神の眼を持つ少年です。

やまぐちこはる

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152 カルルドの秘密基地

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 ランカイド・スートレラ子爵がフォンブランデイル公爵家を訪れたとき、カルルドとファロー・ミースについてのドリアンの対応は既に決まっていた。
 てっきりミースの相談をしに来たのだとドリアンは思っていたが。

「土木士を借りたい?」
「はい、公爵邸と同じように、本宅と別邸を地下通路で繋げられないかと」
「それは蜂と関係が?」
「はい、このところかなり増えてきまして、教師が学院内に研究飼育施設を作ってはとカルルドに提案したそうですが、事業化し始めたところで蜂を持ち出されては困りますもので。別邸に蜂を移し、そこを蜂の飼育場にするつもりです」
「ファロー・ミースか?」

 ランカイドは意外そうにドリアンを見た。

「ワーキュロイから聞いて、調べさせてある」

 調べてもミースがその目論見をはっきり口にしたという確証はない。
 しかし、カルルドを自分の手の内に入れるつもりなのは間違いない。
本人がカルルドに言ったように、トロンビーの研究成果がまとまった時、本当にカルルドとの共同研究として発表するかも現時点ではわからない。研究以外に企みがあるのかもまだわからないまま。

「こちらに引き込むかとも思ったのだが、不明なことも多い。暫くは一線を画して見守ることにした」
「ご心配をおかけします」
「いや、我らは一蓮托生なのだから、むしろこういう相談で遠慮などされては困るぞ。ミースの狙いがわかったらまた対応を考えよう」

 土木士はすぐスートレラ子爵家に手配され、手入れされていなかった別邸の庭は一気に耕された上、こどもたち待望の地下通路も作られた。
 トロンビーの巣を移動させると相談を受けたミルケラが、公爵家と同じように別邸の庭を覗かれないよう背の高い木を外周に植えて。
 庭師が足りないと聞いて借り出されたタンジェントとアイルム、スートレラ家の庭師ジョルスたちで新たな花を植えていく。
今咲いている花を運んで植えるだけではない。
 公爵家からラバンやミンツなどの粒を持ち込み、スライム小屋を建てて、公爵家以外で初めて畑を作ることにした。
 ミルケラが庭全体に半透明の高い屋根をかけ、壁を取り付けて巨大なスライム小屋を建てた。季節の変化にも対応できるように、その中に小ぶりな小屋もいくつか建てる。
水やりの手間が大変かと迷ったが、庭師の一人サジーが水魔法を使えると聞いて踏み切った。

「通常の美しい庭を作るのではありません。季節ごとに花を枯らさないことが目標です」

 タンジェントがスライムの屋根の下をいくつかのエリアに分けてから、今後の予定を説明する。

「おふたりも神殿契約を済ませていると聞いています」

 ジョルスたちが頷くのを確認すると、本題に入った。

「フォンブランデイル公爵家の秘密の育て方を伝授します。準備が整ったらいずれは公開されるでしょうけれど、今は公爵家の我らしか知らないことなので、時が来るまでは口外無用。まあ神殿契約で守られますから心配はいりませんが。そして、この別邸には決められた者以外は決して入れないように。スートレラ子爵家には鍵魔法が使える人はいらっしゃいますか?」
「さあ鍵魔法はどうだろう?」

 ふたりの庭師は揃って首を傾げる。

「ではランカイド様にうかがってみます」

 タンジェントが先を続ける。

「今回は山などからとってきた物を植えますが」

 肩に下げていた鞄から何かを取り出すと、開いた手のひらに小さな粒がこんもりと乗っている。

「それはなんです?」

 ジョルスが顔を近づけ、見つめて。

「これは花のもとですよ」
「花の、もと?」
「そう、土を耕して、この粒を植えると花に育つんです」

「・・・・・・?」

 ジョルスとサジーには理解できなかった。

「これを土に埋めて育てれば花が咲くんです。山に花を探しに行かなくても、咲いた花からこうして粒を集めておけば、次の年にまた蒔けばそれでいいんです。といってもなかなか理解できませんよね。私たちもそうでした。でも大丈夫。粒を埋めて少し待てば葉が出てくるから、それを見ればわかりますよ」

 まだぽかんとしているスートレラ家の庭師たちに、乾燥スライムの屋根について説明を続ける。

「濁りガラスは見たことありますか?」
「はい、うちにもつけています!」

 サジーが少しドヤって答えた。

「ではおわかりだと思いますが、日の光は通します。でも雨が当たらなくなるので、水魔法の管理が必要になります。この屋根や壁が設置された理由は、今説明するのが難しいので季節が変わるときに効果を発揮すると覚えておいてください」

