不死の魔法使いは鍵をにぎる

ベスツァフたちの移動

移住の準備が整い、ベスツァフ達が村を出ていく日がやってきた。


とにかく早く移動して生活環境を整えたい者。
せっかくなら移動がてら他所の町村を一目見たいという者。
協力者の村に行くから自力で移動するという者。

3組に分かれてそれぞれ行動する。





早く移動したい者たちは私が町まで転移させる。

もともとの村民が少ないうえ、さらにその一部の人数だ。
転移させるのは10人にも満たないため苦もなく行える。





他所の町村を一目見たい者たちは馬車での移動だ。

王城や新たな町から遠い地域だと、まだ排他的な態度を取られる可能性もある。
魔物とはまだ関わりの少ない生活をしている地域だ。
異形の部位を持つ者も目にしない。

念のため、ゆっくり見物はしないと話し合った。
だが通り過ぎるだけでも構わないという。


宿の主と揉めないよう、あらかじめ1日の移動量を考えて該当の宿には話を通しておいた。
地方の町村でぶらつかなければ問題は起きないだろう。






協力者の町へ移住する者は、距離が近いため自力移動だ。
運べる分だけ荷物を持って移動する。

大した距離はないため、不足分はその度に取りに戻ることもできる。
気楽なものである。





ベスツァフなど物資調達を担っていた者は早く移動組に多く混ざっていた。

協力者の村までだが外に行った経験がある。
今は環境を整えることを優先し、落ち着いてから他所の町村を見て回ればいいという考えだ。


馬車移動組が出発したのを見届けてから、転移を開始する。
衣服や手や腕、それぞれ掴んでもらい、一つに繋がる。

期待と不安のないまぜになった視線を向けてくるベスツァフら。
一瞬の浮遊を感じて目をつぶれば、もう転移は完了している。

軽い眩暈や気持ち悪さを感じた2名以外には、転移酔いになったものはいないようだ。
治癒魔法で症状を軽くしてから、ベスツァフらを官吏に引き渡す。


あとは官吏たちが家や仕事を案内してくれる流れだ。









「私は王城に戻る。環境が変わって大変かもしれないが、頑張れよ」

「うん。ありがとうゲルハルト！」



新たな首途に興奮しながら、ベスツァフは笑顔で手を振る。


共存はだいぶ進んだのだろうか。
それともまだ道半ばだろうか。





ヘフテの村やダモンの村には、まだ共存に関して話を拒まれている。
大きな問題を起こしていないとはいえ、反対派も存在している。


問題は依然残っているが、しかし魔物と人間が関わる姿は増えてきていた。
この姿が広く全国で見れるようになり、異形を持つ者も面無しで気兼ねなく暮らせるようになればいい。

目標地点までの距離がどれ程か。
定かではないが、着実に近づいてはいるはずだ。




気がかりなのは、魔物や異形を持つ者たちを人間社会に取り込む形になっていることだ。

物々交換で生活してきた者や、職を持ち定住するという概念も無かった者たち。
生活は一変しただろう。

生活様式に慣れず苦労している魔物もいるとマーツェは言っていた。
はたして不平はないのか。



このままの流れでいくと、いずれ魔王も人間の生活様式に合わせ暮らすことになるのだろうか。
その際、魔王城はどうなるのだろう。






“魔物と人間の共存”と軽々しく口にしていたが、人間の生活様式を魔物に強いている形だ。

しかし、ならば人間が魔物の生活様式に合わせれば良かったのかと聞かれると、それは違う。
それでは人間は生活できなくなってしまう。



正解のない問題。
けれど、できるだけ正解に近しい道を選びたい。
いま突き進んでいる道はどの方向に向いているのか。


一抹の不安が胸を掠める。