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王に持ちかける取引
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「では先ほどの続きを話しましょう。魔石の数の調整について話してください」
「申し訳ないですが、ただで話すことはできません」
王の眉間に皺が寄る。
「私の話を応用して、魔法用訓練施設の結界避けを修繕したいとのお考えでしょう?応用するまでもなく、修繕方法をお話できます。取引を致しましょう」
素直に話す口ぶりから一転、取引を持ち掛けだしたマーツェ。
怪訝な表情になった王はワイセに言葉を投げかける。
「問題は起こらないと言ったではないですか」
「問題はありません。これは、国の未来を考えた取引です。私はゲルハルトたちの保護活動に救われた孤児です。彼らは信頼できる善人です。まずは話を聞いていただけますか」
“善人”という言葉に内心首を傾げつつ、王の様子を注視する。
いうなれば、3対1の状況だ。
兵士や官吏に言葉は届かない。
助言を求めることも、私たちを拘束しろと命令することもできない。
結界内の唯一の兵士ワイセは、私たち側だ。
卑怯な手だが、王には周りの声に惑わされない状況で判断させたかった。
側近の兵士や官吏は、魔物との共存など反対意見しか言わないだろう。
魔王が生まれるに至った経緯を知らない。
過去の王が、側近の官吏が、何をしたのかを知らない。
諸悪の根源は魔物だという考えに染まっている者たちだ。
その者たちの意見を、助言を、何も聞かずに、王には自分自身で考えてほしい。
「…わかりました。一先ず話を聞きましょう。話してください」
覚悟を決めたのか、観念したのか、王はそう言った。
一息ついて、マーツェが口を開く。
「私たちは知っています。フォルファという人物を。その人物に何が起こったのかを」
「なぜ知っているのですか」
勢いよく椅子から立ち上がった王。
その様子に、兵士が槍を構えた。
「今からお話しします。これを聞かれたくなかったため、結界を張らせていただきました」
「…」
ゆっくりと椅子に座りなおし、兵士に問題ないと身振りで示す。
話を聞く姿勢に戻ったのを確認して、マーツェは続きを口にする。
「私とゲルハルトは、とある願いのために長い間調査をしてきました。調査は主に呪いや魔法についてです。調べているうちに疑問が生じました。なぜ魔物は王城を狙い侵攻してくるのか。なぜ魔物と人間は争うことになったのか。結果的に、魔物側の話を聞くに至りました」
「魔物側の話、ですか」
「はい。フォルファは人間に裏切られた。その復讐心を継ぎ、魔物は人間と争っているのだと。そう話していました。これは王もご存じですよね。…人々は魔物が諸悪の根源だと思っています。魔物さえいなければ問題は解決するのだと。けれど魔物と争うに至った原因を作ったのは人間です。大昔の官吏と王です。この事実を民に隠すため、魔法陣は禁忌とされた。そうですよね?」
王は頷きも返事もしない。
構わず、マーツェは言葉を繋げる。
「私とゲルハルトの願いには、魔王の協力が必要でした。魔王はフォルファの尊厳を取り戻したいと考えています。魔物と人間の、この長い争いを止めたいとも。そこで王には、隠している歴史を民に流布してほしいのです」
「魔王と交渉してきたというのですか」
「ええそうです。魔王は現状に心を痛めています。仲間が多く殺される。殺し殺され、負の連鎖が止まらない。王も同じくお考えでしょう?民の被害を少なくしたいと。そうお考えでしょう?」
「当然です。出来る限り被害を少なくして、争いを治める必要があります」
「ならこの話に乗るべきです。滅多にない機会です。魔王が歩み寄る姿勢を取っているのですから。現在、私たちと魔王で誓いを交わしています。魔物が人間に攻撃を仕掛けることはしないと。人との共存を目指し行動すると。この話に乗っていただけませんか。王城で秘匿している情報を、開示していただけませんか」
「あなた達の願いとは何ですか」
「呪いを解くことです」
「解呪方法は確かに知られていませんが、魔王に頼る必要は無いでしょう。人間が掛けられるのです。解呪もできるはずでしょう」
「いいえ、不可能です。解呪方法は知っています。けれど呪いは解けませんでした。魔王以外に解呪することは不可能なのです」
「魔王にしか解けない呪いとは何ですか」
眉根を寄せつつ問いかける王。
フォルファの話題を出したときには取り乱していたが、それ以降は努めて冷静である。
「…どの勇者も、健康に長生きすることはありません。異常をきたして早く死んでいます。王は、これをどうお考えですか」
視力を失い、筋力が衰え、自力では何もできなくなって死んでいく勇者。
幾ら水を摂取しても喉が渇くと干からびていった勇者。
ここ何代かの魔王の呪いは、見ようによっては病気にも思える。
「魔王を倒すという大事を成したのです。魔力も酷使したでしょう。反動で体調を崩したとしても可笑しくはありません」
「かつては体が腐乱し死んでいった勇者もいました。それも同じくお考えになりますか」
「帰路の途中で魔物に襲われ呪われたのでしょう。疲弊していたはずです。倒せたはずの魔物を逃したのかもしれません」
魔王に呪われ殺されている、とは思い至っていない。
勇者に関する書物にも呪いの文字は書かれていなかった。
術者を殺せば解呪できる、というのが常識になっているのだ。
当然といえば当然か。
