神の眼を持つ少年です。

やまぐちこはる

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148 おとなたち、盛り上がる

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「これで、燻し物を一度にまとめて作ることができるとドリアン様にご報告できそうですね、ドレイファス様!きっとすごく喜んでくださいますよ」
「お父さまが、喜ぶ?」

 碧い目がうれしそうに煌めく。

「もちろんですとも。ドリアン様はこの燻し物をたいそうお気に召していらっしゃいますしね」
「そうなんだ!」

 ─そう、おとなはみんなこれ絶対好きだな─

 ボンディの言葉を聞いていたローザリオ・シズルスも、ひとり納得している。

 ─これに錬金術で関われるところはないものだろうか?─

 策を巡らせていたが、見つからない。
ローザリオが手を付けられるとしたら、せいぜい小屋に置かれた小型の釜くらいだろうが、それもミルケラがレンガで組んで作ったもので間に合ってしまう。
 シエルドが木の種類によって変わる効果などを分析していることは知っている、それを餌に試食は必ず呼んでもらうように交渉しようかと、とっても気に入った燻し物になんとかなんとか自分も一枚噛んでみせようと頭を回転させていた。

「師匠?」

 シエルドのまだ小さな手がローザリオに触れて、気が逸れていたことに気づく。

「どうした?」
「あの、ボンディさんから干し肉や干し魚を漬け込む液体の分析と改良を頼まれたのですけど、ぼくやってもい」
「そっ!それは素晴らしいっ!ぜひお引き受けしなさいシエルド!」

 ─よしっ!シエルドいいぞっ!─

 ローザリオはかわいい愛弟子の頭を、これでもかというくらいぐりぐりごしごしと撫でくり回し、そんな姿を初めて見たアーサを呆然とさせていた。

「し、師匠っ」

 シエルドの頭は歓喜のローザリオにかき回されてぐしゃぐしゃに乱れている、それを見たドレイファスが笑い転げ、ゴホンと咳払いをしたローザリオが手ぐしで整え直して。

「うん、これでいい。元通りの髪型になった。
ボンディに頼まれた燻し物は、シエルドが様々な素材分析に取り組んでいるからこその依頼だから、頑張りなさい。ただ改良となると広範囲な試作が必要になるだろうから、私も及ばずながら手伝おうっ!」

 妙にテンション高く言うローザリオに不審な目を向けるシエルドと、うんうん君の魂胆はわかるよと頷きニヤニヤするボンディに挟まれて、珍しく照れ笑いするローザリオをアーサが冷静に見つめていた。

「ね、これ何?」
「ああ、それ茹で卵ですよ。試しに少しづついろいろやってみたのでこちらも食べてみましょう」

 今回、小屋で一気に様々な物を燻せるということで、ボンディは思いつく限りたくさんの食材を棚に並べていた。
 茹で卵やトモテラ、グリーンボールといった野菜、薄くスライスしたブレッドまで、ダメでもともとだと自分でも有り得ないなと思いながらも用意したのだ。

「うぇ、これはダメだな」

 ローザリオが一口食べたトモテラを皿から除ける。

「お!これとても美味いですよ」

 ボンディが小さくカットした茹で卵を勧めて、皆摘んで口に放り込むと。

「ほんとだ!おいしいねっ」

誰より先にドレイファスが反応した。
二口目の茹で卵を摘むと、また口に放り込んでいる。

「おいしい!あっ!お母さまも食べたいっておっしゃると思うのこれ」

 ちらりとボンディに目を向けると、承知した!と料理長が頷き返す。
 アーサが、薄切りブレッドを指で挟んで眺め、カリっと音を立てて前歯で齧ると

「うまいっ、これブレッドですよね?全然違うんですよ。これならいくらでも食べられそうだ!ほら、みなさんも試してみてください」

 意外にも、ボンディがふざけて試したブレッドが絶賛され、また続々と口に放り込んでいく。
 パンの木という植物の実を焼いたブレッドは、固くもっさりしている。焼いたブレッドを薄くスライスして、焼いた肉と合わせたり、スープにつけてふやかしたりするが、あまりうまいとは言えない代物だ。
それがどうだ!燻しただけでカリカリっと香ばしく仕上がって、いきなり美味い食べ物に変化したではないか!

「本当においしい!」

 ドレイファスとシエルドの口元にはパンくずがたくさんついていて、既に数口食べたようだとわかるが、まるでおやつのように次のブレッドに手をのばしている。

「これ、乾燥の度合いを変えて数種類作って試すといいかもしれないな」

 ローザリオが小さく呟き、あれ?っという顔を浮かべたと思うと、ボンディの肩を叩いてにっこり笑って。

「そうだ!乾燥の度合いで日持ちが変わるかもしれないし、私がそれを調べてやろう!」

 ─なんといいことを思いついたんだ!ヨシ、私よくやったぞ!─

 シエルドにおんぶに抱っこでなくともちゃんと出番が作れたことに、なんとも充実した気持ちになって。表情にもそれが現れていた。

「師匠?何かあったんですか?」

 気持ち悪いものを見たような顔でシエルドに覗き込まれ、咳払いで誤魔化したローザリオであった。


 その夜。
 ボンディの提案で、まるで兵糧かというような見た目の夕餉が用意された。
カサカサに乾いたブレッドや干し肉、ちぎって洗っただけのグリーンボールのサラダはドレッシングもかかっていない。

