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招待状
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結婚式が近くなり、ソンドールは僅かしかない使い慣れた家財をシューリンヒの屋敷へ運ぶ準備をしていた。
「もうあと少しだな」
養父ナニエルが寂しそうに呟く。
「今生の別れではないのだから、寂しそうな顔はやめて頂戴」
養母ユミンがナニエルに指摘しながら、自分も涙を溜めている。
「父上も母上も泣かないで。なんなら毎日顔を出してもいいですよ」
「だめよそんなの!これから次期侯爵様の仕事も覚えなくちゃいけないんだから」
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、ユミンが諌める。
「何処にいても俺の両親は父上と母上だけだから、変な心配はしないで」
「まあソヴ、あなた本当に口が上手くなったわ」
「母上、そこは感激するところだろ!」
「ふっふふっ」
堪らずユミンが笑い始める。
泣いていたために目と鼻が赤いが、それでも久しぶりに聞く朗らかな母の笑い声は、ソンドールの心を解していくのだった。
「本当にリア殿下はカジューン殿下といらっしゃるおつもりなのかしら」
結婚式の招待状の宛て名を、リーリルハが書いている。
「そうだなあ。普通なら来られないと思うんだが、あの人たちのことだからまたお忍びで来ちゃうんじゃないのか」
「・・・ありえるわ」
行動力が異常なカジューンである。
「やっぱりおふたりにもお出ししておきましょ」
「それがいい。来なければそっちのほうがいいが、万一来られた場合、招待状を出していないと面倒だ」
「面倒だなんて」
「いや、あの人たちは招待状のあるなしなんか気にせずに、来たいと思ったら勝手に来る。そのくせ招待状が来なかったとねちねち言うに決まってるんだ」
「リア殿下はそんな方ではないわ」
「いや、カジューン殿下の影響を受けて、そんな方になったんだよ!まったくなぁ、あのふたりが未来の国王夫妻かと思うと、仕える奴らが気の毒だ」
散々な言われ方にリーリルハが目を丸くした。
「そんな言い方して!」
「リルハは知らないからな。あの二人が悪戯を思いついたときのたっのしそうな悪い笑みを」
「え?そんなすごいの?」
「ああ。本当に悪そうにふたり顔を見合わせてくつくつ笑うんだぞ」
だいぶ大袈裟だが、ソンドールは二人の王族の脅威を身振り手振りを交え、カジューンの顔真似をして笑って見せる。
「ま、まあ!」
たったいま、カジューンはリーリルハの脳内で、そういう男だとインプットされた。
「カジューン殿下は実務能力は高いから治世は心配いらないと思うが、ちょっと時間ができるとろくでもないことばかり考えるんだよ。あの方が面白いと思うことは、こう言っては何だが趣味がよろしいとは言い辛い。目一杯予定を詰め込んで、隙を与えないように働かせないと周りが大変だろうな」
「ま、まあ」
同意してよいものか躊躇いながら、曖昧いな笑みを浮かべて、リーリルハは誤魔化したのだった。
■□■
いつもお読み頂きありがとうございます。
残すところ、あと1話となりました。
最後までどうぞよろしくお願いいたします。
★新作2作のお知らせです★
恋愛もの「あなたを忘れたい」と、ファンタジーの「呪われ令嬢、猫になる」
連載開始しています。
暫く更新をお休みしていた「神の眼を持つ少年です。」も4月2日から日曜更新を再開しています。
こちらもどうぞよろしくお願いいたします。
「もうあと少しだな」
養父ナニエルが寂しそうに呟く。
「今生の別れではないのだから、寂しそうな顔はやめて頂戴」
養母ユミンがナニエルに指摘しながら、自分も涙を溜めている。
「父上も母上も泣かないで。なんなら毎日顔を出してもいいですよ」
「だめよそんなの!これから次期侯爵様の仕事も覚えなくちゃいけないんだから」
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、ユミンが諌める。
「何処にいても俺の両親は父上と母上だけだから、変な心配はしないで」
「まあソヴ、あなた本当に口が上手くなったわ」
「母上、そこは感激するところだろ!」
「ふっふふっ」
堪らずユミンが笑い始める。
泣いていたために目と鼻が赤いが、それでも久しぶりに聞く朗らかな母の笑い声は、ソンドールの心を解していくのだった。
「本当にリア殿下はカジューン殿下といらっしゃるおつもりなのかしら」
結婚式の招待状の宛て名を、リーリルハが書いている。
「そうだなあ。普通なら来られないと思うんだが、あの人たちのことだからまたお忍びで来ちゃうんじゃないのか」
「・・・ありえるわ」
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「やっぱりおふたりにもお出ししておきましょ」
「それがいい。来なければそっちのほうがいいが、万一来られた場合、招待状を出していないと面倒だ」
「面倒だなんて」
「いや、あの人たちは招待状のあるなしなんか気にせずに、来たいと思ったら勝手に来る。そのくせ招待状が来なかったとねちねち言うに決まってるんだ」
「リア殿下はそんな方ではないわ」
「いや、カジューン殿下の影響を受けて、そんな方になったんだよ!まったくなぁ、あのふたりが未来の国王夫妻かと思うと、仕える奴らが気の毒だ」
散々な言われ方にリーリルハが目を丸くした。
「そんな言い方して!」
「リルハは知らないからな。あの二人が悪戯を思いついたときのたっのしそうな悪い笑みを」
「え?そんなすごいの?」
「ああ。本当に悪そうにふたり顔を見合わせてくつくつ笑うんだぞ」
だいぶ大袈裟だが、ソンドールは二人の王族の脅威を身振り手振りを交え、カジューンの顔真似をして笑って見せる。
「ま、まあ!」
たったいま、カジューンはリーリルハの脳内で、そういう男だとインプットされた。
「カジューン殿下は実務能力は高いから治世は心配いらないと思うが、ちょっと時間ができるとろくでもないことばかり考えるんだよ。あの方が面白いと思うことは、こう言っては何だが趣味がよろしいとは言い辛い。目一杯予定を詰め込んで、隙を与えないように働かせないと周りが大変だろうな」
「ま、まあ」
同意してよいものか躊躇いながら、曖昧いな笑みを浮かべて、リーリルハは誤魔化したのだった。
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