不死の魔法使いは鍵をにぎる

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不介入の確約

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孤児の保護が国主導で行われることになり、晴れて自由の身となったジーグ。

これから何をしようか。
気も抜けていたところだったが、この度、国に雇われることとなった。




図書館に孤児が保護されると、人数に応じて孤児支援係が王城から派遣される。
主に行うのは健康管理や教育だ。

足りない栄養により崩しやすい健康の管理。
独り立ちできるようにするための教育。

それらを孤児が十分な年齢になるまで行なっていく。


その予定だったが、近頃ある問題が散見される。
保護された孤児たちの情緒が安定せず、問題行動が多発しているのだ。


図書館を汚す。
孤児支援係を殴る。
癇癪を起し泣きわめく。


支援係たちは、教育や健康管理ができることを基準に選ばれ、派遣されていた。
孤児の精神面は考慮していなかったのである。



一身に愛情を注いでくれる存在を欠いた孤児たち。

愛情を求めて、大人を試す行動を取る。
愛情の足りない感情を持て余し、爆発させる。


孤児支援係たちは手に負えないと魔具で報告してきた。






そこでジーグの出番である。

国が孤児支援に乗り出すまで、多くの孤児を保護し教育してきたジーグ。
魔物の手助けも借りつつ、多くの孤児に愛情を注ぎ育ててきた。
その手法を孤児支援係たちに指導するのだ。


まずは王城にいる支援係に指導をし、既に図書館に派遣している支援係と交代してさらに指導をする。
しかしそれだけでは不十分だと、ジーグは魔物の派遣を訴えた。




これまでの孤児保護活動は、ジーグ1人だけではなく魔物の功績も大きい。

犬や狐に似た、毛並みのいい魔物。
その柔らかく心地の良い毛並みは孤児たちに癒しを与えた。

寂しさを慰めるため、魔物に抱き着き涙する孤児たち。
眠れぬ夜に魔物の元へ行く姿も見られた。

温かく柔らかなものに包まれて心を慰める。
それは魔物だからこそできることで、支援係にいくら指導しても力不足だろう。


魔物に子供の世話など、と反対意見も出たが、実体験として安らぎを得ていたかつての孤児たちの話がある。
魔物は徐々に派遣されていくことが決定した。





「ジーグ、また忙しい日々だね。もとに戻っちゃった」

「本人が充実してるみたいだからいいんじゃないか」





支援係の指導ということで、王城でジーグの姿をよく見かけるようになった。
数日前の力の抜けた表情と違い、今は気力に溢れている。
各図書館へ視察も行うようだ。




「これでうまくいくといいね。国の孤児支援。結構な有様だったみたいだから。聞いた話だと。支援係が逃げ出すんじゃってくらい」

「ああ。命が助かればいいって話でもないからな」




愛情に飢えたまま成長したとして、まともな社会生活を送れる人間になっているかは怪しい。
情緒が安定せず、盗みや暴力を犯す可能性が高くなる。

国を安定させるために孤児を保護しているというのに、そのせいで治安が悪化しては意味がない。




図書館に派遣する魔物に関する話や、最終的に王と魔王をどう着地させるか、諸々を話し合う場が設けられた。

今回は片道一月もかけていられないため、転移での移動だ。
王、その側近たち、マーツェに私。
6人一繋がりとなって魔王城まで転移する。



何度も会談を重ねたため、互いに緊張はもう無い。
見張りと緩く挨拶を交わして魔王城に入る。

始めの頃こそ来客用の間で堅苦しく話を交わしていたが、今や雑多な執務室での話である。
飲み物や果物を口にしながら話を詰めていく。





「子供の世話か。子供に慣れているものを送ればいいか?」

「それも大事ですが、今回は触れることで心の安定を図りたいのです。子供に抱き着かれても平気なこと、加えて毛並みが綺麗だと尚良いです」

「ふむ。わかった。話をつけて連れていこう」

「頼みます」



魔王はすぐに、傍に控えていた魔物に指示を出す。
頷いた魔物は仲間とともに仕事に取り掛かり、部屋を出ていった。



「説得を続けていた村はどうなりましたか?」

「ああ。とりあえず話はついた。好ましい形ではないがな」







幾度となく言葉を重ね説得を試みたダモンの村。


フォルファを傷つけ苦しめた人間たちと共存を図るなど、協力はできない。
人間の王を仕留め、復讐を果たすべきだ。
これまでのフォルファの、魔物たちの恨みを知らしめるべきだ。


