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揺れる天秤
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「魔王は、王が声明を出すことを望んでいます。間違った歴史を民に教えていたこと。かつての王が初代魔王を作り出したこと。初代魔王は王に使えた部下だったこと。そして、書物による細かな情報の流布も。
これを達成すれば、私とゲルハルトは呪いを解いてもらえます。魔王は現在、王都侵攻を止めています。もちろん防衛はしています。単純に止めてはやられてしまうので。
しかし新たに攻撃を仕掛けることはありません。人の命を奪うこともしません。人と魔物の共存を目指しています。私とゲルハルト、魔王とで誓いも交わしました。口約束ではありません」
「魔物側に利が偏っています」
人間が善であり魔物は悪である。
この認識は間違いであり、王族は歴史事実を秘匿していた。
これが民に知れれば、間違いなく国は乱れるだろう。
信じていたものに裏切られた。
いや、王は誰かに脅されているのだ。
何が正しいのかわからない。
王族を憎む者。
魔物への怒りを強める者。
惑い混乱する者。
大なり小なり、争いは起きるだろう。
それをなるべく小さくするために、噂を流してきた。
下地を作ってきた。
そして。
「魔物との争いをすぐにでも止められるのです。これは大きな利ではありませんか?
魔王を倒して、復旧を行って、安定するまでに100年以上かかります。それまでにどれだけの被害が出るでしょう。どれだけの民が死ぬでしょう。
現魔王との争いだけではありません。その先の、延々と続く争いをも止められるのです。歴史に残る偉業になります。王族の間違いが露呈する以上の利にはなりませんか?
民が荒れないよう、争いが起こらないよう、出来る限りの策を練ってきました。近頃巷で流れていた噂はこのためです。王族の隠していた情報を開示しても国が荒れないよう、噂を流していました」
「魔物が共存を望んでいるのでは、という噂ですか」
「はい。“過去”について、少しでも疑いが生じるように。歴史認識が間違っていると知らされたときに、すんなりと受け入れられるように。
民からの王の評判は良いものばかりです。これまでの誠実な手腕が評価されています。そんな王だからこそ、成し遂げられると思うのです。王の言うことだからと耳を貸してくれる者は多いでしょう。民からの信頼がなくば、事はうまく運びません」
「…ワイセはなぜ協力しているのですか。保護してもらった恩ですか」
「恩もありますが、それだけではありません。自分と同じような孤児を出したくなかったからです。魔物と人間の争いがなくなれば、孤児が減ると思ったからです」
王が目を伏せる。
孤児の存在を知っていても、何もできなかった罪悪感だろうか。
手持ちの情報を明らかにしつつ、なるべく王の利点を上げた。
これで乗ってこなければ、脅すしかない。
王からの声明を浸透させるべく流した噂だが、少し方向を変えれば王への不信感を作り出せる。
魔物の勢いが異なっていることは明らかである。
子供と魔物が交流している姿も見せている。
そして、禁止されていた悪魔の技で救われた子供の話。
なぜ魔物は王城を狙うのか。
人間殲滅ではなく、王都侵攻なのか。
組み合わせれば、民も疑惑を持つだろう。
王は、王族は、何かを隠している。
大勢の民が疑心を持てば、王の権威は失墜する。
声明を出さずとも国が荒れる。
この危険性には王も気づいているはずだ。
ワイセは私たちを“善人”だと言っていたが、だからわざわざ国を荒らす策は取らないだろうとは考えまい。
熟考したのちに、王は言った。
「どのような噂を、どれだけの範囲に広めているのか、嘘偽りなく話してください」
声明による影響がどれだけ抑えられるのか。
それを見極めたいのだろう。
王の天秤が良い方向に傾いている。
マーツェは本当に嘘偽りなく話した。
保護した孤児をあらゆるところに潜り込ませ、噂を流していること。
詩人を利用し、歌わせていること。
魔物の協力も取り付けていること。
広範囲の村に孤児を送り、情報を流している。
裏返せば、それだけ広範囲で王への疑心を育てられるということだ。
これを達成すれば、私とゲルハルトは呪いを解いてもらえます。魔王は現在、王都侵攻を止めています。もちろん防衛はしています。単純に止めてはやられてしまうので。
しかし新たに攻撃を仕掛けることはありません。人の命を奪うこともしません。人と魔物の共存を目指しています。私とゲルハルト、魔王とで誓いも交わしました。口約束ではありません」
「魔物側に利が偏っています」
人間が善であり魔物は悪である。
この認識は間違いであり、王族は歴史事実を秘匿していた。
これが民に知れれば、間違いなく国は乱れるだろう。
信じていたものに裏切られた。
いや、王は誰かに脅されているのだ。
何が正しいのかわからない。
王族を憎む者。
魔物への怒りを強める者。
惑い混乱する者。
大なり小なり、争いは起きるだろう。
それをなるべく小さくするために、噂を流してきた。
下地を作ってきた。
そして。
「魔物との争いをすぐにでも止められるのです。これは大きな利ではありませんか?
