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第5話
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ボルトン・ノルズの提案は、こうだ。
まず財産の名義を変えることはしないが、土地や屋敷の権利書やすぐには使わない金、貴重品はノルディーン商会の厳重な金庫にて預かり、預り賃と引き換えに、預り証と割符を発行する。所謂貸し金庫だ。
権利書のような書類は何部まで月にいくら、金はいくらまで、宝石何個までと事前に預り賃を決め、それ以上預ける場合は追加料金を支払う。
金庫から出し入れできるのは、預り証と割符を揃え、契約者であるマイクスかマイクスが定めた代理人のみと決めておく。
「預り業か」
「護衛を多く雇うと儲けはトントンかも知れませんがね」
ボルトンは言ったが、損をするようなことならハナから口にはしない。
銀行も遺言書もないため、各家は皆金庫を家に備えて、すべてをその中にしまい込んでいる。
そのため爵位を継ぐ嫡男のいない家では、後継者の準備ができていないうちに突発的に相続が発生した時、当主の兄弟が力ずくで爵位や屋敷の権利書、現金、宝石貴金属といった財産を持ち出してしまうことがあった。
妻や娘のためにと蓄えられていたものが、親族に実力行使で奪われ、正当な相続人のほうがささやかな金を握らされて屋敷を叩き出されることが、本当にしょっちゅうあった。
国に訴えても無駄だ。後継者が決められていなかった場合、直系男子である当主の兄弟が爵位を継ぐべしと判断されてしまう。
女性が爵位を継げない法律が悪いのだが、それを改正しようという動きがまったくない以上、当主代理、主に当主夫人が後継者の養子を決めるまで、財産を屋敷以外のところで安全に保管できるなら需要はある。そうボルトンは考えたのだ。
「うん、考えれば考えるほどいいと思えてきた」
本音が漏れたボルトンに、マイクスが笑う。新しい商売が生まれ落ちた。
「ヒントをくれたシューラ嬢にも感謝しないと。そうだレインスル男爵!この預り業、共にやりませんか?投資してくださいよ」
「いいですね。しかし我がレインスルだけでは弱いだろう。上位の貴族も探しますか」
「ええ、私も心当たりがあります。誘いたい方を見つけたら、声をかける前に私にお報せください。まず徹底的に調べますから」
ボルトンのそれはかなり徹底していると評判だ。安心してマイクスは頷いた。
こうしてノルディーン商会とレインスル商会が手を携え、数日後に新しい事業に乗り出した頃、事態は急転する。
その報せはビジネスパートナーとなったばかりのボルトンからマイクスにもたらされた。
ボルトンは次男スタイスを隣りに座らせ、レインスル商会の応接室でマイクスと預り業の出資契約を交わしている。
「今後、商会や貴族が出資したいと希望した場合は、毎回調査と協議の上で、既出資者全員が賛成したら認める、か。これならすべての出資者に圧力をかけない限り、怪しい者が加わることはできないな。考えましたね」
「ええ、このスタイスの意見ですよ。これは出資者が増えて来た時にはかなり厳しい条件になると思いますが、その分信用度は高くなるでしょう」
「ほお!それは素晴らしい・・・次男殿でしたね?では後継者は別に?」
「はい。長男は今隣国で商談中で、次期商会長です。預り業はスタイスが取り仕切っていくようになります」
「頼りになるご子息が何人もいて羨ましいです」
「何を仰いますか、預り業はシューラ嬢のご発案ではありませんか」
ハハハと、互いの子どもたちを褒めあって笑う父親ふたりを、スタイスは胡乱げに見つめていた。
まず財産の名義を変えることはしないが、土地や屋敷の権利書やすぐには使わない金、貴重品はノルディーン商会の厳重な金庫にて預かり、預り賃と引き換えに、預り証と割符を発行する。所謂貸し金庫だ。
権利書のような書類は何部まで月にいくら、金はいくらまで、宝石何個までと事前に預り賃を決め、それ以上預ける場合は追加料金を支払う。
金庫から出し入れできるのは、預り証と割符を揃え、契約者であるマイクスかマイクスが定めた代理人のみと決めておく。
「預り業か」
「護衛を多く雇うと儲けはトントンかも知れませんがね」
ボルトンは言ったが、損をするようなことならハナから口にはしない。
銀行も遺言書もないため、各家は皆金庫を家に備えて、すべてをその中にしまい込んでいる。
そのため爵位を継ぐ嫡男のいない家では、後継者の準備ができていないうちに突発的に相続が発生した時、当主の兄弟が力ずくで爵位や屋敷の権利書、現金、宝石貴金属といった財産を持ち出してしまうことがあった。
妻や娘のためにと蓄えられていたものが、親族に実力行使で奪われ、正当な相続人のほうがささやかな金を握らされて屋敷を叩き出されることが、本当にしょっちゅうあった。
国に訴えても無駄だ。後継者が決められていなかった場合、直系男子である当主の兄弟が爵位を継ぐべしと判断されてしまう。
女性が爵位を継げない法律が悪いのだが、それを改正しようという動きがまったくない以上、当主代理、主に当主夫人が後継者の養子を決めるまで、財産を屋敷以外のところで安全に保管できるなら需要はある。そうボルトンは考えたのだ。
「うん、考えれば考えるほどいいと思えてきた」
本音が漏れたボルトンに、マイクスが笑う。新しい商売が生まれ落ちた。
「ヒントをくれたシューラ嬢にも感謝しないと。そうだレインスル男爵!この預り業、共にやりませんか?投資してくださいよ」
「いいですね。しかし我がレインスルだけでは弱いだろう。上位の貴族も探しますか」
「ええ、私も心当たりがあります。誘いたい方を見つけたら、声をかける前に私にお報せください。まず徹底的に調べますから」
ボルトンのそれはかなり徹底していると評判だ。安心してマイクスは頷いた。
こうしてノルディーン商会とレインスル商会が手を携え、数日後に新しい事業に乗り出した頃、事態は急転する。
その報せはビジネスパートナーとなったばかりのボルトンからマイクスにもたらされた。
ボルトンは次男スタイスを隣りに座らせ、レインスル商会の応接室でマイクスと預り業の出資契約を交わしている。
「今後、商会や貴族が出資したいと希望した場合は、毎回調査と協議の上で、既出資者全員が賛成したら認める、か。これならすべての出資者に圧力をかけない限り、怪しい者が加わることはできないな。考えましたね」
「ええ、このスタイスの意見ですよ。これは出資者が増えて来た時にはかなり厳しい条件になると思いますが、その分信用度は高くなるでしょう」
「ほお!それは素晴らしい・・・次男殿でしたね?では後継者は別に?」
「はい。長男は今隣国で商談中で、次期商会長です。預り業はスタイスが取り仕切っていくようになります」
「頼りになるご子息が何人もいて羨ましいです」
「何を仰いますか、預り業はシューラ嬢のご発案ではありませんか」
ハハハと、互いの子どもたちを褒めあって笑う父親ふたりを、スタイスは胡乱げに見つめていた。
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