「申し訳ないですが、ただで話すことはできません」
王の眉間に皺が寄る。
「私の話を応用して、魔法用訓練施設の結界避けを修繕したいとのお考えでしょう?応用するまでもなく、修繕方法をお話できます。取引を致しましょう」
素直に話す口ぶりから一転、取引を持ち掛けだしたマーツェ。
怪訝な表情になった王はワイセに言葉を投げかける。
「問題は起こらないと言ったではないですか」
「問題はありません。これは、国の未来を考えた取引です。私はゲルハルトたちの保護活動に救われた孤児です。彼らは信頼できる善人です。まずは話を聞いていただけますか」
“善人”という言葉に内心首を傾げつつ、王の様子を注視する。
いうなれば、3対1の状況だ。
兵士や官吏に言葉は届かない。
助言を求めることも、私たちを拘束しろと命令することもできない。
結界内の唯一の兵士ワイセは、私たち側だ。
卑怯な手だが、王には周りの声に惑わされない状況で判断させたかった。
側近の兵士や官吏は、魔物との共存など反対意見しか言わないだろう。
魔王が生まれるに至った経緯を知らない。
過去の王が、側近の官吏が、何をしたのかを知らない。
諸悪の根源は魔物だという考えに染まっている者たちだ。
その者たちの意見を、助言を、何も聞かずに、王には自分自身で考えてほしい。
「…わかりました。一先ず話を聞きましょう。話してください」
覚悟を決めたのか、観念したのか、王はそう言った。
一息ついて、マーツェが口を開く。
「私たちは知っています。フォルファという人物を。その人物に何が起こったのかを」
「なぜ知っているのですか」
勢いよく椅子から立ち上がった王。
その様子に、兵士が槍を構えた。
「今からお話しします。これを聞かれたくなかったため、結界を張らせていただきました」
「…」
ゆっくりと椅子に座りなおし、兵士に問題ないと身振りで示す。
話を聞く姿勢に戻ったのを確認して、マーツェは続きを口にする。
「私とゲルハルトは、とある願いのために長い間調査をしてきました。調査は主に呪いや魔法についてです。調べているうちに疑問が生じました。なぜ魔物は王城を狙い侵攻してくるのか。なぜ魔物と人間は争うことになったのか。結果的に、魔物側の話を聞くに至りました」
「魔物側の話、ですか」
「はい。フォルファは人間に裏切られた。その復讐心を継ぎ、魔物は人間と争っているのだと。そう話していました。これは王もご存じですよね。…人々は魔物が諸悪の根源だと思っています。魔物さえいなければ問題は解決するのだと。けれど魔物と争うに至った原因を作ったのは人間です。大昔の官吏と王です。この事実を民に隠すため、魔法陣は禁忌とされた。そうですよね?」
王は頷きも返事もしない。
構わず、マーツェは言葉を繋げる。
「私とゲルハルトの願いには、魔王の協力が必要でした。魔王はフォルファの尊厳を取り戻したいと考えています。魔物と人間の、この長い争いを止めたいとも。そこで王には、隠している歴史を民に流布してほしいのです」
「魔王と交渉してきたというのですか」
「ええそうです。魔王は現状に心を痛めています。仲間が多く殺される。殺し殺され、負の連鎖が止まらない。王も同じくお考えでしょう?民の被害を少なくしたいと。そうお考えでしょう?」
「当然です。出来る限り被害を少なくして、争いを治める必要があります」
「ならこの話に乗るべきです。滅多にない機会です。魔王が歩み寄る姿勢を取っているのですから。現在、私たちと魔王で誓いを交わしています。魔物が人間に攻撃を仕掛けることはしないと。人との共存を目指し行動すると。この話に乗っていただけませんか。王城で秘匿している情報を、開示していただけませんか」
「あなた達の願いとは何ですか」
「呪いを解くことです」
「解呪方法は確かに知られていませんが、魔王に頼る必要は無いでしょう。人間が掛けられるのです。解呪もできるはずでしょう」
「いいえ、不可能です。解呪方法は知っています。けれど呪いは解けませんでした。魔王以外に解呪することは不可能なのです」
「魔王にしか解けない呪いとは何ですか」
眉根を寄せつつ問いかける王。
フォルファの話題を出したときには取り乱していたが、それ以降は努めて冷静である。
「…どの勇者も、健康に長生きすることはありません。異常をきたして早く死んでいます。王は、これをどうお考えですか」
視力を失い、筋力が衰え、自力では何もできなくなって死んでいく勇者。
幾ら水を摂取しても喉が渇くと干からびていった勇者。
ここ何代かの魔王の呪いは、見ようによっては病気にも思える。
「魔王を倒すという大事を成したのです。魔力も酷使したでしょう。反動で体調を崩したとしても可笑しくはありません」
「かつては体が腐乱し死んでいった勇者もいました。それも同じくお考えになりますか」
「帰路の途中で魔物に襲われ呪われたのでしょう。疲弊していたはずです。倒せたはずの魔物を逃したのかもしれません」
魔王に呪われ殺されている、とは思い至っていない。
勇者に関する書物にも呪いの文字は書かれていなかった。
術者を殺せば解呪できる、というのが常識になっているのだ。
当然といえば当然か。
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私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
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