クビになった暗黒騎士は田舎でスローライフを送りたい~死の大地と呼ばれる場所は酷暑の日本と同じような場所でした。チートスキルで快適生活します~

taqno2nd

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第一章

第12話 元暗黒騎士はエルフと夜を共にする

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「よく寝たわ~、すっかり元気になれた! 畳ってすごいのね!」

「おかげで外はすっかり暗くなってるな。もう夜だ」

 そろそろ夕食を食べなくちゃいけない。
 昼寝して忘れてたけど、俺昼飯食ってないんだった。
 もう腹が減って辛抱出来ない。

「悪いけど、夕飯も【ダークマター】で生成したものになるけどいいか?」

「全然問題ないわ。あれが異世界の食べ物だって分かったら、むしろ興味が湧くくらいよ」

「とは言っても、やはりずっと【ダークマター】に頼るわけにはいかないからな。今後の食糧問題は早急に考えないといけないだろう」

「ええ。それについては食べながら話しましょう」

 夕食は何を作ろうか。
 昼寝したからさっぱりしたものがいいか?
 いや昼飯を抜いたから、ガッツリしたものでもいいかもしれない。

「夕飯のリクエストはあるか?」

「美味しいものがいいわ」

「えらくザックリとしたリクエストだな。そういうのが一番困るんだが」

「お母さんにも同じことを言われたわ」

 俺も同じだ。
 実家にいたころは、夜ご飯は何でもいいと母に伝えて怒られたものだ。
 用意する側になると、何でもいいというアバウトな要求が一番困ると分かった。

「食べられない物とかはないか? 肉は駄目とか、好き嫌いとかは」

「無いわね! 私は美味しければ何でもオーケーよ」

 なるほど、分かりやすい。
 俺の読んでたラノベには、肉は食べないエルフが出てたが、この世界にはそういうのはないらしい。

「じゃあ適当に作るぞ。【ダークマター】発動!」

「何が出てくるか楽しみね。お昼のソーメンも美味しかったけど、肉も食べたいわね。主食にパンも欲しいかも」

「おい、スキル発動する瞬間にリクエスト出すなよ。最初から言ってくれ」

 肉とパンか。
 そういえば前世だとよくファーストフード店でハンバーガーを食べてたな。
 セットでフライドポテトも付けてたが、あれも美味しかった。

 あ、頭の中にハンバーガーセットのイメージが出来てしまった。

「出来た、ビッグバーガーセットだ」

「パンに肉が挟まってるのね。これだけだとこの世界にありそうだけれど」

「生成出来たってことは、この世界には無いんだろう。食べてみろよ」

「そうね。いただきます……あむ……んん! 美味しい! パンがフワフワで、肉もジューシーだわ!」

「どれどれ、いただきます……うん、よく再現出来てるな。うまい」

 どうやら俺のイメージ通り、ファーストフードのハンバーガーを再現出来たようだ。

 懐かしい味に思わず感動する。
 この世界でこういうファーストフードって無いもんな。
 肉もこの世界の物とは思えないほど、旨味が詰まっている。

「ねえ、この細長いのは何?」

「もうハンバーガー食べ終わったのか、早いな。その細いのはフライドポテトだ。芋を細く切って油で揚げたやつだよ」

「へぇ~。芋はユグドラでもあるけど、見た目が違うわね。もっとくすんだ色をしてるわよね。それに油で揚げるなんて贅沢な食べ方じゃなくて、煮込むだけの料理が多いわ」

「この世界の料理油は品質が低いしな。揚げ物自体があまり無いから、フライドポテトは存在すらしてないってことなんだろう」

「だからあなたのスキルで生成出来たってことね。食材は存在してても、質や文化の違いでこの世界に無いから」

「そういうことだ。……待てよ、つまり質の問題さえ解決すれば、この世界の食材でも作れるってことか?」

「いいじゃない! 作りましょうよ! お昼のソーメンも、ビッグバーガーも一度きりなんて勿体無いわ! 私たちで作れるようにしましょう!」

 アリアスの言葉で、今後の目標が見えた気がした。

 そうだ。俺はこの荒れ果てた地で、前世の食事を再現出来るようにしよう。
 アリアスに美味しいものを食べさせたい。俺も前世の食事を食べたい。
 だったら自分たちで作ればいいじゃないか。

「大変そうだけど、やってみる価値はありそうだな」

「ええ、これから一緒に頑張りましょう!」

「ああ……って、その前に確認しておきたいんだが」

 一番大事なことを聞き忘れていた。

「アリアスはいいのか……? 成り行きとはいえ、俺と二人で死の大地に住むことになってしまったけど」

「私はあなたを信頼してるわ。あなたがユグドラの黒き剣だから」

「その二つ名を名乗った自覚は無いんだけどな」

「じゃあ、これからあなたのことを知っていけるようにするわ。よろしくね、レクス」

 ようやく名前で呼んでくれた。
 俺を噂の暗黒騎士としてではなく、一人の人間として認識してくれた。
 そんな気がして、なんだか嬉しかった。

「な、なによ……何か言いなさいよね……変なこと言ったみたいで恥ずかしいじゃない」

「いや、なんかこういうの慣れてなくてさ。こちらこそよろしく、アリアス」

 アリアスの綺麗な手と握手を交わす。
 俺のゴツゴツな手とはまるで正反対だ。

 そんな正反対な俺たちは、これから一緒の家で暮らすこととなった。

 金髪デカパイエルフとの共同生活。
 田舎での自給自足のスローライフ。
 前世の俺が見たら、歓喜の涙を流すことだろう。

 だがやることが山積みだ。
 アリアスに見捨てられないように、これから頑張っていこう。

 ◆◆◆

 食後、アリアスに風呂の説明をした。
 アリアスは風呂があることに感動して、早速入浴した。

「お風呂上がったわ。異世界のお風呂って凄いのね! 湯船の温度を自動で調整してくれるなんて最高よ」

「魔道具でも似たようなことは出来そうだけどな」

「そもそもお風呂を用意するのが一般的じゃないもの。一般人は水とタオルで体を拭くくらいで、お風呂なんて金持ちの道楽だわ」

「確かにそうか。俺も騎士団時代は水を浴びるだけだったし。任務に出ると数日間風呂に入れないこともザラだったよ」

 おかげで訓練場も宿舎も男臭くてキツかった。
 前世の運動部の部室の匂いを、十倍くらい酷くした匂いだったからな。

「シャンプーとリンス、ボディソープは使い方が分かったか?」

「ええ、あなたが説明してくれたから迷わなかったわ。髪を洗うのに専用の石鹸があるなんて、異世界は贅沢なのね」

「石鹸もこの世界じゃまだ市民に普及してないよな。魔法でどうにか出来るから、そういうのが発展してないのかもしれない」

「何でも魔法で解決出来るから不便に感じなかったけれど、この家にいると今までの生活は何だったのかって疑問に思うほど、この家は快適ね」

「魔法があるこの世界も、俺からしたら便利に思えるさ」

「そんなものかしら……」

 まぁ、文明格差は気になるといえば気になるが。

「じゃあ俺も風呂に入ってくる。アリアスはゆっくりくつろいでてくれ」

「はーい」

 俺は脱衣所で服を脱ぎ、風呂に入る。
 前世の実家と同じレイアウトだな。
 なんだか久々に実家に帰省したような気分だ。

 まずはかけ湯をザバーっと。

「温かい……! さてと、湯船に入って……お゛お゛~生き返る~……!」

 全身がポカポカと温まるのを感じる。
 これだよこれ、この温かさこそ風呂の醍醐味だ。

「はぁ……気持ちいい……ここ最近の疲れが全部取れそうだ」

 お湯を顔にかける。
 気分がスッキリするな。

「ってこの湯船、アリアスが入った後だったな」

 普通なら変なことを考えそうだが、そんな気にならなかった。
 なぜなら風呂が最高だからだ。
 むしろエルフの入った風呂というと、神々しささえ感じる。

「あったかい風呂と美味いメシ。それさえあれば人生どうにでもなる」

 昨日から始まったいざこざなど知ったことか。
 俺は今、最高の転生スローライフを迎えようとしているのだ。
 それを楽しむためにも、嫌なことなどさっさと忘れるに限る。

 体を洗うのと一緒に、前の職場の記憶も綺麗さっぱり流してしまえ。

 ◆◆◆

「待たせたな」

「長かったわね。異世界だとお風呂は長時間入るのが普通なの?」

「久々の風呂で長湯しすぎたんだ。まぁ、元々風呂は好きだったが」

「そうなのね。私も明日からもう少し長く浸かっていようかしら」

「食事の時間とかも決めておいた方がいいかもな」

「そうね、一緒に暮らすならそういうことも決めないといけないわね」

 あ、なんか今の会話家族っぽい。
 改めてアリアスと一緒に暮らしていくんだと実感する。

「とりあえず夕飯は夜の七時を目安にするか。風呂は八時くらいで、先に入りたい方が入る。長くても三十分を目処にしよう」

「三十分も入るの? あなた本当にお風呂が好きなのね」

「疲れた時はそれくらい長湯するんだ。普段はもっと短いさ」

「ふーん、分かった。時間はそれで問題ないわ」

 今後実際に生活していくにつれて、決めることも増えるだろう。
 とりあえず今はこれで問題ないだろう。あくまで目安だ。

「お風呂に入ったせいか、体が火照るわ。こんなの初めてだわ」

「暑いか? 冷房をもっと強くしようか」

「いいえ、そこまでしなくていい。この火照り、なんだか心地いいの。体の疲れが放出されてるような感覚よ」

「お互い大変だったからな」

「ええ、本当に。まさか一日でこんなことになるなんて、夢にも思わなかったけど」

「俺もだよ」

 まさか仕事をクビになった翌日に、金髪デカパイエルフと一緒に暮らすことになるとは。
 人生何があるか分かったもんじゃないな。

「そうだ。これからの共同生活を祝して、ささやかな乾杯をしようか」

「お酒? あなたのスキルで出せるの?」

「恐らくな。ついでに風呂上がりのデザートも用意しよう」

「デザート! フルーツかしら」

 残念、フルーツじゃない。
 だがアリアスもきっと気にいるだろう。

 俺は風呂上がりに飲む酒と、そしてデザートを脳内にイメージする。

「【ダークマター】発動!」

「これは、金属の筒? それに紙の器?」

「アルミ缶のビールと、カップアイスだ。この世界のエールみたいな酒と、牛の乳で作った氷菓子だよ」

「氷菓子……そんなものもあるのね。エールなら私も好きよ」

 俺達の前に現れたのは、プレミアムな缶ビールとスーパーなカップアイスだ。
 どちらも前世ではありふれた物だが、この世界には存在しないモノだ。
 ご丁寧に二人分用意されている。

 ちなみにアリアスは十八歳だがこの世界は十八歳から酒が飲める。
 だから未成年飲酒にはならない。
 まぁ、前世の日本ほど未成年の飲酒に厳しい世界でもないのだが。

「そういえばあなた、副作用は大丈夫なの。スキルを使うと精神に負荷がかかるんでしょう」

「今のところ平気だ。生成するモノの規模によって負担が変わるのかもな」

「家を作るのと食べ物を作るのでは、話が全然違うものね」

「それに俺が今まで生成してたのは、前世にも存在しなかった架空のモノが多かった。こういう前世に存在してた食べ物を生成する時は、然程精神に負担がない」

「なるほど、完全に想像上のモノを作る場合、コストが高くなるのね」

「たぶんそういうことなんだろうな」

 どういう仕組みなのかは分からんが、ダークマターの副作用が知れたのは収穫だな。
 家を作った時に気を失ったが、あれは『魔力で動く前世風の家』というある意味架空のモノを生成したからなのかもしれない。

「まぁ難しいことは考えないことにしよう。とりあえずグラスに注いで……乾杯!」

「かんぱ~い!」

 元気よく乾杯するアリアス。
 どうやら本当に酒が好きらしい。

「ぷはぁ~! 美味しいわねこのお酒、ビールって言ったかしら」

「ああ、久々に飲んだけどやっぱり美味いな。エールとは喉越しが違う」

 本当は生ビールを生成したかったのだが、前世で風呂上がりに缶ビールを飲んでいたからそっちのイメージが増してしまった。
 今度生ビールが生成出来ないか試してみるか。

「この氷菓子はどうやって食べるの?」

「蓋を剥がして、そこにある木のスプーンで食べるんだよ。ほら、こんな感じ」

 俺はカップアイスの食べ方をアリアスに見せてみた。
 うん、美味しい。
 前世ではいつでもどこでも買えたカップアイスが、この世界では最高の甘味だ。

 仕事で疲れた日とか、風呂上がりによく食べてたなぁ。
 すごい贅沢をしているみたいで、わくわくする。

「こうやるのね……うわ、冷たいっ。それに甘いわ! フルーツの甘さとは違う味わいね! これが牛のミルクから作られてるの?」

「どうやって作るのかは俺も詳しくないけどな。気に入ってもらえたようでなによりだ」

「これは罪な味だわ……こんな贅沢をして許されるのかしら……」

「大袈裟な……と言いたいとこだけど、確かにこの世界じゃ味わえないよなぁ」

「この甘いかっぷあいすを食べた後に、ビールで喉を潤す。最高ね……素晴らしいわ、異世界の食べ物!」

「ビールとアイスの組み合わせはあんまりしないけどな。まぁ今日は特別ってことで」

「そんな……この味はもう味わえないのね……。ねぇレクス、このかっぷあいすも、私たちで作れないかしら」

「アイスを作るのか……? いや、それはどうだろう……作り方も分からないしな」

 確かにアイスを作れれば、食事にデザートが追加されて嬉しい。
 日々の幸福感も増すだろう。
 試してみる価値はあるかもしれない。

 どうやって作るかは、また考えないとな。

「ここでの生活は人生の再スタートみたいなものだ。せっかくならやりたいことをどんどんやっていこう」

「そうね。新しいことに挑戦するって、楽しみだわ。こんなに素晴らしい物があるって知って、諦めるなんて私には出来ないもの」

「目標が出来るってのはいいことだ。やる気も出てくる」

「ええ、一緒に頑張りましょう」

 それからアリアスと、これからやってみたいことなどを色々話していった。
 俺達はこれからの生活に向けて盛り上がるのだった。

 こうして、俺達のスローライフ最初の夜が更けていった。
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