたいよね。できることなら」

「だが今の状態じゃ食べさせられないぞ。宿にも滞在できない」

「うん。問題はそれだよね。何かないかな。解決策」



受け入れる方向で話し始めたことにワイセは目を丸くしていた。



「でも食事はなんとかなる気がしない?修理の代価に募ればいいよ。食べ物を。調理は自分たちでさせてさ。足りなかったら果物かな。森から収集させる」

「ヘフテも頑張る!食べ物集める!」



意気揚々とヘフテが発言し、同意するようにダモンも手を上げる。



「うん。お願いね。まあ飢え死にすることはないでしょ。食事は大丈夫だと考えよう。問題は居場所だ」



雨風にさらされることなく、安全に眠れる場所。
約10人の子供が滞在できる場所。



「宿に滞在できなきゃ町の中にはいられないだろう」



外部の者が町に滞在するには宿を取るしかない。

しかし大人数で長期間の宿滞在は難しい。
食堂の売り上げが増えたところで、大人数・長期間の宿滞在は店主が許すまい。



「じゃあ町の外?それじゃあ野宿になっちゃう。野宿は駄目だよ」



大人ならまだしも、体調を崩しやすい子供に野宿は避けたい。

まして栄養が足りていない状態の子供だ。
風邪をこじらせて命を落とす、という可能性だってある。










居場所をどうするか話し合っていたらワイセが口を挟んできた。



「他の孤児も助ける気なのか?」

「うん。そうしたい」

「本気か?孤児を助けてお前らにいいことがあんのか?」

「あるよ。利はある。でもそれ以上に助けたい。ただ助けたいだけだよ。できるだけ放っておきたくないからね。苦しんでる人を」

「それ似たようなことを私もこの間言ったねえ」

「うん。同じ。私も同じ気持ちだよ」



マーツェとジーグが顔を見合わせて朗らかに笑う。








ワイセにはマーツェの考えが理解できないようだった。
眉間にしわを寄せて怪訝な表情だ。



利害ではなく、ただ助けたいという行動。

恵まれて生きてきた人間の行動だな、とは思う。
そんな奉仕精神、私にはない。









「おうち、作れないの?」



軽く脱線していた話をヘフテが戻した。


居場所がないなら、作ってしまえばいい。
それはわかるが、誰がどこに作るというのか。

呆れた目で見る私とは違い、マーツェは目を輝かせた。








「そうだよ。作ればいい。というかある。既にあったよ。ゲルハルトの家が!」







森の奥深くに結界で隠した、私の根城。



「あそこなら気兼ねなく使える。お金もかからない。人目も気にならない。調理器具もある。あの家を使おうよ」





心情としては他人をほいほい入れたくはない。
が、そんなこと言っていられないか。


溜息をついた。



「寝具が足りないぞ。しばらく使ってないから埃もたまってるだろう」

「掃除させればいい。そんなの問題にならないよ。寝具も揃えればいい。簡単なものでいいもんね。今は寒い季節じゃないし。距離も障害にならない。ゲルハルトがいれば一瞬で行ける」

「…わかった」



仕方なく了承した。
難癖は幾らでも付けられるが、自分で反論が浮かぶくらいには小さいことだった。


よし、と勢い込んでマーツェが立ち上がる。



「善は急げだよ。ゲルハルト。早速行こう。子供たちを迎えに。とにかく食べさせなきゃ。だいぶ弱ってるみたいだし。今日は床で雑魚寝かな。1日くらいいいよね。外で寝るよりずっとましなはずだ」



他の孤児を助けることに決まったらしいと気づいて、アンテルは表情を明るくさせる。

ヘフテとダモンは椅子から飛び降りた。
マーツェ・ヘフテ・ダモンの早く行こうという視線が突き刺さる。

息を吐きながら私も立ち上がった。



「孤児は6人だったな。帰りが疲れるからワイセたちは待っていろ」





道案内と交渉役。
それを任せる3人以外は置いていく。

付いて行けないことにシュグリが叫んだ。



「一緒に行きたいねえ。でもすぐ戻ってくるからここで待ってようねえ」



ジーグがなだめている間にさっさと食堂を出る。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

処理中です...