不死の魔法使いは鍵をにぎる

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魔王城へ向かう王

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民の様子を確認し、騒ぎには兵士を送り、動向を注視する日々。
そろそろ、全ての町村に書物が行き渡る頃か。



人間と魔物の共存はまだ走り出したばかり。
同意見の者同士で徐々にまとまる様子が見られている。

全面的に王に賛同派。
王の言葉は信じたいが共存には懐疑派。
自分の意見が定まらない保留派。

そして、魔物との共存など許せないという否定派。


割合としては懐疑派と保留派が大半を占めている。

正反対の立場である賛同派と否定派は、当然仲が悪い。
一触即発とまではいかないが、息のしづらい空気が漂っていた。





これを打開するため、王は魔王との会談を計画する。
共存を図る王に従いまとまっていた王城だったが、これには反対意見が出た。



「あまりにも危険が過ぎます。お考え直しください」

「魔王は人間に攻撃しないと誓っています。それに、勇者と共にいけば安心でしょう」



会議の場に参加していた私とマーツェに、王が目線を向ける。


私とマーツェがかつての勇者だったという事実は、ごく一部の、王の側近にのみ伝えられた。
腕の魔法陣と面を外した顔を見ているため、私に関してはすんなりと受け止められた。

しかしマーツェには半信半疑。
勇者ルターの頃から、生まれ変わったあらゆる年代について、質問攻めにあっていた。





「ええ。大丈夫だと誓いましょう。王を危険には晒しません。絶対に。万が一襲われたとしてもゲルハルトがいます。それとも、勇者ゲルハルトの力を疑いますか?」



私を引き合いに出さないでもらいたい。
口で弧を描くマーツェを横目で見る。



「…わかりました。ただし、私と保安隊隊長を付けさせていただきたい。勇者たちの力を疑うわけではないが、心配なので」




マーツェの言葉を受けて、王の魔王城行きは決定となった。
王の護衛隊長と保安隊隊長の同行とともに。


王が魔王城に赴くという情報は、小鳩を使って民に流された。

王が魔王と会談する機会を設ける。
その事実を目でもって知らしめるため、移動手段は転移ではなく馬車。


馬にも王にも無理を強いれないため、結構な時間を要した。
道中、窓から見える王見たさに、民が馬車に群がってくる。

好意的な者が占めているが、否定派が紛れているとも限らない。
馬車の左右を兵士が固め、民が近づき過ぎないようにする。




王都から離れるにつれ、徐々に落ちていく宿の質。
王が泊まるには不釣り合いな宿へと。

客として王が姿を見せた宿屋の店主は、興趣過ぎて体を震わせていた。






王が城から離れることはほぼ無い。
民の熱狂が、辺境の地になるほど激しくなっていく。
しかし住民の数は反比例して減るため、馬車が身動き取れなくなる程の事態は起こらなかった。

そうして、転移すれば一瞬の旅路を、一月かけて移動した。



魔王城が大きくなるにつれ、兵士の緊張が高まっているのを感じる。

口を引き締め、周りを警戒する視線。
手綱を握る手には力がこもっている。

王も平静を装ってはいるが、顔が強張っていた。




今回は正門から入る。
馬車を率いているし、王を裏口に通すわけにはいかない。
魔王にも話を通してから訪問している。


攻撃を許されていないため、形としてだけ立っている見張りの魔物。
王を見つめる目は、決して友好的なものだけではない。

魔物側としても、魔王に害を与えられないか心配ではあるだろう。



今回の会談でこの空気が柔らかくなるかどうか。






馬を止め、馬車から王が降りる。
入城すると人型をとった魔物が待ち構えていた。



「お待ちしていました。どうぞこちらへ。魔王がお待ちです」



そう言って頭を下げ、私たちを魔王の元まで案内した。
来客を迎え入れる広間。
そこで、魔王は椅子に座し私たちを待っていた。

対等の立場だと示すためだろう、王に用意された椅子と魔王の椅子は同じ高さに位置していた。


案内してきた魔物が椅子を勧め、王が腰を下ろす。
護衛隊隊長は王の椅子横に控え、それ以外は段下である。




「よく来られた。遠かっただろう。まずは喉を潤すといい」




ポットを持った魔物が、順に容器へと入れて振る舞う。
魔王が口にしたのを見てから、王も飲み物へ手を伸ばした。



「して、今日は勇者らの呪いを解くことが本題でいいのか?」
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