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第8話

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 ズーミー・ソネイル子爵令息には金が無い。ズーミーというよりソネイル子爵家自体にないのだ。
 ソネイル家は家族全員容姿がよい。が、それ故にか派手好きで衣服には湯水の如く金を使ってしまう。
入ってくる金は小さな領地からの収入なのでたかが知れている。どうやったところで足りなかったが、シューラに払わせるようになって以来、贅沢に歯止めが効かなくなっていた。


「ズーミーさまぁ、新しいドレスショップができたのはご存知?」

 可愛らしいアーニャが腕にぶら下がる。

「ロイト通りにできた店だろう?行きたいのか?」
「あったりー!ズーミーさまがアーニャにドレス見立ててくれる?」

 わかりやすくおねだりするアーニャは、これでも子爵家の令嬢だ。と言っても庶子で、二年前に母を亡くして父子爵に引き取られた。そのためどうもマナーや常識に劣るところが見られるが、ズーミーには喜怒哀楽のはっきりしたアーニャと過ごすのが楽しかった。

 しかしアーニャのドレスを見ようというのに、財布代わりのシューラを連れて行くわけには行かないので、どうすればドレス代を工面できるか考え込む。
 レストランの飲食代とドレスでは桁が違う上、さすがにちょっと出しておけとも言い辛い。
 それにレストランなら個室で自分が誰と食事をしようと、シューラを控室に待たせておけば、会計だけ任せることができるが、ドレスショップでは買ってもいないシューラのドレス代というのは通用しないだろう。男性物は装飾品くらいしか置いていないので、どうしたものか。

 暫く思案したズーミーは、ドレスショップで一応シューラにも安いものをひとつ、自分に品質の良いカフスでも買い、アーニャのドレス代をその請求に紛れ込ませ、シューラに回そうと思いついた。

「よし!では・・・明後日なら行けそうだ。迎えに行く」


 ─強く言えば、まあシューラなら払うだろう。金を払うしか能がないんだから─

 そう考えて、小馬鹿にしたようにフッと笑った。


 ズーミーはシューラが嫌いだ。
 数年前まで平民だったくせに、貴族になったとかありえない。貴族はなるものじゃなく、代々その血を守り続けるものだ。
ましてレインスルは卑しくも金で男爵を買った!そんな女と何故自分が!

 そう考えて、酷く蔑んでいた。

 アーニャも母親が平民の元メイドなのに、その矛盾に目を向けることはない。
 貴族の血が半分流れるアーニャと、貴族ではないシューラの違いはズーミーのなかで都合よく分けられていた。
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