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勇者ゲルハルトとしての話
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「では、過去には死亡を確認できていない勇者がいます。それについてはいかがですか。何故だと思われますか」
「古い記録の話です。手違いで資料を紛失し、情報が途絶えてしまったのでしょう。先ほどの私の質問に答えてください」
魔王にしか解けない呪いとは、何か。
はぐらかされているように感じたのだろう。
王が答えを催促したが、マーツェは直接答えを返さない。
「ゲルハルトという名前に、聞き覚えはありませんか」
「かつての勇者と同じ名前ですね」
間を開けることもなく答えが返ってくる。
「勇者ゲルハルトも死を確認されていません。死んでいないからです」
「生きているというのですか」
「はい。右にいるゲルハルトがそうです。1200年前の勇者ゲルハルトです」
「有り得ません」
「いいえ、事実です。過去の魔王に呪われ、1200年もの間苦しんできました」
「魔王は倒されています。術者が亡くなれば呪いも解けるはずです」
「人が使える呪いとは別物なのです。魔王が倒れても、呪いは消えませんでした。魔王の呪いは、魔王にしか解くことができません。そのために魔王と交渉しました」
表面上は淡々と言葉が交わされていく。
しかし、冷静を装うマーツェ。
戸惑いを隠す王。
淡々とは程遠い感情が渦巻いているだろう。
かくいう私も、昂る神経を静めながら静観していた。
今日、この場で、王との交渉をうまく運ぶ必要がある。
王に呼び出される機会も、他人に邪魔されずに話せる機会も、もう持てまい。
この一度きりの機会で、決着をつける。
呪いを解けるか否かが決定するのである。
「先ほど、兵士たちがざわついていましたね。あれは、ゲルハルトの腕の陣に反応していたのではないですか。勇者ゲルハルトと同じ、人体に彫られた魔法陣です。過去確認できたのは勇者ゲルハルトにだけ。現在も、人体に魔法陣を掘っている人物の情報はないはずです。過去にも現在にも、ゲルハルト以外に陣の彫られた人物はいません」
「確かに人体に魔法陣のある人物は他にいません。しかしそれだけでは勇者ゲルハルト本人だとは証明できません」
「では本人しか知り得ない情報を話してもらいます」
視線が私に向かう。
根城に籠っていた期間が長いため、話せるのは本当に昔の話題になってしまう。
師匠が生きていた時代に見聞きしたこと。
師匠が亡くなり、根城に籠るまでの間に耳にしたこと。
軽く息を吸い、言葉をつむぐ。
「王は、歴代の王や結界張の統括者について、どれだけのことを知っていますか」
「一通り知っています」
「では、私が魔王を倒した頃についてです。その頃の王は、統括者と蜜月でした。政策の決定も、2人で話し合っていたといいます。しかし統括者は王に殺されてしまいました。他者との密通を王に疑われた、嫉妬によるものです。王は統括者を殺害したことに加え、政治を荒らした罪で王の座を下ろされています」
「それくらいなら、書物にも書かれていることでしょう。調べれば本人ではなくとも知れます」
「王に殺された統括者でしたが、非常に高い魔法技術を持っていました。王と結びついていたこともあって、恐怖政治だと揶揄される程に。玉座の、背もたれの左側にだけ魔石が就いているのを知っていますか」
私の言葉に、王が後ろに体をひねる。
高さのある背もたれ。
横に控えた者の丁度手が当たる高さに、魔石が付いている。
「いつ頃からあるのかは知りませんが、件の統括者の時代には間違いなくついていました。王を守るための魔石です。
王城は結界内とは言え、その中でも魔法を使える者はいます。魔法が使えなくとも、物理攻撃は可能です。不測の事態から王を守るため、より強固な結界を張るための魔石が付けられていました。統括者は王のすぐ傍に控え、魔法攻撃からも物理攻撃からも守る結界を張っていたのです。
けれど王と統括者の親密さに危機感を覚えた官吏たちは、次代からは距離を離しました。他の兵士たちと同じように、下段に控える形にしたのです。そのうちに、その魔石は使われなくなり、存在も知られなくなったのでしょう」
魔石の存在は師匠から聞いていた。
王と謁見する際には必ず統括者が傍に控え、椅子に手を伸ばしている。
一度、王に襲い掛かろうとして失敗した輩の姿も見ている。
あそこには恐らく魔石がある。
結界内だというのに、あれだけ強固な結界が張れる仕組み。
それだけ質の高い魔石を使っているのか。
魔石に仕込んだ魔法陣が良いのか。
調べてみたいものだと師匠は言っていた。
私が魔王討伐の報告に来た時ももちろん、統括者が王の傍に控えていた。
