161 / 201
環境を整える
しおりを挟む
「筋道が見えてきたよ。孤児たちを集めるんだ。皆食べさせていく。ゲルハルトの根城でね。そして“普通”を教えていくんだ。
数年したら働き手になる。ダモンを“普通”だと捉えてる働き手だ。きっと変わってくよ。数が多ければ多いほどいい。認識をひっくり返す下地になる。孤児は皆助けよう」
「根城に入りきらなくなるぞ」
「広げればいいさ。家を。結界の範囲を。孤児が全員入るまで。そうすれば幾らでも助けられるよ」
私の心情を置いておけば、悪い話ではない。
ワイセたちを保護したのも、ダモンを“普通”と捉える人間を作るためだ。
しかしあの3人だけでは圧倒的に数が足りない。
他の孤児も助けるという話は、遅かれ早かれ出たはずだ。
助ける数が増えるにあたって生じる問題を解決できそうなのだ。
うまくいけば今後は何も悩まずに孤児に声をかけられる。
ヘフテとダモンに案内させて孤児たちの場所へとたどり着いた。
体力を温存するためだろう、固まってじっとしている6人。
人が近づく気配に鋭い視線を飛ばしてきた。
「迎えきた」
「は?」
満面の笑みで声をかけたヘフテに眼を飛ばす。
喧嘩腰だが勢いのない声。
声を張り上げる元気もないようだ。
「この子たちに話を聞いたんだ。君たちのこと。苦労してるんでしょう。おいで。食べさせてあげる。室内で寝かせてあげる。残念ながら寝具はないけど。でもすぐ用意するよ。一緒に行こう」
マーツェの言に対する反応は半々だった。
確実に罠があると疑心に満ちている者。
怪しく感じるが誘惑されている者。
しかし率先して動き出す者はおらず、反応を窺いあっている。
「昼間の3人もね、同じだよ。ゲルハルトとマーツェが助けたの。お腹いっぱい食べれるよ」
しばらく周りを窺ってから、1人が付いてくることを決めたようだ。
ふらりと立ち上がる。
1人動き出せばすぐだった。
疑惑の目を向けている者もいるが、全員が付いてくると決めた。
食堂まで連れて戻り食事を取らせる。
薄汚い姿のままだが、今にも倒れそうな雰囲気だから仕方がない。
皿まで食べそうな勢いでがっついている。
慈善活動でもしてんのかい、と店主には呆れられた。
定員以上の人数を部屋に入れることになる。
すぐに場所を変えるからと話してマーツェが許可を取った。
本来なら許されない特別対応である。
食事が終わり、湯を浴びせ、着替えさせる。
腹が満たされ体も綺麗になったことで、孤児らは気が緩んだようだ。
座った状態でまどろみ始める。
完全に寝入った子から順に、マーツェとジーグが横たわらせていく。
孤児6人が寝たのを見届けて、ジーグは自分の取っている部屋に戻っていった。
翌日、朝餉を済ませてから全員で根城に移動した。
計14人の転移だ。
距離も人数も多い。
さすがに少し疲れるな。
根城に戻ってきたのは、ベスツァフら異形の村に出入りしていた頃以来だ。
うっすら積もった埃。
駄目になった畑の作物。
今日は根城を整えることに1日を費やす。
できるだけ孤児らが自給自足できるようにしたい。
結界によって魔物の心配は皆無だと伝えてある。
森で動き回れるのは初めてなのだろう、アンテルとシュグリが駆け回っている。
孤児らはまだ体力が戻っていないため走り回れはしないが、代わりにはしゃいだ声がする。
好き勝手に遊ぶ子供らにマーツェが叫んだ。
「ここで今後生活する。君たちの住処になる。汚いのは嫌でしょ?綺麗にするよ。皆で掃除だ」
アンテルとシュグリには床掃除など動き回る仕事。
孤児ら6人には比較的動かずに済む窓掃除など。
ワイセは下の子に任せづらいところを担当。
マーツェは寝具の調達。
私はマーツェを町に運んだり畑を整えたりする。
ジーグは荷物運びとしてマーツェに付いて行くことにしたようだ。
マーツェの割り振りによって各自行動する。
死んでしまった植物は引っこ抜き、かろうじて生きているものは魔法で活性化させて元気な状態に戻す。
魔力移動をして土の状態も整えながら、掃除の様子を観察する。
張り切って掃除をしているアンテル。
興味が逸れて時折遊びつつ、アンテルの真似をして床を拭くシュグリ。
意欲的には見えないが、大人しく高所や掃除の甘い部分を補うワイセ。
孤児らも体力が無いながら、休憩を挟みつつ手を動かしている。
昨晩、腹を満たして深い眠りにつけたこと。
今後の住処だと家を見せられたこと。
それらによって疑心は弱まったようだ。
壁や屋根のある場で寝られる希望に浮足立っている雰囲気がある。
