不死の魔法使いは鍵をにぎる

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官吏への魔法指導

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図書館と王都の連絡用魔具の制作がひと段落した日。
エヌケルの後輩官吏に魔法指導をすることになった。

予定を話し合うときには激しく緊張しており、まるで兵士のような言動をしていた。


今日はどうだろうか。






かつて不具合の生じていた魔法用訓練施設に向かう。


質のいい魔石に組み替え数も増やし、仕組みは修繕済だ。
未完成ではなくなった訓練施設は現在、官吏も兵士も自由に使えるようになっている。

王城施設を管理する部署に届け出をし、空きがあれば使用可能だ。


訓練施設ではすでに官吏が揃っていた。
私の姿を目にとめると、足を揃えて姿勢を正す。




「ゲルトさん!本日はご足労いただき感謝いたします!ご指導宜しくお願いいたします!」


今日も官吏らしからぬ態度である。



「ああ。そんな硬くなる必要はない。時間は限られていることだしさっさと始めよう」

「はい!」



敬礼までしそうな勢いである。
やめてくれ。




官吏の勢いに若干引きつつ、魔法を見ていく。


依頼されたのは、より効率的に魔力で陣を描けるようにすることだった。


今後、魔法陣を描く機会は増加すると思われる。
魔物と人間が意思疎通を図るための魔具の制作。
魔法陣と魔石で転移できるようにし、流通に役立てようという動きもある。

より効率的に、より多く陣を描けるようにしたい。



官吏たちの少ない魔力量では限度があるが、技術を高めようという意欲は認める。

ただし自己流で磨いてきた技術だ。
他人が理解できるように伝えられるかはわからない。
そもそも言葉で説明するのは苦手な質だ。
どうなることやら。









魔法指導に集まった官吏は5人。
順に陣を描かせて魔力の動きを見ていく。

一応断ってから手首を掴んでいるのだが、呆れるくらいに緊張されている。



どうした。
勇者にすらそこまで恐縮してる奴は見たことがないぞ。



緊張のせいなのか、それが実力なのか。
出力の安定しない魔力で描かれる陣。線が波打っている。





「…魔力をどう動かして描いてるんだ」

「はい!魔力を細く長く伸ばして、それを置くような意識で描いてます!」

「置く程度じゃ駄目だ。より強い魔力をこの細い線の中に押し込めないといけない。…魔力の弾は作れるか」

「はい!」

「手の平大を作ってそれを小さく縮めてみろ。魔力量は変えずにだ」




そう1人を指導していると、他の4人も真似して魔力の弾を作り出す。
一回り小さくなったかとおもえば、すぐに魔力に押し返される。


この調子だと先は長そうだな。
様子見していると、ワイセが訓練施設に顔を出した。





「ゲルト。魔法訓練してやってるんだって?」

「ああ。今日は非番じゃなかったのか」

「非番だよ。ゲルトが人の面倒見てやってるの珍しいからさ。様子見に来た」




意地の悪い笑みを浮かべてワイセは言う。




余談だが、ゲルトと呼びかけてくる者が増えた。
エヌケルがそう呼ぶせいだろう。
王城に勤める兵士や官吏のほとんどはゲルト呼びだ。

師匠だけが使っていた呼び名。
こんなに使われる日がくるとは。








「何も面白いことはしていないぞ」

「そうやって眉間に皺寄せながら人のために行動してるとこ見てるだけで面白いよ。普段は人と関わろうとしないゲルトがさ」



軽口をたたくワイセに、官吏の1人が話しかける。



「ワイセ。ゲルトさんによくまあそんな気やすく話しかけられるね」

「逆にそんな恐縮する必要あるか?かつての勇者と似てるったって、ゲルトはゲルトじゃん」

「ばっかお前、ゲルトさんの功績を知らないの?」

「勇者ゲルハルトじゃなくてゲルトの?」


「そうだよ。町にはゲルトさんに救われた人が溢れてる。

腕をくっつけてもらった兵士。深い切り傷を治してもらった人。孤児も助けてるし、魔物と激しく争ってたときには魔物退治も。治癒を速める魔具を渡してくれたり、今も王城との連絡用魔具を高品質で大量生産してくれてる。

防具の修理やらも受けてくれてたし、作物の実りをよくする方法も広めてくれた。王が進めてる共存のために裏で暗躍もしてくれたんだよ?」





確かに全て私が関わっているが、私だけで行ったことではない。

むしろマーツェ主導で行ったことの方が多い。
ワイセだって一翼を担っている。


面の印象が強いせいで私の名前が頻繁に上がっているのだろうか。





「そうやって言われると結構な人助けしてんのな」

「でしょう?そのうえ他の追随を許さない魔法技術に、王とも魔王とも淡々と会話していくその冷静さ。腕の魔法陣なんて最高にかっこいいし」

「わかったわかった」



延々続きそうな官吏の言葉をワイセが遮る。



「でも裏で暗躍してたってなら俺もそうなんだけど?」

「ワイセがあ?信じらんないな」



官吏はけらけらと笑い飛ばす。
数時間の魔法指導では官吏の技術が劇的に上がることもなく、日にちをあけてまた指導することになった。
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