不死の魔法使いは鍵をにぎる

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王からの信用を得る

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「官吏も、兵士も、王すらも知らない魔石の存在を知っていることは、かつての勇者本人である証左にはなりませんか?」



王が姿勢を戻し、視線が絡む。


1000年前の勇者が、今目の前に生きて存在するなど、簡単には信じられないだろう。
しかし忘れ去られていた魔石の存在を知っている。

王は疑惑と信用の間で揺れているように見えた。







「…面を外して、顔を見せてください」

「わかりました」



要望に素直に応じる。
面を床に置くと、カツンと鳴る硬い音。
顔を上げて王を見る。






「勇者ゲルハルト…」

軽く目を見開き、王は呟いた。






「信じていただけましたか?」

「…ええ。信じがたいことですが、信じましょう。王城に残されている勇者ゲルハルトと同じ容貌です。右目の下にホクロ。鮮やかな菫色の瞳。鷲鼻に吊り上がった目。右腕に魔法陣があり、私も知らない魔石のことを知っていました」






勇者に関する書物には、人柄や戦闘様式の他に外見の特徴も記してある。

ホクロや傷跡の位置。
瞳や髪の色。
身長に体型。


勇者の話題に関して、市民は噂話で楽しむ程度である。
書物を読んで正確な情報に触れる者は少ない。

そもそも文字を読めない市民も多いのだ。
容貌で勇者に似ていると言われることはなかった。




しかし王は違う。

自国の歴史を、歴代の魔王と勇者の攻防を、正式な情報に触れ学んできている。





「呪いで1000年以上も生きているということなのですか」

「はい。死ねない呪いです。見た目もほぼ変わりません。私は自分の生に終わりを迎えたい。そしてこれは、左に居るマーツェも同じです」

「マーツェという勇者は存在しませんが」



そう言いながら視線がマーツェに向かう。




「はい。呪いの種類が違いますので。私の場合は何度も死んでいます。死んでは記憶を引き継いで、生まれ変わってきました。

私はかつて、勇者ルターでした。王族の護衛をしていました。なので知れる情報もありました。矛盾に気が付くこともありました。様々な立場に生まれ変わっています。田舎の村民。旅芸人の子。特区の住民。

…エヌケルは、かつての兄の孫です。私はシュワーゼでもありました。2代前の王が処罰をした官吏を知っていますか?」


「祖父の時代の官吏までは把握していません」

「そうですか。では2代前の王が酷く臆病だったのはご存じですか?民に病的と言われるほど。疑心暗鬼になっていて、不安に思えば官吏を処罰していたこと」

「祖父が臆病だったことは聞いています。多くの官吏を処罰したことも」



「そのうちの1人が私でした。かつての私、シュワーゼは、官吏の仕事をしつつ王城を調べ回っていました。特区ができた理由。歴代の結界張について。結界避けの仕組み。いろいろなことを。

処罰されたのは目を通す権限のない書物を漁っていたからでした。魔法用訓練施設を新設するとバタついていた時期です。私の兄、ブルデも官吏として王城に勤めていました。

新設の結界避けが不完全である情報はブルデからです。ゲルハルトがブルデに施設建造の結果を聞きました。また、兵士の知り合いから魔法用訓練施設に不具合が出ているとの情報も得ました。

フォルグネという兵士です。フォルグネは、ゲルハルトに手記を残しました。魔力制御がうまくいかない。暴発することもある。

…王はこの不具合を修繕したいのでしょう?王管轄の施設に不具合が生じているなど、外聞が悪いですからね。なぜ不具合が生じているのか。修繕するにはどうすればいいのか。調べはついています。この話に乗っていただけませんか」



「…乗る乗らないは一旦置いておきます。条件を聞かせてください」








王にとっての利点だけを上げ連ねて、声明を出すよう誘導できれば一番いいのだろう。

しかし、王族の威信を失くしかねない情報を民に開示するのだ。
どれだけ上げ連ねようと、それに吊りあう利点は存在しない。


ならば、できる限りの環境を整えて、後は情報を明らかにしていくしかない。
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