不死の魔法使いは鍵をにぎる

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段階的な情報開示

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「あなた達の望みは呪いを解くことだけですか」

「いいえ。共存できる環境を作りたいと考えています。人と、魔物と、その両方の血を継いだ者たちの」





ヘフテとダモンが、面を付けずに仲良く暮らせる場所を。





「両方の血、ですか。そんな者が…」

「いるのです。諍いを起こさぬよう忍んでいる者たちが。ひっそりと暮らしている者たちが。フォルファの娘は魔物との間に子を成しました。その子孫です。その者たちが影に忍ばず暮らせる環境を。あらゆる他者に寛容な環境を。それを作るために共存を目指します」

「情報を開示した後も、呪いが解けた後も、共存を目指し行動するということですね」

「はい。魔王とそう誓っていますし、それが望みでもあります」

「…わかりました。話に乗りましょう。ただし、情報開示は段階的に行います」



了承して、王はこう言った。



まずは王城内。
王側近の官吏や兵士に話を通す。

内部で分裂してしまっては、まとめられるものもまとめられなくなる。
王に近しい、信頼できる者から順に話をし、混乱を抑える。


次に特区の住民。

王都で力を持つ者も多い。
ここに反発心を持たれると、王城でまとまりが取れていても厄介なことになる。

家長や、あらゆる団体で取り締まり役になっている者へ情報を流す。


それから、民全体に向けての声明だ。

もちろん、噂の広まり方や情報開示後の反応を見て、調整しつつ進めていく。












情報共有や状況調整を話し合うべく、王にはたびたび呼び出されることとなった。

出向くのは主に私とマーツェとワイセ。
状況に応じて、ジーグの他、ヘフテやダモンを連れていくこともあった。



大昔の過ちを認め、魔物との共存を目指す。
そう突然王から聞かされた官吏たち。


諸悪の根源は魔物だと疑いもせず生きてきたのだ。
突飛な発言に思えただろう。

しかし、王への信頼が厚い故か、王城での大きな混乱はなかった。



フォルファの話から現在の争いに至るまで。


王自らが説明をする。
その通常有り得ない姿。

今まで隠していた事実を何故開示するに至ったか。
王の、自らの権威ではなく、民の命を、国の未来を守るのだという意志。

それらに心を揺り動かされたのだろう。




全員が全員、素直に受け止めたわけではない。
大きな混乱にならなかったとはいえ、中には反発する者もいた。


私やマーツェに誑かされているのではないか。
共存なんてできるはずがない。


そういった者たちと、王は根気よく対話をした。
一部の王族にのみ伝わる書物を交え、自ら言葉を紡いだ。




王との対話は、通常官吏を挟む。

近い距離に立つことも、直接言葉をもらえることもない。
直答を許されることすら有難いこと。

だというのに、同じ目線に立ち、官吏を挟むことなく王の言葉が直接届く。
王の真摯な態度によって、問題が起きることなく王城での情報開示は終えられた。











特区の住民に対しては、さすがに王本人から話をするわけにはいかなかった。
区画毎に、数日に分けて王城に呼び出し、王も立ち合い、兵士が話をした。

王の御前で騒ぎ立てるのは不敬である。
表面上は穏やかに、静かに事を終えた。


しかし特区に戻った反応を調べれば、穏やかとは程遠い。


魔物から民を守り、勇者を支援し、今まで誠実に対応していた王は乱心したのか。
初代魔王が人間だったなど信じられない。
いや、でも確かに近頃の魔物はあまり襲ってこない。


特区の住民同士で意見を交わしているうちに、言い争いへと発展するものもあった。



噂を流し、下地作りを行なってきたつもりだが、予測通りにはいかない。
なかなか難しいものである。



孤児が直接関われる範囲では対話を重ねた。

店員として出入りする店の管轄者。
畑管理を任されている家の者。

対話を重ね、誘導し、納得させていった。
全員を納得させるには至らなかったが、大半は王に従う姿勢になっただろう。







次は民全体に向けて。王から声明を。
と進めたいところだったが、一呼吸置くこととなった。


大きな騒ぎにはならなかったが、特区だけでも大変だったのである。
今一度、情報を流し治すことにした。
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