【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる

文字の大きさ
80 / 81

招待状

しおりを挟む
結婚式が近くなり、ソンドールは僅かしかない使い慣れた家財をシューリンヒの屋敷へ運ぶ準備をしていた。

「もうあと少しだな」

養父ナニエルが寂しそうに呟く。

「今生の別れではないのだから、寂しそうな顔はやめて頂戴」

養母ユミンがナニエルに指摘しながら、自分も涙を溜めている。

「父上も母上も泣かないで。なんなら毎日顔を出してもいいですよ」
「だめよそんなの!これから次期侯爵様の仕事も覚えなくちゃいけないんだから」

ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、ユミンが諌める。

「何処にいても俺の両親は父上と母上だけだから、変な心配はしないで」
「まあソヴ、あなた本当に口が上手くなったわ」
「母上、そこは感激するところだろ!」
「ふっふふっ」

堪らずユミンが笑い始める。
泣いていたために目と鼻が赤いが、それでも久しぶりに聞く朗らかな母の笑い声は、ソンドールの心を解していくのだった。








「本当にリア殿下はカジューン殿下といらっしゃるおつもりなのかしら」

結婚式の招待状の宛て名を、リーリルハが書いている。

「そうだなあ。普通なら来られないと思うんだが、あの人たちのことだからまたお忍びで来ちゃうんじゃないのか」
「・・・ありえるわ」

行動力が異常なカジューンである。

「やっぱりおふたりにもお出ししておきましょ」
「それがいい。来なければそっちのほうがいいが、万一来られた場合、招待状を出していないと面倒だ」
「面倒だなんて」
「いや、あの人たちは招待状のあるなしなんか気にせずに、来たいと思ったら勝手に来る。そのくせ招待状が来なかったとねちねち言うに決まってるんだ」
「リア殿下はそんな方ではないわ」
「いや、カジューン殿下の影響を受けて、になったんだよ!まったくなぁ、あのふたりが未来の国王夫妻かと思うと、仕える奴らが気の毒だ」

散々な言われ方にリーリルハが目を丸くした。

「そんな言い方して!」
「リルハは知らないからな。あの二人が悪戯を思いついたときのたっのしそうな悪い笑みを」
「え?そんなすごいの?」
「ああ。本当に悪そうにふたり顔を見合わせてくつくつ笑うんだぞ」

だいぶ大袈裟だが、ソンドールは二人の王族の脅威を身振り手振りを交え、カジューンの顔真似をして笑って見せる。

「ま、まあ!」

たったいま、カジューンはリーリルハの脳内で、だとインプットされた。

「カジューン殿下は実務能力は高いから治世は心配いらないと思うが、ちょっと時間ができるとろくでもないことばかり考えるんだよ。あの方が面白いと思うことは、こう言っては何だが趣味がよろしいとは言い辛い。目一杯予定を詰め込んで、隙を与えないように働かせないと周りが大変だろうな」
「ま、まあ」

同意してよいものか躊躇いながら、曖昧いな笑みを浮かべて、リーリルハは誤魔化したのだった。


■□■

いつもお読み頂きありがとうございます。

残すところ、あと1話となりました。
最後までどうぞよろしくお願いいたします。

★新作2作のお知らせです★

恋愛もの「あなたを忘れたい」と、ファンタジーの「呪われ令嬢、猫になる」
連載開始しています。

暫く更新をお休みしていた「神の眼を持つ少年です。」も4月2日から日曜更新を再開しています。

こちらもどうぞよろしくお願いいたします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

カナリア姫の婚約破棄

里見知美
恋愛
「レニー・フローレスとの婚約をここに破棄する!」 登場するや否や、拡声魔道具を使用して第三王子のフランシス・コロネルが婚約破棄の意思を声明した。 レニー・フローレスは『カナリア姫』との二つ名を持つ音楽家で有名なフローレス侯爵家の長女で、彼女自身も歌にバイオリン、ヴィオラ、ピアノにハープとさまざまな楽器を使いこなす歌姫だ。少々ふくよかではあるが、カナリア色の巻毛にけぶるような長いまつ毛、瑞々しい唇が独身男性を虜にした。鳩胸にたわわな二つの山も視線を集め、清楚な中にも女性らしさを身につけ背筋を伸ばして佇むその姿は、まさに王子妃として相応しいと誰もが思っていたのだが。 どうやら婚約者である第三王子は違ったらしい。 この婚約破棄から、国は存亡の危機に陥っていくのだが。 ※他サイトでも投稿しています。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。 突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー) 私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし… 断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して… 関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!? 「私には関係ありませんから!!!」 「私ではありません」 階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。 否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息… そしてなんとなく気になる年上警備員… (注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。 読みにくいのでご注意下さい。

この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。

毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。 だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!  愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理! 姉の結婚までにこの家から逃げたい! 相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。

【完結】聖女が世界を呪う時

リオール
恋愛
【聖女が世界を呪う時】 国にいいように使われている聖女が、突如いわれなき罪で処刑を言い渡される その時聖女は終わりを与える神に感謝し、自分に冷たい世界を呪う ※約一万文字のショートショートです ※他サイトでも掲載中

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

処理中です...