不死の魔法使いは鍵をにぎる

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王との対面

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ワイセの後に続いて、王城へと足を踏み入れる。




王城内に入るのは魔王討伐の報告に来た時以来だ。
優に1000年以上前。

マーツェが王城に来るのもシュワーゼの時以来である。
何百年と時が経っている。


造り自体は変わりないが、劣化が見られる石壁。
取り替えられ、見覚えない模様の絨毯。
歴代王の肖像画も随分と数が増えている。









謁見の間に繋がる巨大な扉の前まで来た。
見張りに就いている兵士に向かい、敬礼をするワイセ。



「王立保安隊、15番隊ワイセ。魔法陣と魔石の研究をしている人物を連れ、参上しました」



大きく響く名乗りの声。
扉前に就いていた兵士が静かに敬礼を返す。
ワイセの到着を伝えながら、扉を開けた。



「王立保安隊、15番隊ワイセ、到着しました」



ずらりと並ぶ兵士の姿。
左右に一列となり、槍を携え起立している。

中には槍を持っていない者もいるが、魔法戦闘要員だろう。



そして正面、数段上がった位置に王が座す。

腰かけているのは、2mはあろうかという仰々しい椅子。
身に付けているのは、布をふんだんに使った豪奢な衣服に、いつだったか目にした王冠。



すぐ傍には数人の官吏が控えている。


低位の者に許される位置まで王に近づき、ワイセは膝をつき頭を垂れた。
それに倣って、私とマーツェも膝をつく。



「王立保安隊、15番隊ワイセ。魔法陣と魔石の研究をしている人物を連れ、参上しました」



再度、王に向かって名乗りを上げたワイセ。
静かな場に、衣ずれの音がする。



「ワイセ、ご苦労でした。3人とも、顔を上げなさい。直答を許します」



顔を上げると、王と目が合った。


真摯な目線。
それだけで、エヌケルの信頼できる人だという言葉にも納得できる。



「此度あなた達を呼んだのは、魔法陣の研究をしていると聞いたからです。研究内容を話してください」


「はい。私はマーツェと申します。右にいるゲルハルトと共に、魔法陣の研究を行ってまいりました。

周知の通り、魔法陣の発動は、主に魔力量によって左右されます。魔力量の少ない者なら、簡単な魔法陣しか発動させることはできません。逆に魔力量の多い者なら、複雑な魔法陣も発動させることができます。

しかしやり方を工夫することで、魔力量の少ない者でも複雑な魔法陣を発動させることができると、最近わかってきました。魔石を活用するのです。魔石の数を調整することで、足りない魔力量を補うことができます」


「魔石の数の調整はどう行うのですか」



一息ついたマーツェに、先を促すように王が質問を飛ばす。
マーツェはしばし口を閉じた。









「…失礼ながら、王。魔法陣は長らく悪魔の技だと忌避されてきた技術です。それは広く市民が知るには危険な技術だったからではないでしょうか。王に仕える兵士たちとは言え、これだけの人数がいる場で申し上げるのは憚られます。音を阻害する結界を張る許可をいただけますか」









マーツェの言葉に小さな声で兵士がざわつく。

王を守るため控えている兵士たち。
それに聞かれないよう、結界を張りたいというマーツェ。


ふざけた申し出である。


王によからぬ話を持ち掛けられてはたまらない。
誰が許可を出すというのか。

そもそも。






「魔法は使えないでしょう。結界で魔法使用には制限がかかっています」

「問題ありません。許可をいただけますか」



手振りで兵士を静かにさせ、そう答えた王。
それに対しマーツェは食い下がった。

考え込むように、真意を問うように、王はマーツェを見つめる。


しばし膠着状態に陥った場を、ワイセが動かす。



「話の途中で失礼ながら、申し上げます。ゲルハルトは、官吏のエヌケルが治癒師にどうかと推薦していた人物です。また、マーツェと共に孤児の保護活動を行っていると伺っています。町の食堂で治癒の奉仕活動をしている姿も見かけています。故に、ゲルハルトとマーツェは善人であると考えられます」

「兵士に声が届かない状態になっても、問題は起こらないということですか」

「はい」

「…わかりました。許可しましょう」

「感謝いたします」








黙考の後に、王から許可の言葉が出た。
マーツェが礼を述べ、私に顔を向ける。



結界に入れるのは、私とマーツェとワイセ、それと少し離れた王である。
変則的な配置。

それ故に魔力を練るのに数秒かかった。
魔力に反応して淡く発光する右腕の陣。

周りが騒々しくなった次の瞬間、結界によってぷつりと音が途切れる。





「素晴らしい技術ですね。制限がかかっている中でこれだけの結界を張れるとは。治癒師に推薦されたというのも納得できます。いえ、それどころか結界張にもなれそうですね」



結界内は静かなものだが、外は騒々しいだろうことが容易にわかる。
周りと顔を見合わせ、忙しなく何か言葉を交わしている兵士や官吏たち。

王の御前とは思えない態度だ。



音情報のみを阻害しているため、結界内外でお互いに姿は見えている。



好きに話はできるが、自由な行動を取れるわけではない。
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