しかし今は違う。
魔石の存在自体が忘れられているのではと思ったが、当たりだったようだ。
「古い記録の話です。手違いで資料を紛失し、情報が途絶えてしまったのでしょう。先ほどの私の質問に答えてください」
魔王にしか解けない呪いとは、何か。
はぐらかされているように感じたのだろう。
王が答えを催促したが、マーツェは直接答えを返さない。
「ゲルハルトという名前に、聞き覚えはありませんか」
「かつての勇者と同じ名前ですね」
間を開けることもなく答えが返ってくる。
「勇者ゲルハルトも死を確認されていません。死んでいないからです」
「生きているというのですか」
「はい。右にいるゲルハルトがそうです。1200年前の勇者ゲルハルトです」
「有り得ません」
「いいえ、事実です。過去の魔王に呪われ、1200年もの間苦しんできました」
「魔王は倒されています。術者が亡くなれば呪いも解けるはずです」
「人が使える呪いとは別物なのです。魔王が倒れても、呪いは消えませんでした。魔王の呪いは、魔王にしか解くことができません。そのために魔王と交渉しました」
表面上は淡々と言葉が交わされていく。
しかし、冷静を装うマーツェ。
戸惑いを隠す王。
淡々とは程遠い感情が渦巻いているだろう。
かくいう私も、昂る神経を静めながら静観していた。
今日、この場で、王との交渉をうまく運ぶ必要がある。
王に呼び出される機会も、他人に邪魔されずに話せる機会も、もう持てまい。
この一度きりの機会で、決着をつける。
呪いを解けるか否かが決定するのである。
「先ほど、兵士たちがざわついていましたね。あれは、ゲルハルトの腕の陣に反応していたのではないですか。勇者ゲルハルトと同じ、人体に彫られた魔法陣です。過去確認できたのは勇者ゲルハルトにだけ。現在も、人体に魔法陣を掘っている人物の情報はないはずです。過去にも現在にも、ゲルハルト以外に陣の彫られた人物はいません」
「確かに人体に魔法陣のある人物は他にいません。しかしそれだけでは勇者ゲルハルト本人だとは証明できません」
「では本人しか知り得ない情報を話してもらいます」
視線が私に向かう。
根城に籠っていた期間が長いため、話せるのは本当に昔の話題になってしまう。
師匠が生きていた時代に見聞きしたこと。
師匠が亡くなり、根城に籠るまでの間に耳にしたこと。
軽く息を吸い、言葉をつむぐ。
「王は、歴代の王や結界張の統括者について、どれだけのことを知っていますか」
「一通り知っています」
「では、私が魔王を倒した頃についてです。その頃の王は、統括者と蜜月でした。政策の決定も、2人で話し合っていたといいます。しかし統括者は王に殺されてしまいました。他者との密通を王に疑われた、嫉妬によるものです。王は統括者を殺害したことに加え、政治を荒らした罪で王の座を下ろされています」
「それくらいなら、書物にも書かれていることでしょう。調べれば本人ではなくとも知れます」
「王に殺された統括者でしたが、非常に高い魔法技術を持っていました。王と結びついていたこともあって、恐怖政治だと揶揄される程に。玉座の、背もたれの左側にだけ魔石が就いているのを知っていますか」
私の言葉に、王が後ろに体をひねる。
高さのある背もたれ。
横に控えた者の丁度手が当たる高さに、魔石が付いている。
「いつ頃からあるのかは知りませんが、件の統括者の時代には間違いなくついていました。王を守るための魔石です。
王城は結界内とは言え、その中でも魔法を使える者はいます。魔法が使えなくとも、物理攻撃は可能です。不測の事態から王を守るため、より強固な結界を張るための魔石が付けられていました。統括者は王のすぐ傍に控え、魔法攻撃からも物理攻撃からも守る結界を張っていたのです。
けれど王と統括者の親密さに危機感を覚えた官吏たちは、次代からは距離を離しました。他の兵士たちと同じように、下段に控える形にしたのです。そのうちに、その魔石は使われなくなり、存在も知られなくなったのでしょう」
魔石の存在は師匠から聞いていた。
王と謁見する際には必ず統括者が傍に控え、椅子に手を伸ばしている。
一度、王に襲い掛かろうとして失敗した輩の姿も見ている。
あそこには恐らく魔石がある。
結界内だというのに、あれだけ強固な結界が張れる仕組み。
それだけ質の高い魔石を使っているのか。
魔石に仕込んだ魔法陣が良いのか。
調べてみたいものだと師匠は言っていた。
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しかし今は違う。
魔石の存在自体が忘れられているのではと思ったが、当たりだったようだ。
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