不死の魔法使いは鍵をにぎる

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「筋道が見えてきたよ。孤児たちを集めるんだ。皆食べさせていく。ゲルハルトの根城でね。そして“普通”を教えていくんだ。

数年したら働き手になる。ダモンを“普通”だと捉えてる働き手だ。きっと変わってくよ。数が多ければ多いほどいい。認識をひっくり返す下地になる。孤児は皆助けよう」


「根城に入りきらなくなるぞ」

「広げればいいさ。家を。結界の範囲を。孤児が全員入るまで。そうすれば幾らでも助けられるよ」






私の心情を置いておけば、悪い話ではない。


ワイセたちを保護したのも、ダモンを“普通”と捉える人間を作るためだ。
しかしあの3人だけでは圧倒的に数が足りない。

他の孤児も助けるという話は、遅かれ早かれ出たはずだ。


助ける数が増えるにあたって生じる問題を解決できそうなのだ。
うまくいけば今後は何も悩まずに孤児に声をかけられる。









ヘフテとダモンに案内させて孤児たちの場所へとたどり着いた。


体力を温存するためだろう、固まってじっとしている6人。
人が近づく気配に鋭い視線を飛ばしてきた。



「迎えきた」

「は?」



満面の笑みで声をかけたヘフテに眼を飛ばす。

喧嘩腰だが勢いのない声。
声を張り上げる元気もないようだ。




「この子たちに話を聞いたんだ。君たちのこと。苦労してるんでしょう。おいで。食べさせてあげる。室内で寝かせてあげる。残念ながら寝具はないけど。でもすぐ用意するよ。一緒に行こう」




マーツェの言に対する反応は半々だった。

確実に罠があると疑心に満ちている者。
怪しく感じるが誘惑されている者。


しかし率先して動き出す者はおらず、反応を窺いあっている。




「昼間の3人もね、同じだよ。ゲルハルトとマーツェが助けたの。お腹いっぱい食べれるよ」



しばらく周りを窺ってから、1人が付いてくることを決めたようだ。
ふらりと立ち上がる。


1人動き出せばすぐだった。

疑惑の目を向けている者もいるが、全員が付いてくると決めた。









食堂まで連れて戻り食事を取らせる。

薄汚い姿のままだが、今にも倒れそうな雰囲気だから仕方がない。
皿まで食べそうな勢いでがっついている。



慈善活動でもしてんのかい、と店主には呆れられた。

定員以上の人数を部屋に入れることになる。
すぐに場所を変えるからと話してマーツェが許可を取った。

本来なら許されない特別対応である。



食事が終わり、湯を浴びせ、着替えさせる。

腹が満たされ体も綺麗になったことで、孤児らは気が緩んだようだ。
座った状態でまどろみ始める。


完全に寝入った子から順に、マーツェとジーグが横たわらせていく。
孤児6人が寝たのを見届けて、ジーグは自分の取っている部屋に戻っていった。











翌日、朝餉を済ませてから全員で根城に移動した。

計14人の転移だ。
距離も人数も多い。

さすがに少し疲れるな。



根城に戻ってきたのは、ベスツァフら異形の村に出入りしていた頃以来だ。

うっすら積もった埃。
駄目になった畑の作物。


今日は根城を整えることに1日を費やす。
できるだけ孤児らが自給自足できるようにしたい。




結界によって魔物の心配は皆無だと伝えてある。

森で動き回れるのは初めてなのだろう、アンテルとシュグリが駆け回っている。
孤児らはまだ体力が戻っていないため走り回れはしないが、代わりにはしゃいだ声がする。










好き勝手に遊ぶ子供らにマーツェが叫んだ。



「ここで今後生活する。君たちの住処になる。汚いのは嫌でしょ?綺麗にするよ。皆で掃除だ」



アンテルとシュグリには床掃除など動き回る仕事。
孤児ら6人には比較的動かずに済む窓掃除など。
ワイセは下の子に任せづらいところを担当。

マーツェは寝具の調達。
私はマーツェを町に運んだり畑を整えたりする。
ジーグは荷物運びとしてマーツェに付いて行くことにしたようだ。


マーツェの割り振りによって各自行動する。





死んでしまった植物は引っこ抜き、かろうじて生きているものは魔法で活性化させて元気な状態に戻す。

魔力移動をして土の状態も整えながら、掃除の様子を観察する。



張り切って掃除をしているアンテル。
興味が逸れて時折遊びつつ、アンテルの真似をして床を拭くシュグリ。
意欲的には見えないが、大人しく高所や掃除の甘い部分を補うワイセ。


孤児らも体力が無いながら、休憩を挟みつつ手を動かしている。

昨晩、腹を満たして深い眠りにつけたこと。
今後の住処だと家を見せられたこと。

それらによって疑心は弱まったようだ。



壁や屋根のある場で寝られる希望に浮足立っている雰囲気がある。
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