不死の魔法使いは鍵をにぎる

:-)

文字の大きさ
174 / 201

王に持ちかける取引

しおりを挟む
「では先ほどの続きを話しましょう。魔石の数の調整について話してください」

「申し訳ないですが、ただで話すことはできません」



王の眉間に皺が寄る。



「私の話を応用して、魔法用訓練施設の結界避けを修繕したいとのお考えでしょう?応用するまでもなく、修繕方法をお話できます。取引を致しましょう」



素直に話す口ぶりから一転、取引を持ち掛けだしたマーツェ。
怪訝な表情になった王はワイセに言葉を投げかける。



「問題は起こらないと言ったではないですか」

「問題はありません。これは、国の未来を考えた取引です。私はゲルハルトたちの保護活動に救われた孤児です。彼らは信頼できる善人です。まずは話を聞いていただけますか」











“善人”という言葉に内心首を傾げつつ、王の様子を注視する。



いうなれば、3対1の状況だ。

兵士や官吏に言葉は届かない。
助言を求めることも、私たちを拘束しろと命令することもできない。


結界内の唯一の兵士ワイセは、私たち側だ。
卑怯な手だが、王には周りの声に惑わされない状況で判断させたかった。



側近の兵士や官吏は、魔物との共存など反対意見しか言わないだろう。

魔王が生まれるに至った経緯を知らない。
過去の王が、側近の官吏が、何をしたのかを知らない。

諸悪の根源は魔物だという考えに染まっている者たちだ。
その者たちの意見を、助言を、何も聞かずに、王には自分自身で考えてほしい。













「…わかりました。一先ず話を聞きましょう。話してください」



覚悟を決めたのか、観念したのか、王はそう言った。
一息ついて、マーツェが口を開く。





「私たちは知っています。フォルファという人物を。その人物に何が起こったのかを」

「なぜ知っているのですか」



勢いよく椅子から立ち上がった王。
その様子に、兵士が槍を構えた。



「今からお話しします。これを聞かれたくなかったため、結界を張らせていただきました」

「…」



ゆっくりと椅子に座りなおし、兵士に問題ないと身振りで示す。
話を聞く姿勢に戻ったのを確認して、マーツェは続きを口にする。



「私とゲルハルトは、とある願いのために長い間調査をしてきました。調査は主に呪いや魔法についてです。調べているうちに疑問が生じました。なぜ魔物は王城を狙い侵攻してくるのか。なぜ魔物と人間は争うことになったのか。結果的に、魔物側の話を聞くに至りました」

「魔物側の話、ですか」

「はい。フォルファは人間に裏切られた。その復讐心を継ぎ、魔物は人間と争っているのだと。そう話していました。これは王もご存じですよね。…人々は魔物が諸悪の根源だと思っています。魔物さえいなければ問題は解決するのだと。けれど魔物と争うに至った原因を作ったのは人間です。大昔の官吏と王です。この事実を民に隠すため、魔法陣は禁忌とされた。そうですよね?」



王は頷きも返事もしない。
構わず、マーツェは言葉を繋げる。



「私とゲルハルトの願いには、魔王の協力が必要でした。魔王はフォルファの尊厳を取り戻したいと考えています。魔物と人間の、この長い争いを止めたいとも。そこで王には、隠している歴史を民に流布してほしいのです」

「魔王と交渉してきたというのですか」

「ええそうです。魔王は現状に心を痛めています。仲間が多く殺される。殺し殺され、負の連鎖が止まらない。王も同じくお考えでしょう?民の被害を少なくしたいと。そうお考えでしょう?」

「当然です。出来る限り被害を少なくして、争いを治める必要があります」

「ならこの話に乗るべきです。滅多にない機会です。魔王が歩み寄る姿勢を取っているのですから。現在、私たちと魔王で誓いを交わしています。魔物が人間に攻撃を仕掛けることはしないと。人との共存を目指し行動すると。この話に乗っていただけませんか。王城で秘匿している情報を、開示していただけませんか」

「あなた達の願いとは何ですか」

「呪いを解くことです」

「解呪方法は確かに知られていませんが、魔王に頼る必要は無いでしょう。人間が掛けられるのです。解呪もできるはずでしょう」

「いいえ、不可能です。解呪方法は知っています。けれど呪いは解けませんでした。魔王以外に解呪することは不可能なのです」

「魔王にしか解けない呪いとは何ですか」




眉根を寄せつつ問いかける王。
フォルファの話題を出したときには取り乱していたが、それ以降は努めて冷静である。











「…どの勇者も、健康に長生きすることはありません。異常をきたして早く死んでいます。王は、これをどうお考えですか」





視力を失い、筋力が衰え、自力では何もできなくなって死んでいく勇者。
幾ら水を摂取しても喉が渇くと干からびていった勇者。


ここ何代かの魔王の呪いは、見ようによっては病気にも思える。





「魔王を倒すという大事を成したのです。魔力も酷使したでしょう。反動で体調を崩したとしても可笑しくはありません」

「かつては体が腐乱し死んでいった勇者もいました。それも同じくお考えになりますか」

「帰路の途中で魔物に襲われ呪われたのでしょう。疲弊していたはずです。倒せたはずの魔物を逃したのかもしれません」



魔王に呪われ殺されている、とは思い至っていない。
勇者に関する書物にも呪いの文字は書かれていなかった。


術者を殺せば解呪できる、というのが常識になっているのだ。
当然といえば当然か。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...