一部の共存に納得できない魔物も集まり、逆に魔王を説得にかかる勢いであった。
互いに言葉を尽くし心変わりさせようとする中で、1つの妥協点に落ち着いた。




ヘフテの村は、共存に協力をしない。
代わりに、魔王の邪魔もしないということになった。


人間への憎しみは消えない。
復讐を諦めるなど納得はできない。
しかし、仲間の犠牲をこれ以上出したくないという気持ちは同じだ。

自分たちの人間への憎しみは消さない。
仲間の犠牲を出さないという点にだけ賛同し、干渉しないことにする。



魔王側でも同じである。
これ以上の説得は諦め、村に協力を強いることはしない。






「賛同は得られなかったが、不介入の確約は得た。衝突が起こることはないだろう。説得できなかったのは不甲斐ないが」

「反対者なく変革していくのは不可能でしょう。仕方のないことです」




人間側も否定派による不穏な行動は時折見られる。
不介入を得られただけ、まだ魔物側の方がまとまっているかもしれない。




「これで魔物全体の意見がまとまったわけですよね。魔王もこちらに移って生活する形になりますか?」

「いや、私はこの城から動く気はない。そちらに移動しても、私と王の均等を図れる地位はないだろう。現状維持が適当だと考える」



魔王が生活する場を人間社会に移すか否か。
移す場合に備えて、城では対応を考え始めてもいた。





「確かに均等を図ることは難題ですが、消極的な理由で諦めるのですか?納得できません」



他の理由もあるのだろうと、圧をかける王。
魔王は少し考えてから口を開いた。



「…勇者らには話したな。この首飾りには、フォルファ様や歴代魔王の思念が残っている。人間を強く憎んだその思念が」



そっと優しく首飾りに触れる魔王。
古びてはいるが、首飾りは大切に扱われ綺麗な状態で保たれている。



「私らにとっては大切な者の形見だ。長い時を受け継いで、大事にしてきた。しかし同時に、憎しみを引き継ぐ物でもある」







かつてフォルファの妻が付けていた首飾り。

形見として身に付け人間と争っていたフォルファは、死に際に強力な呪いを放つ。
呪いは不発に終わったが、思念となって首飾りに残留し、魔物に多くのことを伝えた。


裏切られた恨み。
妻を殺された悲しみ。
人間と争うに至った強い強い復讐心。






「共存に賛成してくれていた者も、これに触れればフォルファ様の思いに引きずられるだろう。争いが再び起こる。私はこれを処理せねばならない」

「魔王城で遂げる必要はないでしょう」

「あるのだ。この城にはみなの魔力を集める魔具がある。それが無ければ思念を処理するのは難しい。魔具の悪用を防ぐ必要もある。無いとは思うが、念のためな。だから私はこの城に残る」




その他、魔王城を残す意義についても魔王は触れた。


魔王城は、雨風が酷い日の魔物の避難場所ともなっていた。

基本は野外の好きな場所で好きな時に眠る魔物たち。
しかし嵐などで天候が悪い日は別である。
雨風を凌げる場所で、安全を確保して眠りに着く。

大半の魔物にとっての安全な寝床が魔王城だった。


共存に賛同しない魔物。
人間社会に馴染めなかった魔物。

これまで同様の生活を継続する魔物はいる。
その者たちのため、魔王城を維持せねばならない。





「魔王の意見はわかりました。しかしそれでは魔物たちに不平が出るのではないでしょうか。私と魔王で均衡が取れているとは思えません」

「問題ない。私らは尊厳は大事にするが、立場はあまり気にしない。人間たちの誤っていた歴史認識が正され、フォルファ様の尊厳は取り戻せただろう。それだけで十分だ」





種族による価値観の違い。

人間が考えていたよりもずっと、魔物というのは欲が少ない生き物なのか。
それとも人間が欲深すぎるのか。


城に残る魔王の意見は納得できたため、一旦話を持ち帰ることにした。





魔王が、魔物がそれでいいと言っても、人間側が魔物を下に見て諍いを生む可能性もある。
共存を、平和を、長く維持するためにはよくよく考えなければならない。
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