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リーリルハの涙
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「リルハお嬢様、サークリューム伯爵家のミューナご令嬢がお見舞いにいらしてくださっておりますが」
「お会いするわ。支度するのでお待ち頂いてね」
おろした髪を緩く編んでリボンでまとめ、淡いグリーンのふんわりしたワンピースを着て、階段を下りてきたリーリルハの顔色は青褪めたまま。
「まあ、まだお加減がお悪いのですね」
「いえそうでもありませんわ。気持ちもだいぶ落ち着きましたし」
力なく微笑みを浮かべるリーリルハを、思わず抱き締めたミューナは、侍女が茶を運んできたのを機に腰をソファに落着け、今日の出来事を話しだした。
「まあ!リア殿下がそんなことを?」
「ええ、あれほど激怒された王女殿下は初めて見ましたわ」
「そう・・・それで彼は」
「殿下が男爵令嬢を不敬の罪で拘束なさって」
「えっ!拘束ですって?」
「そうなのですわ。ホールズワード様が間に入られて、一度は矛を収められたと思ったのですが、男爵令嬢が王女殿下のことを睨んで怖いとか、食堂如きでガミガミいう王族なんて他国に馬鹿にされるなんて言うものだから」
「はあ?」
リーリルハの口がぽかっと開いてしまう。
「ヤダァ、王女様ったらこわぁ~い!ジュルガー様を睨んでるわぁ!って」
口真似をしたミューナ。
ああ彼女ならやりそうだと思いながら、ミューナの再現力の高さに吹き出すのを懸命に堪え、真顔で会話を続ける。
「嘘でしょう、リア殿下にそんなこと言う?」
「それが言ったのですわ、しかもあの状況で。それが聞こえてしまった殿下が大爆発なさって」
「それで拘束なのですね」
「はい。学内は大変な騒ぎで、Aクラスと食堂の特別エリアは護衛が立つことになってしまったんです」
「まあ・・・・」
それはリーリルハが想像していたより、かなりの大事であった。
「リア殿下には申し訳ないことをしてしまいましたわ」
「リルハ様は悪くありませんわ!再三注意されていたのに、理解されずに同じことをなさったパートルム公爵令息がお悪いのです!気になさることなどこれっぽっちもありません」
「でも・・・婚約者ですもの」
ほろりと涙が頬を伝う。
「リルハ様を悲しませるなんて、パートルム公爵令息はほんっとうにっ!最低ですわ」
散々怒りをぶちまけたミューナは、日が落ちる前に帰って行ったが。
「リア殿下は大丈夫かしら」
普段は抑える訓練をしている感情を、自分のために大爆発させたというリュスティリア王女のことが心配になった。
すぐに手紙を書く。
婚約者の不敬を詫びつつ、王女殿下の御心に深く感謝していると伝えたものを。
次に考えたのはジュルガーのこと。
正確にはパートルム公爵家の心配だが。
名前は忘れてしまったが、何とかいうふわふわした男爵令嬢と一緒に、ジュルガーが拘束されたと知ったパートルム公爵は即城に駆けつけ、リュスティリア王女に謝罪したそうだが。
今頃ジュルガーはたっぷり仕置きを受けているだろう。
「当分は自宅謹慎というところかしらね」
わざわざリーリルハに知らせに来るような暇な者は、たぶんミューナしかいない。
ミューナが来てくれなければ、学院に行くまで何も知らずにいたはずだ。
優しく愛らしい令嬢ではあるが、若干口が軽いところがあり、情報が漏れやすくもあり、得やすくもある。
こういうときは便利な存在だった。
「お会いするわ。支度するのでお待ち頂いてね」
おろした髪を緩く編んでリボンでまとめ、淡いグリーンのふんわりしたワンピースを着て、階段を下りてきたリーリルハの顔色は青褪めたまま。
「まあ、まだお加減がお悪いのですね」
「いえそうでもありませんわ。気持ちもだいぶ落ち着きましたし」
力なく微笑みを浮かべるリーリルハを、思わず抱き締めたミューナは、侍女が茶を運んできたのを機に腰をソファに落着け、今日の出来事を話しだした。
「まあ!リア殿下がそんなことを?」
「ええ、あれほど激怒された王女殿下は初めて見ましたわ」
「そう・・・それで彼は」
「殿下が男爵令嬢を不敬の罪で拘束なさって」
「えっ!拘束ですって?」
「そうなのですわ。ホールズワード様が間に入られて、一度は矛を収められたと思ったのですが、男爵令嬢が王女殿下のことを睨んで怖いとか、食堂如きでガミガミいう王族なんて他国に馬鹿にされるなんて言うものだから」
「はあ?」
リーリルハの口がぽかっと開いてしまう。
「ヤダァ、王女様ったらこわぁ~い!ジュルガー様を睨んでるわぁ!って」
口真似をしたミューナ。
ああ彼女ならやりそうだと思いながら、ミューナの再現力の高さに吹き出すのを懸命に堪え、真顔で会話を続ける。
「嘘でしょう、リア殿下にそんなこと言う?」
「それが言ったのですわ、しかもあの状況で。それが聞こえてしまった殿下が大爆発なさって」
「それで拘束なのですね」
「はい。学内は大変な騒ぎで、Aクラスと食堂の特別エリアは護衛が立つことになってしまったんです」
「まあ・・・・」
それはリーリルハが想像していたより、かなりの大事であった。
「リア殿下には申し訳ないことをしてしまいましたわ」
「リルハ様は悪くありませんわ!再三注意されていたのに、理解されずに同じことをなさったパートルム公爵令息がお悪いのです!気になさることなどこれっぽっちもありません」
「でも・・・婚約者ですもの」
ほろりと涙が頬を伝う。
「リルハ様を悲しませるなんて、パートルム公爵令息はほんっとうにっ!最低ですわ」
散々怒りをぶちまけたミューナは、日が落ちる前に帰って行ったが。
「リア殿下は大丈夫かしら」
普段は抑える訓練をしている感情を、自分のために大爆発させたというリュスティリア王女のことが心配になった。
すぐに手紙を書く。
婚約者の不敬を詫びつつ、王女殿下の御心に深く感謝していると伝えたものを。
次に考えたのはジュルガーのこと。
正確にはパートルム公爵家の心配だが。
名前は忘れてしまったが、何とかいうふわふわした男爵令嬢と一緒に、ジュルガーが拘束されたと知ったパートルム公爵は即城に駆けつけ、リュスティリア王女に謝罪したそうだが。
今頃ジュルガーはたっぷり仕置きを受けているだろう。
「当分は自宅謹慎というところかしらね」
わざわざリーリルハに知らせに来るような暇な者は、たぶんミューナしかいない。
ミューナが来てくれなければ、学院に行くまで何も知らずにいたはずだ。
優しく愛らしい令嬢ではあるが、若干口が軽いところがあり、情報が漏れやすくもあり、得やすくもある。
こういうときは便利な存在だった。
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