魔王を倒して、復旧を行って、安定するまでに100年以上かかります。それまでにどれだけの被害が出るでしょう。どれだけの民が死ぬでしょう。
現魔王との争いだけではありません。その先の、延々と続く争いをも止められるのです。歴史に残る偉業になります。王族の間違いが露呈する以上の利にはなりませんか?
民が荒れないよう、争いが起こらないよう、出来る限りの策を練ってきました。近頃巷で流れていた噂はこのためです。王族の隠していた情報を開示しても国が荒れないよう、噂を流していました」
「魔物が共存を望んでいるのでは、という噂ですか」
「はい。“過去”について、少しでも疑いが生じるように。歴史認識が間違っていると知らされたときに、すんなりと受け入れられるように。
民からの王の評判は良いものばかりです。これまでの誠実な手腕が評価されています。そんな王だからこそ、成し遂げられると思うのです。王の言うことだからと耳を貸してくれる者は多いでしょう。民からの信頼がなくば、事はうまく運びません」
「…ワイセはなぜ協力しているのですか。保護してもらった恩ですか」
「恩もありますが、それだけではありません。自分と同じような孤児を出したくなかったからです。魔物と人間の争いがなくなれば、孤児が減ると思ったからです」
王が目を伏せる。
孤児の存在を知っていても、何もできなかった罪悪感だろうか。
手持ちの情報を明らかにしつつ、なるべく王の利点を上げた。
これで乗ってこなければ、脅すしかない。
王からの声明を浸透させるべく流した噂だが、少し方向を変えれば王への不信感を作り出せる。
魔物の勢いが異なっていることは明らかである。
子供と魔物が交流している姿も見せている。
そして、禁止されていた悪魔の技で救われた子供の話。
なぜ魔物は王城を狙うのか。
人間殲滅ではなく、王都侵攻なのか。
組み合わせれば、民も疑惑を持つだろう。
王は、王族は、何かを隠している。
大勢の民が疑心を持てば、王の権威は失墜する。
声明を出さずとも国が荒れる。
この危険性には王も気づいているはずだ。
ワイセは私たちを“善人”だと言っていたが、だからわざわざ国を荒らす策は取らないだろうとは考えまい。
熟考したのちに、王は言った。
「どのような噂を、どれだけの範囲に広めているのか、嘘偽りなく話してください」
声明による影響がどれだけ抑えられるのか。
それを見極めたいのだろう。
王の天秤が良い方向に傾いている。
マーツェは本当に嘘偽りなく話した。
保護した孤児をあらゆるところに潜り込ませ、噂を流していること。
詩人を利用し、歌わせていること。
魔物の協力も取り付けていること。
広範囲の村に孤児を送り、情報を流している。
裏返せば、それだけ広範囲で王への疑心を育てられるということだ。
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追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
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