「あら、今日の食事は何か足りないのではなくて?」

 食いしん坊には物足りなく見えるメニューであったが、総料理長ではなくボンディが説明に現れたのを見て、何か仕掛けがあるのだとマーリアルも気がついたようだ。

「見かけに騙されませぬよう、お願い申し上げます。ぜひ一口お召し上がりになってみて下さい」

 何か含みのあるような笑顔を浮かべたボンディ。
マーリアルは迷わず干し肉を一切れをカサついたブレッドに乗せて、口に入れた。

 カリッ

 その食感は不快なカサカサではなく、香ばしくカリカリしていて、今まで食べたどのブレッドより美味しいとマーリアルは目を大きく見開いた。

「これは!美味いっ」

 ドリアンもどんどんと口に放り込んでいく。
途中一口酒を含み、また食べ進める。

「う?うん!酒もあうぞ!」
「本当に、お酒が進んでしまうわね、これ」

 いや、マールはいつだって食事もデザートも酒も進みまくりではないか!と思ったドリアンだが賢明なことに口にはせずに話題を変えた。

「ボンディ、このブレッドもまさかあれか?」
「はい、左様でございます」
「おお!やはりな。ブレッドなのに食感や風味が違うからそうではないかと思ったのだ!」

 頷いてにこりとしたボンディに、サラダも食すよう勧められる。

「サラダ?マーリアルではないが、これは何もかけずに食べるのかね?」
「いえ、かかっているのです」
「え?」
「どうぞ一口」

 ボンディが両手のひらを上にしながら、何かを掬うような仕草で先を促してくるので、ただグリーンボールをちぎっただけに見えるサラダを恐る恐る口にすると、ふわあと燻した香りが鼻を抜けた。

「なっ?」
「おわかりいただけたでしょうか?燻した塩をかけましたが」
「うむ、わかった」
「ええ、食べるとわかるわね。美味しいわ」
「ミルケラに燻し小屋を作ってもらいまして、一度にまとまった量作れるようになりました。これは試作品です」

 それはドリアンが待ち望んだ言葉だ。

「では商品化も可能と?」
「はい、できるでしょう。多少人手がいりますが」
「手配しよう。ボンディは料理長と燻し物の責任者とを兼ねることはできそうか?」

 俯き加減で暫く逡巡したボンディは、意を決したように言った。

「・・・やって・・みたいです」
「よし。では負担になったらすぐ相談するように」

 そうして、公爵家発の新たなプロジェクトは、料理長ボンディ・ロマの燻し物シリーズと決まり、公爵家合同ギルドの面々も試食会と銘打って集まり、ボンディとミルケラ、ローザリオとシエルドが協力者として一部個別に利益を分けられることが決まった。





「美味いっ!」

 今こどもたちの父とローザリオ、ボンディで燻し物の試食会を行っているところだ。
アラミスの父ダルスラ・ロンドリン伯爵が、干し肉を味わいながら訊ねてくる。

「かなり日持ちするということだが、具体的にはどれくらい?」
「通常の干し肉が冬に三月、夏に二週とするなら、だいたいその三倍は保つはずだ。まだそこまで試していないが、鑑定ではそのように出た」

 ローザリオがボンディの代わりに答える。
この鑑定は庭師タンジェントに依頼した。
自身やシエルドもだいぶ細かい鑑定ができる方だが、それでもタンジェントほどの鑑定スキルはローザリオですら他に知らないほど。
 ボンディに依頼された漬け込む液を、より腐食しにくくなるハーブなどを足して改良した結果、カチカチまで乾かさなくてもかなり日持ちする干し肉や干し魚が作れる目処が立ち始めていた。

「いいな。ロンドリン領では非常食として様々な食料の備蓄を検討しているので、日持ちしてなおかつ美味いなんて最高だ!」
「なるほど、備蓄食料か。私は兵糧として考えていたが」

 ドリアンがこぼすとワルター・ザンザルブ侯爵も頷く。

「あ、私もだ。領民の非常食として備えるほど作れるのか?」
「公爵家だけでやるのでは時間が足りん。故に我が料理長ボンディ・ロマと合同ギルド責任者のミルケラ・グザヴィを回らせるので、燻し小屋を各家で作り、各領地でそれぞれに生産販売してもらうというのはどうだろう?利益のうち、分け合う分のみギルドに納めてもらえば。あと作る時に乾物を漬け込む液体はシズルスの錬金術アトリエで調合するものを使えば味はだいたい揃うはず」

 ドリアンの話に、ローザリオが手をあげて一つ提案をする。

「味を揃えた物と、そこにしかない特徴のある木や食べ物があれば、それを使ってその領地限定のようなものも作ってみては?土産などに販路があるかもしれませんよ」

 もちろん、ただで起きるようなローザリオではない。実家シズルス領に思い当たる香り高い木があるのだ。それを使ったらどんな風味になるだろうと思いついての提案である。

「おお、それはいい。
ロンドリンにも他にはない木がいくつもある」

 ダルスラがうれしそうに賛同したが、クロードゥル・ヤンニル騎士爵だけは領地を持たないためじっと黙りこくっている。
それに気づいたドリアンがクロードゥルにひとつ提案をした。
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