数年したら働き手になる。ダモンを“普通”だと捉えてる働き手だ。きっと変わってくよ。数が多ければ多いほどいい。認識をひっくり返す下地になる。孤児は皆助けよう」
「根城に入りきらなくなるぞ」
「広げればいいさ。家を。結界の範囲を。孤児が全員入るまで。そうすれば幾らでも助けられるよ」
私の心情を置いておけば、悪い話ではない。
ワイセたちを保護したのも、ダモンを“普通”と捉える人間を作るためだ。
しかしあの3人だけでは圧倒的に数が足りない。
他の孤児も助けるという話は、遅かれ早かれ出たはずだ。
助ける数が増えるにあたって生じる問題を解決できそうなのだ。
うまくいけば今後は何も悩まずに孤児に声をかけられる。
ヘフテとダモンに案内させて孤児たちの場所へとたどり着いた。
体力を温存するためだろう、固まってじっとしている6人。
人が近づく気配に鋭い視線を飛ばしてきた。
「迎えきた」
「は?」
満面の笑みで声をかけたヘフテに眼を飛ばす。
喧嘩腰だが勢いのない声。
声を張り上げる元気もないようだ。
「この子たちに話を聞いたんだ。君たちのこと。苦労してるんでしょう。おいで。食べさせてあげる。室内で寝かせてあげる。残念ながら寝具はないけど。でもすぐ用意するよ。一緒に行こう」
マーツェの言に対する反応は半々だった。
確実に罠があると疑心に満ちている者。
怪しく感じるが誘惑されている者。
しかし率先して動き出す者はおらず、反応を窺いあっている。
「昼間の3人もね、同じだよ。ゲルハルトとマーツェが助けたの。お腹いっぱい食べれるよ」
しばらく周りを窺ってから、1人が付いてくることを決めたようだ。
ふらりと立ち上がる。
1人動き出せばすぐだった。
疑惑の目を向けている者もいるが、全員が付いてくると決めた。
食堂まで連れて戻り食事を取らせる。
薄汚い姿のままだが、今にも倒れそうな雰囲気だから仕方がない。
皿まで食べそうな勢いでがっついている。
慈善活動でもしてんのかい、と店主には呆れられた。
定員以上の人数を部屋に入れることになる。
すぐに場所を変えるからと話してマーツェが許可を取った。
本来なら許されない特別対応である。
食事が終わり、湯を浴びせ、着替えさせる。
腹が満たされ体も綺麗になったことで、孤児らは気が緩んだようだ。
座った状態でまどろみ始める。
完全に寝入った子から順に、マーツェとジーグが横たわらせていく。
孤児6人が寝たのを見届けて、ジーグは自分の取っている部屋に戻っていった。
翌日、朝餉を済ませてから全員で根城に移動した。
計14人の転移だ。
距離も人数も多い。
さすがに少し疲れるな。
根城に戻ってきたのは、ベスツァフら異形の村に出入りしていた頃以来だ。
うっすら積もった埃。
駄目になった畑の作物。
今日は根城を整えることに1日を費やす。
できるだけ孤児らが自給自足できるようにしたい。
結界によって魔物の心配は皆無だと伝えてある。
森で動き回れるのは初めてなのだろう、アンテルとシュグリが駆け回っている。
孤児らはまだ体力が戻っていないため走り回れはしないが、代わりにはしゃいだ声がする。
好き勝手に遊ぶ子供らにマーツェが叫んだ。
「ここで今後生活する。君たちの住処になる。汚いのは嫌でしょ?綺麗にするよ。皆で掃除だ」
アンテルとシュグリには床掃除など動き回る仕事。
孤児ら6人には比較的動かずに済む窓掃除など。
ワイセは下の子に任せづらいところを担当。
マーツェは寝具の調達。
私はマーツェを町に運んだり畑を整えたりする。
ジーグは荷物運びとしてマーツェに付いて行くことにしたようだ。
マーツェの割り振りによって各自行動する。
死んでしまった植物は引っこ抜き、かろうじて生きているものは魔法で活性化させて元気な状態に戻す。
魔力移動をして土の状態も整えながら、掃除の様子を観察する。
張り切って掃除をしているアンテル。
興味が逸れて時折遊びつつ、アンテルの真似をして床を拭くシュグリ。
意欲的には見えないが、大人しく高所や掃除の甘い部分を補うワイセ。
孤児らも体力が無いながら、休憩を挟みつつ手を動かしている。
昨晩、腹を満たして深い眠りにつけたこと。
今後の住処だと家を見せられたこと。
それらによって疑心は弱まったようだ。
壁や屋根のある場で寝られる希望に浮足立っている雰囲気がある。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる