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オフクロサマ
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リーリルハとソンドールは、今日もふたりで茶を楽しんでいる。
「ところで学院いつ迄休むんだ?パーティーが終わるまではと言ってただろう。このままでも卒業できるのならいいが、卒業できなくなったら勿体ないぞ」
「あと数日出席すれば卒業できるのだけど、まだメイガーお兄様から連絡がないのだもの」
「ふうむ。俺が聞いてきてやるか?」
「え?いいの?パートルム公爵家に行くのよ」
「いつまでも避けてはいられないからな。一度でも行っておけば敷居も低くなる」
コイント子爵家に今後の相談という名目で兄メイガーが会いに来るようになり、取り戻したとは言わないが、普通に兄弟っぽい会話くらいはするようになった。
小鼻を膨らませ、うんうんと自分の言葉に満足そうに頷くソンドールは、年よりだいぶ幼く見える。
(こういうところを可愛いと思ってしまうのだわ)
くすっと笑うリーリルハを見て、小首を傾げたソンドールはもっと可愛らしくなった。
(むふっ)
じきに辞めることが惜しいほど、鍛えられた騎士は立ち姿も凛々しく、確かに顔の造作はそっくりだが、ジュルガーと並べばその差は一目瞭然だろうとリーリルハは心の中でニヤけている。
「ソンドール様が婚約者で本当によかったわ」
思ったことが口から溢れたことにリーリルハは気づいていない。
満足そうに微笑んだ美しい婚約者を、ソンドールはうれしそうに見つめ返していた。
シューリンヒ侯爵家から先触れを出し、パートルム公爵家をソンドールが訪れたのは翌朝のこと。
「ソンドール!わたくしの可愛い子!」
来訪を知り、出迎えた実母ポリーアが抱きしめようと腕を差し伸べると、ソンドールはほんの気持ち、ちょんとその腕に触れ、サッと飛び退いた。
実母ポリーアは何やら自分に都合よく、ソンドールとの別れの記憶をすり替えたらしい。
父や兄のように潔く詫び、距離を保って接するのは許せたが、まるで自分のほうが悲劇のヒロインのように、大切な私のソンドールなどと言うのは気持ち悪くてたまらない。
「オフクロサマ、ゴキゲンヨロシュウ」
棒読みで挨拶しているところに、メイガーが現れた。
「母上、ニーナが探しておりましたよ。オリーザ侯爵夫人の先触れがあったそうで」
「カリン様から?何かしら」
「さあそこまでは。新しい宝石でも見せにいらっしゃるのではありませんか?」
「まっ!そうね、そうかもしれないわ!」
「母上も新しい宝石を一つ買い求められては?私がドートルの店主を呼んでおきましょう」
(ドートルの店主を?呼びつけるとはやはり公爵家は違うな)
超高級店ドートルは、ソンドールは足を踏み入れるどころか近寄ったこともない。コイントの両親も同じだろう。
実母と兄の会話をぼんやり聞いていると、メイガーがポリーアの歓心を宝石で釣り上げ、自分から引き剥がしてくれたことに気がついた。
「ソンドール今のうちだ」
そう言って袖を掴まれたから。
「悪かったな、誰かが母上におまえが来ることを漏らしたらしい。公爵家の中で秘密を守れぬような者はいらん。探して対処するので許してくれ」
「許すなんて大袈裟だな。このくらいなら構わない」
子爵家にはメイドが一人しかいないので気楽に答えたが。
「それは駄目だぞソンドール。これが極秘の相談なら、出入りが知られただけでも致命的になることだってある!騎士団で護衛ルートが漏れたらどうする?」
「あっ!」
「爵位が高くなればなるほど、家の秘密も増えるものだ。慣れないこともあるだろうが、私も全面的に支援する。シューリンヒ侯爵やリーリルハ嬢に聞き辛いことがあれば、こっそり私に聞いてくれ」
片目をパチリと瞑った兄は、いたずらっ子のようにニヤリと笑ってみせた。
「ところで学院いつ迄休むんだ?パーティーが終わるまではと言ってただろう。このままでも卒業できるのならいいが、卒業できなくなったら勿体ないぞ」
「あと数日出席すれば卒業できるのだけど、まだメイガーお兄様から連絡がないのだもの」
「ふうむ。俺が聞いてきてやるか?」
「え?いいの?パートルム公爵家に行くのよ」
「いつまでも避けてはいられないからな。一度でも行っておけば敷居も低くなる」
コイント子爵家に今後の相談という名目で兄メイガーが会いに来るようになり、取り戻したとは言わないが、普通に兄弟っぽい会話くらいはするようになった。
小鼻を膨らませ、うんうんと自分の言葉に満足そうに頷くソンドールは、年よりだいぶ幼く見える。
(こういうところを可愛いと思ってしまうのだわ)
くすっと笑うリーリルハを見て、小首を傾げたソンドールはもっと可愛らしくなった。
(むふっ)
じきに辞めることが惜しいほど、鍛えられた騎士は立ち姿も凛々しく、確かに顔の造作はそっくりだが、ジュルガーと並べばその差は一目瞭然だろうとリーリルハは心の中でニヤけている。
「ソンドール様が婚約者で本当によかったわ」
思ったことが口から溢れたことにリーリルハは気づいていない。
満足そうに微笑んだ美しい婚約者を、ソンドールはうれしそうに見つめ返していた。
シューリンヒ侯爵家から先触れを出し、パートルム公爵家をソンドールが訪れたのは翌朝のこと。
「ソンドール!わたくしの可愛い子!」
来訪を知り、出迎えた実母ポリーアが抱きしめようと腕を差し伸べると、ソンドールはほんの気持ち、ちょんとその腕に触れ、サッと飛び退いた。
実母ポリーアは何やら自分に都合よく、ソンドールとの別れの記憶をすり替えたらしい。
父や兄のように潔く詫び、距離を保って接するのは許せたが、まるで自分のほうが悲劇のヒロインのように、大切な私のソンドールなどと言うのは気持ち悪くてたまらない。
「オフクロサマ、ゴキゲンヨロシュウ」
棒読みで挨拶しているところに、メイガーが現れた。
「母上、ニーナが探しておりましたよ。オリーザ侯爵夫人の先触れがあったそうで」
「カリン様から?何かしら」
「さあそこまでは。新しい宝石でも見せにいらっしゃるのではありませんか?」
「まっ!そうね、そうかもしれないわ!」
「母上も新しい宝石を一つ買い求められては?私がドートルの店主を呼んでおきましょう」
(ドートルの店主を?呼びつけるとはやはり公爵家は違うな)
超高級店ドートルは、ソンドールは足を踏み入れるどころか近寄ったこともない。コイントの両親も同じだろう。
実母と兄の会話をぼんやり聞いていると、メイガーがポリーアの歓心を宝石で釣り上げ、自分から引き剥がしてくれたことに気がついた。
「ソンドール今のうちだ」
そう言って袖を掴まれたから。
「悪かったな、誰かが母上におまえが来ることを漏らしたらしい。公爵家の中で秘密を守れぬような者はいらん。探して対処するので許してくれ」
「許すなんて大袈裟だな。このくらいなら構わない」
子爵家にはメイドが一人しかいないので気楽に答えたが。
「それは駄目だぞソンドール。これが極秘の相談なら、出入りが知られただけでも致命的になることだってある!騎士団で護衛ルートが漏れたらどうする?」
「あっ!」
「爵位が高くなればなるほど、家の秘密も増えるものだ。慣れないこともあるだろうが、私も全面的に支援する。シューリンヒ侯爵やリーリルハ嬢に聞き辛いことがあれば、こっそり私に聞いてくれ」
片目をパチリと瞑った兄は、いたずらっ子のようにニヤリと笑ってみせた。
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