 壁と魔石を取り付ければ温室になったり涼しくしたりもできると話すと、目を白黒させたジョルスとサジーに、タンジェントはいずれまたと話を終わらせた。

「少なくとも三年、私たちふたりが交代で手伝いに来ます。季節ごとに育てるものなどの手配も支援しますので安心してください」

 タンジェントたちが持ち込んだ花を何列も並べて移植し、小さな小屋の中には粒も蒔いた。

「こんな一列に並べて植えるんですか?」

 美しく飾るような植え方とはまったく違うので、納得がいかないらしい。

「ええ、言いたいことわかりますよ、でもこの方が効率的なんです」

 腑に落ちない植え方だとは、タンジェントも経験済みだ。おおいに共感してから割り切らせる。

「私が暫くこちらに逗留して、水の管理を教えます」

 アイルムは別邸の小さな屋敷にこのまま泊まりこみ、粒から葉が出てくるまで水の管理と世話を教える予定だ。
 別邸の屋敷は壊してしまおうとランカイドが言ったのだが、カルルドがここをトロンビーの研究室に使いたいと頼み、先代が住んでいた屋敷を手直しして資料室や寝室、小さな厨房と、庭師たちが住み込める部屋を用意した。
 とはいえ、ジョルスたちはそれぞれ近くに家があるので、当分アイルムやミルケラが手伝いに来たときに使うようになる。

「すごい!こんなになっちゃった」

 エーメとカルルドが地下通路を抜けてやって来ると、あちこち探検し始めた。

「カルルドくん」

 公爵家の三人が手を振っている。

「どうだい?」

 ミルケラが建てたスライム小屋を指して訊ねると、カルルドは満面の笑みで叫んだ。

「すっごいです!」
「なあ、あの小屋なんだ?向こうが透けて見える!」

庭のほとんどを占めた大きな小屋に、不審そうにエーメが言う。

「えっ?そうかな。ミルケラさんが作ってくれたんだし、これでいいんだと思うよ」

 公爵家離れの畑やスライム小屋を見慣れているカルルドはまったく疑わないが、エーメが初めて見る乾燥スライム小屋に違和感しか感じないのはしかたのないことだ。

「あ、家も見たい!」

 カルルドがエーメを引っ張って、ふたりで屋敷へと駆け込んでいく。
ランカイドが取り壊すと言ったとき、すぐにカルルドは残してくれるように頼んだが、家のコンディションがどの程度かは知らなかった。
 ただ。
 シエルドが錬金術の研究室を屋敷内につくってもらって、そこでいろいろ研究や素材鑑定、勉強などしていると聞かされていたのが羨ましくてならなかったのだ。
 ドレイファスの畑やシエルドの研究室みたいな、自分の研究室が欲しかったので、あまり我儘を言ったことがないカルルドが父に強請り倒した。

 ランカイドはドリアンと相談し、土木士に建物を作り直させた。地下通路と建物を繋げるためにそのほうがやりやすかったということもあるが、物置として放置していたために劣化が激しかったから。
 そんな経緯もあり、カルルドの期待を超える屋敷が準備されていて、扉を開けた兄弟は歓声を上げた。

「すごい!全部新しいじゃないか」

 エーメが羨ましそうに、そして少し恨めしそうに言う。

「ほんとだ、すごいなあ!」

 一部屋づつ扉を開けて、中を確認していく。

「ここ客間だ」

 アイルムたちの荷物が扉の前に放置されていたので、ここは触らずに通り過ぎる。

 小さな居間と食堂、繋がる厨房や、執務室のような大きな机とたくさんの棚が設えられた研究室、そしてカルルドが泊まり込みできる寝室。

「本当に秘密基地だな、これ。いいなカルディだけ」

 もうエーメは恨めしさを隠さない。

「兄上にはあっちのおうちがありますよ」

 深く考えずにカルルドが答えた。
そう、嫡男エーメは今の本宅をいずれ継ぐことになる。本来ならカルルドは家を出て、王城で文官などになり領地のない男爵あたりを目指すか、または貴族の一人娘に婿にでも行くのが順当だが、ランカイドはこの別邸をカルルドの仕事場として将来も使えるよう準備していた。
 カルルドのはちみつ事業をスートレラ家の継続的収入にするには、外に出られては困るから。
いずれスートレラ子爵となるエーメの為でもあると説明を受けていたが、実際に目にすると羨ましくてたまらない。

「ほんといいな、カルディ」

 はしゃぐカルルドには、エーメの声は聞こえなかった。

「カルルドくん!」

 荷物を取りにタンジェントが廊下を歩いてきた。

「ミルケラには会った?」
「タンジェントさん!はい、会いました」
「ミルは何か気をつけることとか話したかな?」
「気をつけることですか?いいえ特には」

 タンジェントの視線がエーメに移るのを察し、カルルドが紹介する。

「兄のエーメです、公爵家の庭師のタンジェントさん」
「はじめまして、タンジェント・モイヤーです」
「エーメ・スートレラです」

 別邸で増えていくトロンビーを飼い続けるには、畑が必須となる。トロンビーの飼育をいつまで続けるかわからずとも、いずれ子爵家を継ぐエーメにも注意事項を知ってもらったほうがいいと、タンジェントは切り出した。

「ちょっといいかな、話しても」


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

予約投稿を忘れておりました(汗)
遅れましてすみません。
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